第107話「ウッサレベルアップします」

「神宮寺様。伺いたいことがございます」

 先ほどまで娘に全身を撫でられ、息が荒かった神獣様。

 別室で神樹様に責められ、満足気に戻ってきた神獣様。


「マイルズ殿。心の声が駄々漏れです。そして儂の威厳ボロボロです」

 ん?神宮寺君と同じポジションに落ちた人に、威厳とか尊厳とか……あるはずがないのですよ?何を仰っておられるのでしょうか……。

 大きなクエスチョンマークを浮かべる私に、苦笑いの神宮寺君と神獣様。

 それはさて置いて現状この場は、30超えたいい歳の大人(神宮司君)が白い子犬(神獣様)の前で正座している図です。

 内容は4級神様と5級神様のお話です。


「……おっほん。気を取り直しまして……」

 白い子犬(神獣様)が私を見なかったことにしたようです。


「ごめんね。まーちゃん駄犬が無礼で」

 私を膝の上にのせ、ご満悦の結婚神様が、私を撫でつつ言います。

 白い子犬(神獣様)が凍り付くのが見えます。


「ごめんね、まーちゃん。あの駄犬、今度異世界に左遷するから、許してあげてね」

 恋愛神様はいいこと思いついたとばかりに、手を打つ。

 この場にギースさんとウッサそして神樹様はいらっしゃいません。

 儀式があるとかで、準備の為に別室へ向かわれております。


「あ、いえ……そのー、私一応西大陸の守護神なのですが……」

 ぎこちない動きで向き直る白い子犬(神獣様)が恐る恐る申し上げる。


「駄犬。たかだか5級神が私たちの許可なく発言ですか……良い度胸です」

「駄犬。先ほどの儀式も、なんだか駄犬の方が目立っていました。姿を見せないお手軽演出のくせに、生意気です。そして駄犬に連なる眷属を復活させてあげたのに……、礼の一つもないのは……、いかがなものかと大人として……、思います」

 黙って土下座の神獣様。


「重ね重ね御無礼を……」

 踏まれる犬(神獣様)。

 ちょっと喜んでます。

 尻尾振ったらだめですってば、神獣様。


「……とにかく、神宮寺様。責任とってもらいますよ?」

「ええっと、何のことでしょう…………」

 頬をかく神宮寺君と、怒れる神獣様(子犬)。

 まるでどこかの携帯会社のCMにしか見えない。

 あれもお父さんだったっだな。


「改めてお聞きしますが……、何の責任でしょうか?」

 おおっと! ここにきて義父≪おとうさん≫に向かって大胆チャラ男発言だ!

 解説の恋愛神様いかがでしょうか?


『求婚を受けて置いて、あれはないですね……下っ端というより、くず男ですね』

 ほっほう。ウッサが求婚していたのですか?

 その辺りいかがでしょうか、専門家の結婚神様。


『はい、神獣並びに獣人類にとって【得物を異性に食べさせる】行動は、求婚を意味します。そして食べたら成立なのです』

 あれ? 私、獣人の人々に結構食べさせていますが……。


『成人前は無効です』

 なるほど要チェックですね。

 勝さん一号(ハーレム野郎)にも伝えなければ……。


『ああ、まーちゃんの片思い可愛い♪』

『ええ、まーちゃんの一途さにドキドキします♪』

 不名誉な話をされていますが、反応はしないでおきましょう。

 ドツボな予感がします……。

 さて、解説と専門家が大きく脱線してしまいました。

 問題の現場に再度視線を戻すと、怒れる神獣様(子犬)が、怒りながらテシテシと神宮寺君を叩いています。


「という事で娘はあげません!」

「あ、はい」

 ……………。


『恋愛上手!(くず男)キタ――(゜∀゜)――――――――!』

『義父≪おとうさん≫のお怒りが倍増しましたね。最悪手です! 神宮寺……じゃなくて最低下っ端男痛恨のミスです』

 はい。彼の会社の先輩として、私は関係ない事を主張します。

 無理矢理仕事にたとえると、取引先のグループを統括するオーナー一族、その会長の愛娘に手を出した挙句、結婚目の前で両親にご挨拶時に『結婚? しませんよ? 本命いますし』とか言っちゃった感じです!


「さて恋愛神様、結婚神様、あちらでギースさんのプリンを頂きましょう(棒)」

「わーい、おいしそー(棒)」

「えー、でもー、(チラッチラッ)」

 最後に結婚神様が神宮寺君を見ます。

 神宮寺君もそれに気付き、アイコンタクトで『助けてください』と送ってきています。

 そう5級神と4級神の立場であれば抗議もできます。

 しかし、はるか上のお立場の2級神である結婚神様のお言葉であれば、どんな理不尽な言動でも、異議を申し立てなど持ってのほかになるのです。

 笑顔の結婚神様。

 神宮寺君は図らずも巻き起こしてしまった【娘を嫁に出す直前の義父≪おとうさん≫の怒り】が収まる……かもしれない、治めてくれるかもしれない、細い希望に縋りついている。そんな目をしています。

 結婚神様はタップリと貯めて……。


「やったー、まーちゃんぷりん♪」

 落としました。

 結婚神様えげつなっ(笑)


『さすがお姉さま、そんな貴女に憧れます』

『どうせこの儀式が過ぎればあの子も大人になるのですから、下っ端君もここらで腹を決めるべきだと思うの……』

 本音は?


