第124話「私は寝ますので。お外でやってください」

 ダンジョンは作るまでが大変だ。

 神の世界でネゴを取って、裏調整をした上で面倒な申請である。

 縦割りな社会なので横連携するにもお作法があり、急に話をもっていくと激怒される。何処の国のお役所なのだろうか……。

 ストレスが溜まってちょっと先輩にお酒をたかr……驕ってほしく思った私、そう世界安定部レベル19課課長の神宮寺です。皆さんお久しぶりです。

 いやね。本来であればマーちゃん先輩の視線なんだけどね……。あの人、もうベットの上で熟睡中なのですよ……。なので私の視点で色々見てもらいたいと思います。

 あ、いいのいいの。本来のお仕事で少し忙しかったので、息抜きにもなりますので、そのあたりはご安心を。……そうね。その仕事も先輩の無茶ぶりですけどね……。やっぱりウナギぐらいなら驕ってもらってもよさそうだ……。

 ふぅ。とにかく、世界を管理する神々は世界へ干渉するのにも慎重である。

 下っ端が気軽に世界に干渉すると、それは権能の管理をしてる上級神に影響してしまうからだ。下手なことをやらかしたらそれこそ、2級神以上の会議で晒上げられるのよ……。こえーのってなんの。

 とにかく、ダンジョンを作るのは、要するに【あの】世界の魔法力を調整する意味もあって、世界の権能、特に【あの】世界に関する仕事が多い、魔法神様系列の部署に申請がいっぱーい……、はぁ……、必要なのだ。

 色々話を通してざっと10年。

 そこでようやくダンジョン建設許可を得られる。

 その後それぞれの神々に従属する下級神の間で建設地の調整が行われる。

 これにさらに10年。

 こうして色々な面倒ごとをクリアしてできたダンジョンは、御察しの通りそれぞれの神の権益が絡みついている。なので、めったなことではお取り潰しされることはなかった。そう【かった】。過去形である。

 だが最近、とある幼児の問題行動のおかげで、放漫ダンジョン運営が日の目を見てしまい面倒なことに監査が行われるようになった。……という事で先程、ダンジョン管理22課の課長につかまって延々と愚痴られた。そして地上土産をねだられた。……あとで食べようと残しておいたチーズケーキが……。

 さて、そういう事でダンジョンはこれまで【作るのは大変。でも、作ってしまえば神もその配下であるダンジョンマスターがある程度適当にしてもつぶされずにいられる】、最低既定のノルマさえ超えられれば問題になる事もない。人間の街にあふれ出てしまっても特に問題視されない。寧ろ適度な試練と流されるのが通例である……いや、【であった】。過去形である。

 そう、まーちゃん先輩がやらかすまでは……。

 気分で3つのダンジョンを破壊してしまったまーちゃん先輩。そのやらかした後始末を誰がどのようにしたのか。それは、あの【寝取られダンジョンマスター】が、取りつぶされて空いた【ダンジョン維持における世界への影響力】をまとめて行使したのです。そう前代未聞、広大な都市型ダンジョンを建設し始めたのだ。

 もとより人間との親交に忌避感のなかった彼は、これから政治・軍備を整えて魔王国より独り立ちしなければならない状況にあった、【あの】共和国首脳と魔王国代表を丸め込み、訓練施設を兼任したダンジョン都市計画を打ち上げたのだ。すでに計画地は整備され着々と計画は進んでいる。

 それを見た神々はダンジョンの新たな方向を見た。

 つまりは最低限のノルマしかクリアできていない【人類に見放された】ダンジョンの統廃合。

 それまでの実績が上がらなくても、ダンジョンマスターはある程度の魔法力浄化措置として実績をあげていれば大目に見られていた。だが時代は変わった。神の世界はどっかの大企業と同じでトップの決断でそれまでの、こだわりやら、伝統やらはあっという間に吹き飛ぶ。本来改革を嫌う傾向のある縦割り社会だが、2級神以上のトップ方々が決断すると錦の御旗を得たように、途端に壁がなくなり共通の目的を有した身内になり、そして改革もスムーズに進んでいく。

 現在各ダンジョン管理課から世界安定部の他部署に、ヘルプの要請が盛んに飛んでいる。上が決めた方針もあり、そして他課に恩が売れるということもあり現在自分が勤務する部署は毎日がお祭り状態であった。


「課長、ダンジョン統廃合の件、32課から話がありましたので行ってきます」

「はいはい。気を付けてー」

「なんでもダンジョン内部に神殿計画があるらしいんですよ。面白そうです!」

 色々課題がありつつも自分の部下である、レベル管理課の亜神達もどこか楽しげである。

 そー言えば、先輩のお連れさんの衛君と香澄ちゃんとミリアムちゃんが廃止予定のダンジョン最深部に向かっていたね。あそこは……E評価か……ぶっちゃけ潰してもらえると楽だな。どうなってるかな……。


