第121話「とある宗派の禿親父」

☆ ☆ ☆

「ムライ、今日もせいが出るな」

「ええ、この歳でまだ半人前ですからね。頑張らねば」

 私は力こぶを作って頑張るアピールをします。

 どうも、一般人の村井浩二(36)です。

 中年太りした私ですが、こう見えても樵だったりします。

 元の世界ではそこそこ偉い役人をしていたのですが、気付けばこの世界です。

 私が居た世界は大戦の後復興目覚ましい時代で、色々と物があふれ始めた時代でした。

 それが何の因果かこちらの世界。

 文無しでこの世界に放り出された私は、とある宗教団体に拉致されました。

 元の世界でも有名な宗教なので安心したのですが……。

 どこも組織が大きくなると黒いものは出る者ですね。というか、窮地に立たされて本性が出たのか、こちらの世界に来た宗教団体は真っ黒です。一部白い方もいらしましたがほぼ黒いです。人間牧場とか耳を疑いました。

 ……さて私ですが……。

 こちらの世界に移り発見されまして……。宗教団体に施術され、【命の危機】とやらを乗り切ったのですが……、如何せん怪しすぎます。

 なので組織内で使える人材としてアピールし、複数回任務をこなし、信頼を得た後で、私はこっそり神殿に参りました。審査を担当してくれた神様は目を丸くしておりました。まさか本当に2重スパイを請け負ってくれる人間が、現れるとは思わなかったようです。

 白の一派は皆、懺悔し罪を償って終わりだそうで、協力依頼をしても『仲間を売れません。あんな組織でも異世界の同胞を保護しているのです……』とか言うらしいです。まぁ、腹芸一つ使えなさそうな白の一派はそうでしょうね。それに彼らは既に教団中枢からマークされています。教団幹部である白の一派首領【節制】への人質だそうです。そう、殺してしまっていないのです。教団はなんだかんだといってお優しい。あと、彼らの様な善人がフロント組織に居ないと裏がうまく動けないというのもあるのでしょう。

 戦前はよくあったのですよ……。ん? 歳が合わない? 何をおっしゃるのですか! 私は永遠の36歳ですよ! こんな紳士を捕まえて歳の話をするなど無粋な方ですね。


「7分禿のムライさ~~ん」

「何ですか、つる禿のファフリ君」

 生意気な丸坊主が向かう先の職場から手を振る。

 ん? 頭が何ですか? 男らしく私は隠したりかぶったりしません。

 私の相棒(髪)とは世界移動の際に多く、お別れしてしまったのです……。

 相棒(髪)の代わりはもうありません。なので私は被らない主義なのです!

 さて生意気な坊主は職場の相棒です。

 この世界面白いことにスキル制度というものがありまして、一度手にした技能はめったなことでは衰えない。しかも、どの程度努力が実ったのかは数値でわかるという非常の優しい世界だったりします。

 ですので、現在私が所属している会社では、スキルの近い者集め、そこに高いスキルのリーダーを充て、リーダーの指示の下作業に当たります。

 本日は私とリーダーと生意気な坊主との仕事になります。


「ムライさん! 先日はありがとうございました! 教えていただいた方法で彼女ができました!!」

「え?」

 酔った勢いで適当にしゃべったのですが……『確か当たって砕けろ、10位砕けて初めて縁がなかったと思え』とか言った記憶があります。通常3~4回目でつきまとい行為で警備団のお世話になるはずなのですが……。


「ん? どうしたんですか? まだ額の後退度は7分ですよ? 8分までまだ少しです! 安心してください!!」

 気にしていません。というか君はお家のしきたりとかで、剥げている人に慣れているとはいえ……、長年生活を共にした相棒(髪)を失う日常を過ごす人(私です)に無神経すぎやしませんかね?


「はっはっはっは、ファフリ。リリちゃんと付き合えることになったとは言え、浮かれすぎだぞ。上さんに逃げられ、頭の髪さんにも逃げられたムライさんの気持ちになれ」

 そうなのです。寝起き枕元で逝っている相棒(髪)を何本見送ったと思っているのですか……、それよりも。


「リーダー、上さんと髪さん。素晴らしいジョークでした。ナイスセンス」

 そっとリーダーに握手を求めます。素晴らしい駄洒落、もうそのセンスに思わず脱毛です髪の毛だけにね。ぷぷぷ。


「……いや、狙っていったわけでは……というかそんなにツボにはまった? ねぇ? 俺の顔みて思い出し笑いとか……微妙に嬉しくないんですが」

 年の頃は20後半。高身長でイケメン。筋骨隆々でスキルも高く、同時に給料も高い。嫁と子供が3人。リーダーの人生はまさに順風満帆。


「おお! そういうギャグだったんですね! さすがリーダー! で? どこが面白いんですか?」

 間髪入れずツッコミ(拳)を入れられるファフリ君は10後半、お家事情でツル禿とは言え整った容姿で、彼の世代では随一の美人と良い仲になれた。こちらも幸福な人生を歩んでいる。