『あれだけ利用して、都合のいい女扱いって、屑もいいところ。年貢は治めるべきだと思う』

『ああ、言いそう【単純な善意だと思ってました。良いお友達だと】とか言いそう。鈍感は犯罪だと思うの。でも鈍感は少量ならいいスパイス』

 でも見た目的にウッサは6歳ですが。


『生まれて千年よ、あの子』

『亜神昇格も百年前果たしたし、奥手な性格さえ直せばこの儀式を経て見習い神として異世界に行くと思うよ』

 …………………………( ゜Д゜)ハァ?

 脳が再起動し、色々伺おうとして時の事でした。

 笛の音の様な落ち着いたリズムの音楽が鳴り響き、神宮司君と神獣様のせいで安いコントのような空気だったその場が一転、一気に頭の先から足の先まで、ピンと張り詰めるような緊張感を促す、荘厳な雰囲気に支配されました。

 自然、全員の注目がウッサたちが出ていった両開きの巨大な扉に集まります。

 ……何故ならば、笛の音がそこから聞こえてくるからです。

 巨大な扉は重厚な音を立ててゆっくりと開かれ……ませんでした。


「ばーん! と開いて即登場! それが神樹の流儀なの!」

 元気よく娘を連れ立って現れた神樹様。その後ろに控えているのはウッサでした。

 ウッサは白無垢姿でした。

 御着物がきれいです。

 思わず拍手した私を横目に、逃亡を始めた神宮寺君。

 しかしながら簡単に結婚神様に捕まり、優雅に叩き伏せられてしまいます。


「ほら、行くの! 未来の旦那をゲットしてくるの!」

「はい!」

 可愛らしいウッサが、何とか結婚神様の目を盗んで起き上がろうとしてる神宮寺君に飛び掛かります。それを神宮司君が咄嗟に受け止めると、その場が神々し迄に光に包まれました。


「お婿さん、ゲットなの!」

「娘はやらん!」

 吠えた神獣様ですが、残念ながら神樹様(本体)のツタに絡み取られて逆さづりになります。


「……で? 何ですかあれ?」

「「「レベルアップの儀式(結婚の儀式)!」」」

 私の疑問に神様3名が良いお顔で答えてくれます。

 といいますか、別なワードも聞こえた気がしました……きっと気のせいでしょう。


「……見た目は変わって見えませんが?」

「神様の価値は中身(力)で決まるの! あの子は儀式を経て神になったの! めでたいの!」

 神樹様の回答でした。


「私の眼には依然、ロリコンに見えますが?」

「以前はその通りです。変態下っ端とロリだったよ」

 恋愛神様が回答して結婚神様がそれに続く。


「以前は神様の間でも問題視された【ロリコン神宮寺君】……じゃなくって【ロリコン下っ端】だったのよ」

 もういっそ清々しいほどの楽しんでいるお2人…………。


「これにて、我が娘の婚約の儀式は成ったの! 世界中の眷属たちよ! 貴方達に祝福を上げるの! 今日という眼でたい日を祝いが良いいの!」

 神樹様は力の限りに叫びます。

 世界に連なる信徒たち、自分の部下たる精霊たち、そし天界で活動する部下の神々へ。…………はい、既成事実完了です。ていうか、やっぱり結婚の儀式も含んでいましたか。

 神宮寺君を見やると、泣きそうな目でこっちを見て「まーちゃん先輩助けて」というので仕方なく「おめでとうロリコン紳士」ととどめを刺しておきました。

 こうして全世界に新たな祝いの日が誕生したのでした。


カクヨム+α

「あれ? 神獣様はどちらに行かれたのでしょうか?」

 ふと神獣様がいなくなったことに気付いた私は、周りを見回します。


「バウ(呼んだ?)」

 あいえ。呼んでないです。お引き取りを。

 その後どこを探しても神獣様はいらっしゃらず。

 本体の方も消えてなくなっておりました。


「まーちゃん。男はひっそりとお酒を呑みたい日もあるのよ。察してあげるのがいい女よ」

 結婚神様、私、男です。


「強がる幼児! いいです」

 恋愛神様。私を抱えていかないで! え? 筋肉の偉い人がケーキを焼いてくれた? 行きましょう! ん? 犬? 残念私は猫派だ!


 レッツゴー! ケーキ! いぇーい!


「いいわ。このアンバランスな幼児的欲望に忠実な部分最高!」

「これだけでご飯3杯いけます!」

 奇麗なお姉さまから聞いてはいけない部類の発言があったのですが、まーちゃん自動フィルターで聞かなかったことにしてケーキにありつきました。


「ケーキ美味しい! ついでに神宮寺君おめでとう!」

 満足して寝ました。

 いい日でした。



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