第123.5話「皆さんカルシウムが足りないのでしょうか(裏)」
反政府組織。
歴史は古く聖王陛下が眠りにつかれた時より我らは活動している。
反政府とは言うが決して破壊活動や世論誘導し、体制を崩壊させ、自分たちの利権を求めているわけではない。
不甲斐ないことに現在、政(まつりごと)を預かる執政府が頼り切っている……【偉大なる先達】の皆様を解放するためだ。祖先たちの過ちをただすために、不死の秘術を行使した【偉大なる先達】の皆様が、未だ国の為に身を粉にしている。現役世代の我々としては情けない限りだ。この状況を打破しなければ。聖王陛下への忠誠は我らも持っている。それを証明しなければ。その様な思いが結集した組織である。
かく言う私もその思想に感化され、この秘密組織に所属している。
私の生まれは辺境の子爵家である。
4男として生まれ、成人し、家を出、王都で役に付きお国に家に貢献する。そんな人生である。そのことに不満はない。末の子供とはいえ貴族として平民よりも恵まれた生活をし、学を得た。育ててくれた組織から禄(ろく)をいただき貢献できるのはこの上ない栄誉である。
故に、組織の思いに共感してしまうのだ。
いつまでも【偉大なる先達】に頼ってしまってよいのだろうか? と。
我らは既に長い時間を経て社会体制も整い、独り立ちできるだけの能力がある。
だが、【偉大なる先達】は軍事政治の中枢で未だ身を粉にして貢献していらっしゃる。【偉大なる先達】の思いはわかる。崇敬する聖王陛下が目覚めた時、陛下が愛したこの国が崩壊していないように。変わらず陛下をお迎えできるように。
不死の集団。朽ちない体。朽ちない忠誠。
その姿を見るたびに我ら今を生きる陛下の臣は思うのだ。もっと心穏やかに陛下をお待ちいただかなければ。我らが独り立ちをし少しでも【偉大なる先達】が背負う、本来であれば我らが背負うべき重しを背負わなければならない。
その為、我らは現状の政(まつりごと)を行う体制に反対する。
長年この組織が運営されていたが、その様な機会に恵まれなかった。
しかし好機が訪れた。
魔王国経由で重要人物が我が国へいらっしゃる。
そして魔王国と接する領を管理する、我らの仲間である、辺境伯の邸に宿泊する。
農業指導の名目でいらっしゃるその方は、まず国情を知るということで辺境伯領内を見て回るり、お知恵を授けていただける予定の為だ。
好機である。
その御仁には悪いが一度拉致させてもらう。
その為に苦渋の決断だが異世界宗教の力を借りた。
我らが知る魔法では気取られてしまう。異世界宗教の魔術も必要最小限に収め、協力者である辺境伯邸の隠し通路を活用し、魔王国経由で来た重要人物を拉致した。
傷はつけない。しかし、吊り橋効果というやつは狙われせてもらおう。国として不利になるのは最小限にしたい。【偉大なる先達】の方々がこの失態で政の一線からお引き頂けたとして……。その結果、国が崩れてしまっては元も子もない。
異世界宗教の連中は【あの聖王陛下の王弟陛下をたぶらかした】当時と同じく、紳士に我らに共感する様に接触してきた。知っている。我らの賭けに乗り、共犯関係になる事でこの後の国の中枢に、裏から潜り込もうとしているのであろう。しかし、残念ながらことが成功しようが、失敗しようが、お前らの運命は決まっている……。
「なんで子供……」
重要人物の作業に区切りがつき、油断が生まれたところで拉致を決行した。
ターゲットの部屋にいたのは幼児だった。幸せそうな表情で高いびきをかいていた。寝返りをうってお腹をかくその姿は幼児に似つかわしくない。
「この方で間違いございません。薬を使います。運搬をお願い致します」
私は複雑な気分で幼児を運んだ。
運んだ先は異世界宗教が用意した異世界人の遺跡である。
この地は2千年前の異世界人保護が盛んな地であった。当時は親切な隣人の皮をかぶって政治の根幹に侵入するような輩はおらず。今では考えられないのだが【共存共栄】を築いていたのだ。
その名残の地。今では異世界宗教しか知らぬ地、その奥深くに用意された薄暗い簡易牢獄に運び込むこととなった。
そこは何もない石造りの牢獄。私とその部下たちは持ち込んだ毛布と板で簡易ベッドを作成し幼児を寝かせた。
私は一旦緊張感から解放され、ドッと疲れが出たのか控室に下がるとそのまま寝入ってしまった。
「拉致したお方への朝食ですが……」
一同で朝食を取っていると部下がそっと声を上げる。
重要人物として拉致した幼児。心細くて泣いているであろう幼児。
初めに会い慰め、取り込む事をしなければならない。それもこちらが上位であるとわからせるために高圧的にだ。
その場にいた全員が発言者から視線をそらした。
我が部下ながら善良な奴等である。
……仕方ないので私がその役を行う事とした。
・・・
・・
・
「何だあれは!」
「……まっ魔王国から重要人物として扱われる方ですから……」
然り。だが納得できん!