 それだけに申し訳なくも思っています。

 きっと、このあとの私の任務に撒きこまれては少なくない被害は受けるのですから。

 私は申し訳なく思いながらも仕事に向かいました。

 その日の夜、煽って置いた過激派が潰れ、ついに彼の御仁がこの国へ入国したとの報を受け身震いするのでした……。


マイルズの視点ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「貴方たちは事前の打ち合わせ通り辺境領都へ戻り、ヴァンリアンス様旗下に入りなさい」

「「「「はっ!」」」」

 屈強な指揮官たちが敬礼で返します。

 そして彼等は私の前に来て同様に敬礼をして去っていきます。

 最後尾にいた女性将校の方が、私の前でそっとかがんで飴ちゃんをくれました。彼女は将来有望な方です(確信)。


「みなさん、お気をつけて~」

 私が手を振るときびきびと行軍していた皆さんが、バラバラに振り返り手を振り返してくれます。いい人たちですね。でも軍隊でそれは懲罰ものでは? あ、将校の皆さんが率先して手を振ってるからいいのか。


「さて、では本来の護衛たるティリスさん私たちはこれからどうすればよいのでしょうか?」

「……。実は死の国の最高戦力……死の聖騎士団が迎えに来てくれております……」

 ティリスさんが死の国側の森をみます。……ええ、知ってますよ。別れに気を使ってか森に身を隠している一団ぐらい。

 なんとなく反応に困った私はとりあえず笑顔で手を振ってみます。

 すると死の聖騎士団の皆様はぎこちない笑顔を作りながら各々手を振り返してくれます。


「表情を失った最強騎士団から笑顔を引き出すとはさすがマイルズ殿……」

 ティリスさんに褒められました。

 ふと思います。

 現在の旅のお供は以下の皆さんです。

 『過保護に覚醒した』権三郎。

 『護衛なのか?たまにいなくなる』勝さん一号。

 『隙を見て逃げ出すけどいつも捕まる』衛君。

 『衛君捕獲率100%』香澄ちゃん。

 『幼い天使は外皮、暴君な姉』ミリ姉。

 『保存食(竜人学者)』デス・ガル。

 『国の恋人が気になる任務放棄気味』ティリスさん。

 『表情を失ったけどぎこちない笑顔はできる』死の聖騎士団←new。

 無事に旅が続けられるでしょうか……。思えばヴァンリアンスさんは常識枠だったのかもしれません。


「私も常識枠だ。安心するがいい本体よ」

 だまりなさい兼業護衛って何ですか?あなたが一番頼りないです。

 という事で私たちは死の国に足を踏み入れたのでした。




カクヨム+α

「儂も常識枠だが……」

「初登場が空腹のあまり正規軍を盗賊団と見間違う方がですか?」

「うぐ……」

「あと、貴方からは【学者馬鹿】というオーラを感じます」

「くっ……的確よ……確かに村ではそのようなレッテルを……」

「正当な評価です」

「ま、まぁそれはよい(良くないが、それはいずれじっくり挽回してまいろう)。それよりも【保存食(竜人学者)】ってなんだ? ふつう逆じゃ? って逆でも困るのだが……」

「(にっこり)」

「え、何それ怖い……」

「(満面の笑み)」

「いやいやいや。一応儂人間種の一角!」

「(アルカイックスマイル)」

「やめて! いらぬ方向に喧嘩うらないで!」

「とにかく。竜は半年に一度のごちそうなのです! 竜人さんはお肉さんなの?」

「断固として違う!」

「違うの……(がっくり)」

「いや、そんなあからさまに庇護欲を誘うような哀愁纏われても、儂肉じゃないから!」

「わかりました。保存食さん」

「やめて!!!! 肉から離れて!!! そして幼児の姉もおいしそうなものを見る目で儂をみないで! 何この一家! 怖い!」

 そのよ竜人学者デス・ガルドは遺跡で発掘作業中に嬉しさのあまり出てしまった尻尾を姉弟に美味しく調理される夢を見て跳ね起きたのだとか。


「トラウマ級だよ……」

 頑張れ竜人学者!

 もっと頭よさげなアピールをしてくれ!


「え?」

 え?

(次話へ続く!)

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