第120.A話「死の国へ6」

「マイルズ殿、お呼びかな? ……これは魔王陛下、無礼平にお詫び申し上げます」

 扉が開かれ、彼らの出身国では王のみに着用を許された色を、王としての正装を、身に纏った王子様が現れた。

 そして王子様はその場に膝をつき、頭を下げて魔王様に対する。

 魔王陛下という天上人を前に、固まり、礼もできていなかった辺境貴族たちが慌ただしく、次々と王子に続く。それはまるで王子様の臣下のようでした。


「……。マイルズ……。人が悪いな……」

 焦って自分も頭を下げる辺境伯に苦笑いを浮かべながら、まおー様は私にだけ聞こえるくらいの小声で言います。

 ん? 私は筋書き通りやっているのですよ?

 望まぬ形で吸収した東部、その治安を懸念していたのは、まおー様です。

 それを人間の国家を使って纏め上げる。その切欠を提供しようという幼児心(ようじごころ)なのです。


「おお、貴方は若きディールケ王ではないか! うむ。頭を上げて下され。一国の王が頭を下げる者ではありませんぞ」

 はっはっはっはと笑う、まおー様。

 ここで『御立ちください』といわないところが黒いのです。

 ……今アイコンタクトで『立たせたら大国のメンツ丸つぶれやないかーい!』といってます。

 そうなのです。国と国とはメンツとメンツの争いなのです。

 そして神王国と魔王国、獣王国はこの大陸で最大の国家。そのトップがおいそれと他国のトップを同列に扱う事は出来ないのです。


「ありがとうございます。若輩の身故、魔王陛下威光まぶしくつい……」

 王子も狸なのです。


「しかして我が身、お恥ずかしいことに既に王にあらず……」

 悔し気にうつむく王子様。これは本音の様です。


「……ディールケ共和国ですな……」

 いいです! いい感じに上から目線の悪者感出てます! まおー様!

 ……『カッコいい? カッコいい? 妃にも伝えて! 俺のカッコよさ!』ってアイコンタクトで言っています。

 台無しです。

 なのでこう返答しました『しっかりリィおねーさんに伝えておきます!』

 ……固まるまおー様。

 お妃さまには湾曲して伝わるでしょう。

 しかも、現地の人ではなくリィおねーさんから伝わるので、否応なく嫉妬心に火が付くはずです。リィおねーさんと魔王妃様は仲が良いままですが、やるかたなしのその嫉妬心はまおー様に八つ当たりされることでしょう。

 ……。

 幼児笑顔!


「……っく」

「?」

 魔王の渋い表情を会場にいる者たちは『ディールケ共和国の悪行に心を痛める魔王陛下』と取り違えます。やったね! まおー陛下!!


「……何でもない。しかしディールケ共和国など、我が魔王国は承認しておりませぬ。故に国として成り立っておりませんな? あそこは我が魔王国の認識ではディールケ王国という認識ですぞ」

 共和国、国じゃなくて【テロリストに占拠された地域】認定きました!

 これは昨今暴れまわったテロ組織と同じなのです。

 新たな国とは、民があり、領土があり、そして何より周辺国家の【特に大国に承認】があって成り立ちます。

 アメリカの南北戦争をアメリカ人は内戦といいますが、南部ことアメリカ連合国は国際的に承認されていたのであの戦争は、北部のアメリカが侵略により占領した『侵略戦争』だったりします。

 国際的な商人とは何か? 南部ことアメリカ連合国は、当時の大国フランス等から正式に承認を受けていたからです。

 さて、話を戻しましょう。

 この大陸で西部最大国家は獣王国と魔王国です。

 特に魔王国は位置的に中央に近いこともあり、情勢が不安定な中央国家たちは魔王国への仲介、戦争や通商交渉など重要事項で魔王国を頼り、魔王国もまた隣接国家の暴発に目を光らせるためにも真摯に対応してきた。

 その結果この魔王国東部の様な、国家運営に貧窮した国家が魔王国への併合を求めてき、救済する形で広がった、領域になります。


 という事で、わかりますよね?