「やーーーーめーーーろーーーよーーーー!」

 下界に視線を移すとE評価のダンジョンマスターが涙目で叫んでいた。


「俺のダンジョンは鍾乳洞の狭いのが売りなんだよ! 拡張工事とか余計なお世話だから! 補強工事としてこっちにサムズアップしなくていいから!!!!」

「俺達は楽しんだけど、鍾乳洞型のダンジョンってないわー」

「確かにね。ゴテゴテした鎧を着てるハンターが多いのに狭くしてどうするのよ」

「アレですね。馬鹿なんですね」

 衛君、香澄ちゃん、ミリアムちゃん。それぞれ辛辣である。そして視線が冷ややかである。


「くそーー! 次に何あるかわからないドキドキ感がたまらないんだよ! 女にはわかんねーんだよ! ロマンなんだよ!!」

 ロマン過多で成績を出せていないのではE評価。残念なマスターである。


「俺達だからよかったけど、狭い通路抜けてサプライズモンスターってふつう死ぬわ」

「狭い通路で衛君と密着……ぐふふふふふふふふふふふふ」

「サプライズは面白かったけど、バランス悪いかったのです」

 女子3人それぞれ追い討ちをかけます。


「バランス……そうか、バランスか……」

 あー、君。気付こう。案山子たちが鉱石の採掘量とか調べて『このダンジョンないわー』とか『薬の原材料栽培に向いてますね、湿度と魔法力量が中々……』とか『新種のキノコ発見しました!』とか好き勝手やってるよ?


「あ!」

 気付いたようだ。


「ちょっ! なんで最終守護者倒してるの!」

 そっち? 3人に瞬殺されたの見てなかったの?


「あと! なんでそんなに解体の手際いいのよ???」

「「「……」」」

 体が自然とモンスターをさばいている血も滴る良い女3人。

 まーちゃん先輩の洗脳である。先輩、恐ろしい子……。

 困惑する3人ですが共和国での経験から手が自動で動く。


「あ、不味い! コア守らないと!!」

 ……うん。時すでに遅し。


「毎度です。ダンジョン管理32課っす。ダンジョン廃棄処理に来たっす」

「ええ! ダンジョン管理課の人? 廃棄って何? ダンジョンは神から保護された領域だよ?」

 作ったら廃棄されないと胡座をかいていたのでしょう、情報収集を怠っていたようです。


「えーっと。ダンジョン管理規定が1カ月前に修正されてるっす。全界通知されてるっす。で、D評価以下で踏破されたダンジョンは権限のはく奪及び、マスターは天界での非常勤奴隷としてお仕事が待っています。あ、踏破者の皆さん、こちらにサインを、ええ、コア破壊の代わりにこちらの粗品が……はい、お疲れ様です。それと……えっと、そちらの方々、こちらの放棄地は好きに使っていただいて結構です。はい、これも踏破特典です。どうぞご自由に、あっ、当分の間モンスター多めに産出されますのでお気をつけ……え? 喜んでる……ま、好都合だからいいか……」

「おーーーーーーーーーーーーい! なんも聞いてないよ! てか、人間達! なんで笑顔で手を振るの! てか! 非常勤奴隷ってなに!!!!!」

「サボった亜神には強制労働の刑っす。自業自得っす。では地上の皆様おさらばでございま……あんた何を……」

 ダンジョン管理32課の子が仕事を終えて大地に手を当て、高出力の神気をダンジョンマスターが放っていた。


「種を蒔いた……僕を馬鹿にした人間よ。後悔しろ!」

「はい、刑期追加いただきました! では、地上の人たち……ふぁいと!」

 うわっ、やなもの見ちゃった。

 力の向き先もわかっちゃったよ。

 新型モンスターの素体に注いじゃったよ……うわっ、汚れた魔法力も混ざって変なのになってる……。

 どうしよう……。見なかったことにしようかな……。

 ……うん、まーちゃん先輩に丸投げ(ほうこく)しよう! えっと。


『異世界宗教の魔法師にダンジョンマスターの力が流れちゃったみたいって他部署から聞いたっす。まーちゃん先輩の近くだから気を付けてね(テヘペロ)』

 よし!誤魔化した!という事です業務に戻ります。皆さん、またね!


カクヨム+α

「zzz」

「おい! 斧持ってこい!」

「リーダー()をとめろ! 目が正気じゃねー!」

「マシューの仇!!!!」

「魔法剣士が槍、持ってるぞ! 気を付けろ! すっぽ抜けるぞ!」

「お前ら!!!!!!!!!!! シュルレ! 貫け!!!! ………………(パキン)…………………………シュルレ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「穂先が飛んできた!!!」

「だから(後ろに)注意しろと!」

『(ガチャ)うるさいです。強制的に黙らせに来ました』

「立て看板をもった案山子が……1体……2体……3体……いやいやいや! ドンだけ出てくるんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

『(ドカッ、看板で殴る音)うるさいです』

「zzz」

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