第122話「憎いのは異教ではなく異宗派」

「ふぉー、紅葉なのです!」

 一面に広がる黄色と赤に彩られた木々が行く手を彩ります。


「マイルズ、あまり窓に近づかない。あぶないでしょ」

 ミリ姉に抱えられて座席の中央部に戻る私。

 いえ、馬車の両サイドには勝さん一号と権三郎が並走しております。危ないことはないのですが……。

 久しぶりに私を抱き上げてミリ姉が満足気です。山間の少し寒い地方に来たので肌寒いのでしょう、体温の高い幼児を湯たんぽ替わりとは……。


「衛君」

「いやです」

「衛君」

「いやです」

「衛君」

「いやだっていってんだろ? 今俺、女の体だし!」

 がんばれ人柱君! じゃなかった衛君!

 世界平和は君の手に掛かっている!!

 そのために強化改造もしておりますし……。


「なんかぞわぞわと寒気がした……」

「いけない! 温めてあ・げ・る(はーと)」

 感がいいのことで墓穴を掘りましたね。

 さぁ、諦めるがいいのです。

 この叔父さんの様に……orz。






変態王子の南方諸国記録ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ふぅ」

 手元の書類から目を離し椅子の背もたれに体重を預け思考を一時的に放棄し、私はここ数日働き詰めであった脳に休息を与える。


「……またか……」

 休息に入って30分と立たないうちに外が騒がしくなる。

 私は機密書類をまとめると、それら、が入室してくるのを待った。


「カクノシン王子! あの方との通信はできますか?」

 ドアを開いてすぐにいつもの様に女性が叫ぶ。グンニル王国女王アニータだ。

 巷では『その美しさは月の女神』『その賢さはまさに賢王』と歌われる女性である。


「あの方の美声を今日もお聞きできるのです。この時間が私の生きる糧!」

 本物はこの通り権三郎殿への愛に狂った女子である。ふむ、悪くはない。寧ろその狂い様が良い方面に結果として出ているのだから。

 本来であれば先日の戦をもって、生き残れば更迭という名の隠居、死んだとしても周辺国家に混乱をまき散らし本国拡張の足掛かりを作る気でいたのだ。どちらにしても一線より身を引くつもりだったらしい。


「……」

 そんな彼女の後方では執事が生き生きしている彼女を微笑ましく見守っていた。

 実は今回の計画を持ち出した女王アニータだが計画が議会で可決された後のことを知らない。

 なし崩し的に弟に実権を譲位しようと計画していたことはこれまで数百年、帝国残党に苦しめられて経験から優秀な執務能力がある議員達に見抜かれており、弟を中心に領土拡張よりも姉に今回の功績を擦り付ける計画が進められていた。その為、戦争に参加した数か国にはすでにネゴシエーション済みであった。なので、あの戦争をもって身を引く彼女の計画はどの道うまくいかなかったのである。


「カクノシン王子よ。邪魔するぞ」

「……はぁ……」

 続けて神聖ラダー王国バルバロス王とユングリア共和国大統領だったダンダバ、現ユングリア王国ダンダバ王が入室した。側周りの者どもが優雅に礼を取り退室するとなんとも特異な4名がこの私の執務室に残された。

 陽気に権三郎殿のことを想い頬を染める20歳の英雄王女アニータ。

 狂った主君を殺し自らを悪として国を治める野心家、今もいとし子とのつながりで何かができるのではないかとぎらついているバルバロス王。

 民衆のクーデーターにより短期間で腐敗しきっていた議会が倒され、ようやくお役目から解き放たれたと一時晴れやかな表情だった。が、すぐさま国元から国王の打診をうけ、否、元教え子や弟子からの懇願を受け、嫌とは言えない状況に追い込まれ王となって以降どこか陰のある表情のダンダバ王。

 そしていとし子との触れ合いが最近めっきり少なくなって表情が亡くなったと評判の私、変態王子ことカクノシン・ムサシ・デネルバイルが6人掛けのテーブルに着く。

先程まで山と積まれていた書類は片付けてある。


「早速状況から確認していこう」

 私が告げると流石は大陸南西を代表する強国の王達、その瞳に鋭さが宿る。


「まずは王国の情報だが……」

「公爵も元王妃の叔母様も、王家に伝わる禁書について知らなかったようです」

 アニータ王女が即座に答える。


「であるなら、あの善人面した元国王ですね」

 ダンダバ王がチラリと隣に視線を送る。


「聖王国に亡命しているあの者をならば、儂から使者を送ろう。そうよな『愚者を差し出すか、死か』とでも伝えよう」

 悪くはない・

 先日の戦争にて終結した王達は知っている。

 バルバロス王が簒奪者ではあるが、それのみではない事を。

 彼の王国に工作員として送り込んだ反体制派をいとし子のカカシ部隊を使い排除した手腕は軍事力と外交力のバランスをうまく取っている証である。これをみて猪武者が偶然と思う者はいないだろう。

 故に、数日の後には王が拷問室に送られる事だろう。


「続いて遺物の調査についてだが……」

 私がいとし子からこの地の平定を任されたのには複数の意味が存在する。

 その中でもひときわ大きな案件がこれである。


「異世界人の遺跡……数百年の昔、各王家がその力を利用し覇を競ったという代物……」

 ダンダバ王はもうこれ以上のトラブルはこりごりとばかりにため息を吐き出す。


「我が祖国より1つの伝承が報告されております」

「儂の方は案山子軍団が実物を発見したようだ」

 ダンダバ王とバルバロス王。


「私の所は5代前に廃棄されていますね。中核部品は宝物庫にあったようです」

 かつてこの世界の中核へアクセスを試みたという異世界人の遺跡。

 それがこの南西諸国に眠っている。

 私は亜神からもたらされた情報を元に国を動かしている。

 これは亜神にとっては取るに足らぬ遺跡なのかもしれない。

 だが、いとし子が望む。ならば得ねばなるまい……。


カクヨム+α

「さて、会議の時間なのです! あれ?権三郎いやそうなのです?」

「いえ、少々苦手と申しますか……」

 頑張れアニータ女王!

 

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