 東部の貴族は元諸国の王、辺境伯は皇帝、まおー様はその上に君臨する神(笑)なのです。

 その神(笑)が、東部貴族からすると自分達よりも下、平民よりも下、無様に這いつくばるべき下種な種族、人間という種族の王、しかもその位を追われた者、と思っていた王子を一国の王として扱い、親しそうに話をしている。そしてすでに奪われたであろう彼の国を、正式な国家として認めている。これが何を意味するのか。


「そういえばディールケ王国は桃の季節ですな……」

「陛下」

「ん、どうした?ダーェット……」

「陛下の御心このダーェット承知いたしました。近いうち必ずやディールケ王国の桃を献上いたします」

 どうやら樽魔族さんも意図を読んでくれたようです。

 これにて樽魔族さんは錦の御旗を手にしたのです。

 東部、軽く視察しただけでも元王国ごとに派閥争いが激しかったのです。

 その隙に割り込もうと王子たちが暗躍していたようですが、如何せん人間差別の酷いこの地方ではうまくいっていなかったのでしょう。

 ヴァンリアンスさんとティリスさんをお迎えするこの場でも、その様なギスギスした空気がありました。

 そんな彼らは魔王国中枢の上位者である御2人が私を守るために訪れたという事実を知り、憤るでしょう。

 そして当然の様に私へ無礼を働く。

 それは東部貴族たちの首が物理的に飛ぶような事態です。

 それを起こしたのがこの地域の統治者である樽魔族。

 短い時間でしたが東部貴族たちは冷や汗をかいたことでしょう。

 何せ権三郎だけではなくヴァンリアンスさんとティリスさんの殺気もとんでもなかったので。

 そこに現れたのが魔王陛下と私の紹介で現れた王子様。

 貴族たちは彼の望みが何かを知っています。

 そして魔王陛下は王子様の国を認め、現在の共和国を否定しました。

 それが何を意味しているのか……。

 魔王陛下が直々に収めに来るほどの重要人物、その人物が押した王子。

 これまで無視してきた、酷い貴族は矢を射かけたりしたのでしょう。

 そんな者たちが、辺境伯を代表として私に対して行った無礼。

 これは辺境伯だけでなく、この場に居る貴族全ての連帯責任になりかねない事態です。

 しかし、魔王陛下は王子の復権を願い、辺境伯がそれに追随する。

 そのことで魔王陛下の怒りを収め、次期魔王候補最有力ヴァンリアンスさんとティリスさんの怒りも収められる。

 だからそれに必要な軍を、領地を、役職を再編して東部を安定させる。

 魔王陛下のご威光という御旗をもってディールケ王国を正当な持ち主へ戻し、彼らは武功を忠誠を見せる機会をえる。


「ダーェット、そして東部の勇士たちよ。義と魔王国を誇りを胸に励むがよい」

 まおー様がチラチラとこちらを見てます。

 私は勝さん一号をみます。

 勝さん一号はヤレヤレといった表情で魔王様に近寄ると、転移魔法で魔王様を職場に戻していきます。

 さて、残されたものの反応は2つです。

 一つ、転移魔法というとても高価な手段を使ってまでこの東部に関わってくれた魔王陛下への尊敬。

 一つ、偉大なる魔王陛下を顎で扱った私たちへの畏怖。

 それぞれいい感じに働きそうです。

 で、ダーェット辺境伯何かお言葉を。


「樽とおよびください」

「この地方の特産物と作物を紹介するのです。それでチャラなのです」

 数日滞在します。

 楽しみです♪


カクヨム+α

「リンゴですね」

「リンゴだな」

「ポッペですよ」

 渋いリングなのです。という事は加工食品。


「イングランドなどでは甘いリンゴは好まれないとか……」

「アップルパイに適さないという事ですね」

「と言い出すと思って焼いてきた!」

 衛君が大皿にアップルパイを持って現れます。

 そのエプロンドレス。もうひとかけらの違和感もないのです。

 きっと少女漫画であれば背景に花が咲いているのです。


「衛君最近存在感無かったけどその家事スキル何処から!?」

「まーちゃん甘いわね、私の衛君はスイーツだけは! 天才的に上手なのよ」

「……だけ……」

 落ち込む衛君の後ろからでかいだけが取り柄の竜人が現れ……。


「おお、美味そうではないかどーれ1口……うむ! 美味い!」

 ……お?


「マイルズ……」

「ええ……」

「無言で武装するのは……幼児よ何故光っておるのだ?」

 今日は美味しいお肉が入荷予定なのです♪

 ……逃げても無駄なのです……。


「うん美味し♪衛君の私への愛があふれているようだわ!」

「美味しいけど、そんなものはあふれていないよ?」

「美味しいわ。でもヴァン様のケーキも負けなくてよ?」

「いや、僕は趣味の範囲だから。お菓子が好きな女の子には負けるから」

「お、おんなのこ……」

「あ、衛君の眼が死んでしまった。……お持ち帰りのチャンスね( ̄ー ̄)ニヤリ」

 その後、自棄になった衛君が夕食にまでアップルパイを持ち込み、胸やけを起こしました。美味しいけど限度があります……。


「楽しみなものを横取りした事謝罪いたします」

 お肉さんは素早い謝罪で事なきを得た。それだけを記載いたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る