「そもそも簡易ベッドが、原型をほんの少し残しているかどうかわからないレベルで豪華になっているというのは何だ!」
「……そうなんです?」
流石に驚愕する部下。興味を持った者たちが早速除きに行っているようだ……。
「はぁ? 大理石の床になっていた??? 何言ってるんだお前? 古ぼけた石牢だろ?」
「俺も訳が分かりません……」
全員で覗くと優雅に紅茶を片手に休憩している幼児が居た。
部屋は煌々と光が灯され、壁も白く清潔感のある空間、ところどころに植物が飾られている。
朝見かけた作業机は実務に特化した形のままだが……。そういえば、作業机はどこから持ち込んだ?
「一旦引くぞ……」
部下たちと顔を見合わせ控室へ引く。
「なんか……この部屋で生活するのが惨めに……」
部下が言いかけて口をつぐんだ。あれだけ豪華な部屋を見せつけられてはそうだろう。
「これは不味い。飴と鞭でこちらとの共犯関係を誤認させるつもりが、このままでは魔王国からの介入を許してしまう……」
その後どれぐらいの時間であっただろうか、我々が話し合いをしているとどこから現れた異世界宗教がこんなことを言う。
「持っているのであれば奪えばいいのです。奪い、それを慈悲として与えればいいのです。一石二鳥ではありませんか」
異世界宗教は善人の笑顔を見せる。気持ちの悪い笑顔だと思った。
しかし、あまりのことに動揺していた我々はその案に乗ってしまった。
時刻は昼過ぎである。
牢へ降りていくと幼児はベッドで眠っていた。
作業音が無ければ本当にどこの貴族の……いや王族の牢獄だろうかと思わされる豪華さである。
私達はそっと音をたてぬように牢獄の入口へと近づく。
ガチャガチャ
内側からカギがかかっていた。
……はぁ?
ヘ(゚д゚)ノ ナニコレ?
「鍵が増設されていますね」
知ってる。それじゃない。なんでこれが内側から掛かってるのかという事だ。
「あの……」
部下がそっと一枚の立て札を差し出してきた。
『寝ています。起こさないで』
……。
「鍵の横に掛かっていました……」
……。
おい、魔法剣士。やれ。
「え? やりすぎじゃないですか? 幼児も起きてしまうのでは?」
「……いいからやれ……」
なめられてはこの作戦が終わってしまう。
【偉大なる先達】の方々に要求をのませ、引いていただくためにも……。この幼児を篭絡せねば……。我らの槍と盾になってもらうため、幼児には我らの恐怖と親愛の情、両方を感じてもらわねばならぬ。
「いざ……」
国一番の魔法剣士が剣に魔法を宿すと一旦目を閉じ集中力を高める。
私たちはそっと周りを空け、魔法剣士を注視する。
パキン
金属が断ち切られる音と共に金属片が飛び散る。
「まじで……」
魔法剣士から漏れた言葉である。
振り下ろした剣はまるで【ガラスの剣を振り下ろした】様に、衝撃に耐えきれずきれいに折れ、後方に飛んでいった。
「うぉおおおおお。刃物が飛んできた! 刃物が!!!」
「俺の5年分……」
魔法剣士がワナワナと震え挙動不審になっている。折れた剣が飛んでいった先にいた部下も挙動不審になっている。
「俺の5年分……」
だから高額な剣を買うなと……、消耗品なのだからと言ったのに。
「う、うーん……、よく寝たのです。もう15時なのですね。皆さん丁度良いところへ起こしに来て頂いてありがとうございます。さて作業を続けましょうかね。あ、リーダー(童貞)さん。夕食は案山子が用意してくれますので、私の分は大丈夫ですので……食料ご安全に!」
幼児はチョコンとベットから降りると訳の分からないことを言って(`・ω・´)ゞをすると、そのままトテトテと作業机に座り朝行っていた作業を始める。
「俺の5年分……」
私は涙目のままの固まる魔法剣士を引きづって控え室に戻るのだった。
「石牢を切ることはできないのか」
「無理っす。傷をつけることは可能ですが……」
「我が愛剣マシューよ……」
根元から奇麗に折れた剣を悲しそうに見つめる魔法剣士。お前そこそこ高給取りなんだろ? また買えばいいじゃないか?
