第122.5話「憎いのは異教ではなく異宗派2」

「という事で紅葉狩りなのです!」

 死の国西部のとある大きな町での夕食後の事です。

 一緒に食事をしておりました死の国聖騎士団の団長が、私の発言に目を丸くしております。

 禁忌の術を行使し不死の呪いを受けたせいで、青白い肌と表情を動かせず声も出せないはずの人なのですが……、目を丸くしております。

 そしてアタフタと森の危険性を伝えております。熊のようなしぐさや蜘蛛、ドラゴンやトラ、色々してくれますので逐一拍手をしていると、ギギギと音を立てて勝さん一号と権三郎を観ます。『保護者の方、オタクの教育方針どうなっているんですか?』といわんばかりに。声を出せ無い方々なので、正に目が口より雄弁に語っているのです。


「大丈夫なのです。山奥で小型ダンジョンが放置され、こちらの地域が困ったことになっているのは調査済みです。ですので!」

 専用椅子から立ち上がり腕を振り上げると、そっと椅子を支えているミリ姉が見えます。

 そうですよね。ミリ姉もダンジョン興味ありますよね!

 そういう御歳ですよね!

 10歳超えたら1ダンジョン踏破!

 我が家の家訓にしましょう。


「……何でしょうか。悪い予感しかしませんわ。でも、私の任務には支障がないような予感がします……とりあえずお茶を飲んで静観とさせていただきます」

 私が腕を振り上げる、その様子を見たティリスさんでした。

 ヴァリアンスさんがいた時はツンデレ乙女でしたが、今はツンしかありません。

 ……しかし、それもまた需要ありです。


「心配無用、マイルズの事だ何か策があるのでしょう。寧ろモンスターの心配をした方が良いのでは?産業が一個なくなるやも知れませんよ?」

 地元のフルーツから作られたお酒を、何やら別なお酒で割りながらメモをしていた勝さん一号が、騎士団長さんとその隣で冷や汗を大量に流しているこの地域の領主様に視線をやり方をすくめながらそう言います。


「……あ、ダンジョンなれば問題ございませぬ。あれは今や害しか生んでおりませんので……」

 領主様。そんな時こそこの幼児におまかせあれ!


「地域に迷惑をかけていたあの! ゴミ屋敷、じゃない不良ダンジョンがあら不思議!!」

「ゴミ屋敷言ってしまったな?本体よ」

 乗り気な勝さん一号、目が守銭奴の目をしていますよ? 教国のビジネスはそんなに美味しかったですか?


「ダメよ」

 そのまま押し切ろうと私が画策していると、ウズウズしながら腕組みをしていたミリ姉が反対の声をあげます。

 領主様と騎士団長さんがあからさまにホッとした顔と空気を出しています。

 ミリ姉の横でストレス解消の場を狙っていたマモルンが驚きを隠せていません。


「なぜですか?」

「危なそう、特にマイルズ、あなたの行動が」

 ムムム、その確信を帯びた言葉遣い祖母に似てきたのです。


「危なくないのです。私は本陣で守られているのです。何より、地域の迷惑であるゴミダンジョンを討伐! 地域住民大喜び!」

 領主様と騎士団長を見ると『そりゃそうですが』と認めています。


「そして発掘される素材も、勝さん一号のビジネスで有効活用!」

 勝さん一号は別件の資料を見ながら親指を立てます。


「また最近ストレス過多で胃が荒れていたマモルンのストレスも解消!」

 マモルンは興味がない様なふりをしていますが、久しぶりにステッキを取り出しメンテナンスを始めています。


「死の国と王国との関係性もアップ! 言うことなしです!」

 領主と騎士団長に幼児の笑顔を発射。お2人共何故か怯んでいました。そして数秒後小刻みに首を振り始めます。

 領主様あなたは話せるのですよ? 騎士団長に毒されていませんか?


「マモルンさんと香澄お姉様だけでは攻略に時間がかかるのではない?王都で待つ宰相様に失礼でしょ」

 領主様と騎士団長は大きく頷いている。

 ミリ姉、あなたはいつからそんなにしっかり者になってしまったのですか?

 私は知っています。

 私を女装させるためにお化粧を勉強し始めたり、ドレスをこしらえようと衣類系の商人さんとコネを作ったり(自分ででき無いことは有利な条件を整えて他人にしてもらう素晴らしい成長です)、幼児用リードを持ちたがったり、欲望に忠実だったではないですか?

 素直になりましょう。無駄にお姉さんになることはないのですよ?


「なんか不快な気持ちにになった。やっぱりマイルズは目を離すと何をしでかすかわから無いから、アレ、着けようかなー」

 ノー!


「大丈夫なのです。私は、何もしませんし護衛の皆さんもマモルンと香澄ちゃん以外は動か無いのです。ですが! その代わりに案山子を派遣するのです! 実績ありなのです!」

 ミリ姉が胡散臭そうに私を見ます。


「大丈夫なのです! 竜人学者のお肉さんが発掘したいと言っていた地域の岩石を使えば300体ほど作れるのです! 発掘作業も進んで一石二鳥なのです!!」

 領主様と騎士団長は目を覆う。完璧すぎて反応できなくなったのでしょうか?(確信犯)


「どうせ、農業指導のために各地へ調査派遣するところだったのです、遅かれ早かれなのです!」

「……」

 もう1押しのようですね。

 

「ミリ姉も攻略に行けるんですよ? もりもりに盛りまくった装備……試して見たくありませんか?」

 はい、結果です。

 ミリ姉と案山子小隊とマモルンと香澄ちゃんのパーティーでダンジョンアタック。

 ダンジョンにエレベータを作った私は、遺跡発掘現場で案山子を量産しています。

 鉄人677号行くのです!

 ……はい、そうです。みなさんの予想通り人権破壊兵器を着せられております。


「これはいいものね……」

 リードを持つティリスさん。ヴァンリアンスさん、ご愁傷様です。頑張ってください。私からはそれしか言えません。


「幼児よ! みよ! この装置を! 6割型残っているが全く何の用途なのかわからん! これぞ遺物! 萌えるであろう!」

「ロマンなのです!」

 面白そうなものを片手に寄ってくる竜人学者さんに、近寄ろうとダッシュします。

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「素晴らしい」

 ティリスさんがピンと張ったリードを見ながらこぼすと、監視&護衛の領主様と騎士団の皆様が頷いております。

 ……酷くない?


カクヨム+α

「おお、明かりの少ない系の洞窟型ダンジョンか! 燃えるな!」

「燃えますね! マモルン!」

「ダメよ、マモルン。暗いからって……小さい子が見ているわ」

「あれはなんですか?マモルン」

「香澄の発作だ。気にしないでやってくれ……」

「……何?内緒話?お姉さんも混ぜて」

「あ、私は見てません。香澄お姉様。そこにいい感じの岩陰がありますよ」

「え?うられた!?」

「あらミリアムちゃんはいい子ですね。ではあちらで防音結界張って休憩して参りますね」

 引き摺られて行くマモルンと上機嫌な香澄を笑顔で見送りつつミリアムは呟いた。

「女同士って噂に聞いていたけどあるものなのね。勉強になるわ」

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