「私がマシューを手にするのにどれだけの困難を乗り越えたと!」
「あ、すまん。」
「すまんじゃ済みません! あれはとある貴族が所有しているという名剣を見たときのことです!」
……長話が始まった。
「という事で私はマシューと運命の出会いをしたのです!」
狂気をはらんだ瞳の魔法剣士を止めることもできず、我々は今出会い編を聞いている。そっと部下の1人が教えてくれたが、出会い編、修行編、試練編、奥義編、成功編の5部構成であるらしい。
「あの美しい肢体と身に纏う豪華な鞘! なんとしてもマシューを手にしたいと思った私は!」
という事で何とか相槌を打ち短縮版で2時間半。聞き終わった私たちは次の手を打つことにした。
「全員準備はいいか?脅すだけだ。だが相手を侮るなよ……」
私たちは各々長槍を持ち牢へ降り立つ。
この長槍であれば牢の端まで届く。如何に固い錠を掛けようが牢である限りこれは有効だ。
「ははははは! 幼児よ! 俺達をなめていたようだ「♪~♪~♪~♪~♪~」」
私のセリフの途中で天井から、何処か実家を思い出させるような懐かしい音楽が流れてくる。
そして……。
ガガガガガガ
牢の手前から鉄の板が下りてくる。
『本日のご来店ありがとうございます。本日のマーちゃんの営業は只今をもって終了となります。お帰りの際はお気をつけてお帰り下さい』
「♪~♪~♪~♪~♪~」
ガガガガガガ
何故だか牢の中から幼児が手を振っている。
あっけにとられる私たちの前にその鉄の板は地面まで下り切る。
『マーちゃんず牢屋。営業時間9:00~18:00。土日祝日休業』
色々ある。
営業? マーちゃん? 鉄の板は何だ? それよりも何よりも……。
「ご来店ってなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
『ナイスつっこみ!』
天井から幼児の嬉しそうな声が響いた。
うがあああああああああああああああああああああ。
カクヨム+α
「……ん?この曲は異世界の曲ですかって?いえ、グルンドの音楽家の曲です。不思議なこと聞く案山子さんですね。……どこかから悪意の波動を感じたのですか?うん。それもうこれ以上触れてはいけないのです」
「……」
「ええ、定例報告会は明日ですよね」
「……」
「ああ、宰相様との通信ですか確か文字通信端末を渡していましたね……何々?」
『報告受けたよー、無事?』
「中々良い性格の方ですね。えっと……」
『無事(^0^)/』
「さてごはん……あ、返信来た」
『安心したでござる。あ、ちな。反体制派に協力した異世界宗教の過激派追い込んでm9(^Д^)プギャーしてる♪もうちょっとそこでかくまわれててね。メンゴだよ~(´∀`)』
「ちょ、早い。早すぎだよこの人。声出せないのがどんだけストレスだったんでしょうかね……」
その後ご飯を食べようとしたところで都度都度長分割素早い返信をしてくる宰相さんとのやり取りが続くのでした。
「……」
「あ、怒らないでください。冷めないうちに味わって食べるのです。だからお膳下げようとしないで~~~~」
何故か案山子に縋りついて懇願する私が居ました。
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