第106話「神獣様と神樹の関係4」

 気付いたらそこは筋肉であった。

 わけがわからない?私もわからない。何故こうなった……。

 その筋肉は、ハートが沢山プリントされた小さめのエプロンを着て、ずいぶんと小さく見える寸胴鍋の前に立っていた。


「ふんふんふーんふん♪」

 何の歌から知りませんが、鼻歌をうたっています。

 ……気分が悪いので二度寝しようと思います。


「お、坊主起きたか。お前の手紙にあったカステラ作ったぞー」

「おはようございます!」

 二度寝?悪習ですね。すぐさま直すことをお勧めします。


「まーちゃん、おはよー。挨拶したのにスルーして二度寝されたけど、今はお目めぱっチリだね♪」

 早速私を抱えたのは、中学生ぐらいの身長で金髪のボブカット、エメラルドの瞳の木製の肌を持った神樹様でした。……間違いありません。私が全力を注いで神樹様の根から作成した分身体です。

 基本技術は案山子魔法 + まーちゃん2.0テクノロジーと、最近神様との交流得た神樹様が使う力、神気とでもいうのでしょうか。彼らが多用している力の流れを動力源にしてみましたところ、一気に私の魔法力を削られました。


「神樹様、マイルズよりレシピ提供のあった、ふわふわカステラにございます」

「わーいなの!」

 私を抱えたままテーブルに走る神樹様。あ、専用チェアがあるようなのでそちらに置いていただきたいのですが……。


「私は世界の母なる樹なの♪ この湧き上がる母性は止められないの」

 ……ウッサ、嫉妬のまなざしを向けるのはおやめなさい。

 幼児相手にはしたないですよ。……ん?違う?どういう事でしょう?

 ……取り敢えず神樹様のお膝の上でカステラを頂きます。


「しっとりふわふわ食感なの♪ うん、人間形態の分身体を1万年前に破棄しちゃったけど、勿体ない事してたの♪」

「妻よ。我にもらえぬか」

 我々は半円のドーム形状になっている一室に居ました。

 神獣様はその巨体から中に入れない様で、神獣様の顔だけ扉からこちら物欲しそうな顔を向けています。


「そのサイズだと食べすぎるの。貴方も分身体持っているのだからそっち使うの!」

 言われてしょげる神獣様は大きなわんこ様でした。

 とても西大陸の守り神様に見えません。

 そう神獣様は西大陸一帯の世界の安定を司る神です。

 モンスターの暴走時は体を張っりますが、人類の戦争時は不介入を貫きつつも、裏で権力者に神託を降ろして調整をしたりする苦労人です。

 尊敬すべき神様なのです。が、今は拗ねたお犬様です。

 お犬様は少しの間『ぐぬぬ』と唸っていますが、やがて諦めたかのように眠りにつきました。

 神獣様が眠りにつくと同時に、ポンと小爆発と共に白い羽の生えた子犬が現れます。


「妻よ、娘よ、愛でるがよい!」

 偉そうに言う子犬を即座にウッサが拾い上げお持ち帰りしてきました。


「父上、可愛い。お手…………」

 親としてのメンツにかけて手を伸ばしたくない神獣と、期待のまなざしのウッサ。

 やがて、渋々神獣が折れる。


「父上、偉い偉い」

 神獣様を掲げて抱きしめる。そしてカステラをフォークで切り取って食べさせる。


「うーん」

「うむ。あーん……うまいのう!」

 うん。神獣様気付いて。今まーちゃんの背後から殺気が漏れてますよー。


「駄犬。相変わらず駄犬ですね」

「カステラに緑茶を要求します。熱々で。そして神樹よ。大人になりなさい」

「わかったの、お姉様方。でもお仕置きは必応なの。ね、貴方♪」

 神獣様はその言葉がしっかリと聞こえていたらしく、耳をピーンと立てて少し固まった後、ゆっくりとウッサの腕から降りる。そしておびえた様子で神樹様と私、そして姉妹神様がいらっしゃるテーブルに来ます。


「貴方♪」

 笑顔の神樹様はお皿にカステラを乗せると神獣様の前に置きます。


「待て」

 冷たい視線が突き刺さる。


「駄犬、お手」

「わん!」

「駄犬、お代わり」

「わん!」

「「そして駄犬、謝罪」」

「お二方が降臨された場に伺えず痛恨の極み、誠に申し訳ございませんでした」

 頭を下げる子犬。

 姉妹神様より遥かに存在序列が低いので、その辺り厳しいようです。しかも今回、事前通告ありの行事だったようなので、尚更……。


「神獣君、ふぁいと!」

 神宮寺君は安全圏から応援しています。

 そうですよね。いつもなら貴方があそこのポジションですもんね。……ってそれはカガミ屋の饅頭じゃないですか! 私の分も残しなさい! 勝さん一号に毎回自慢されてイライラしていたのです。抵抗すると良くない事が起きますよ。


「貴方、チンチン」

 姉妹神のプレッシャーにプルプルと震える神獣様に神樹様が一言。それ、犬だからできますが、知性があり荘厳な空気を作り出せる神獣様には……ちょっと厳しいですね……。


「ああ、娘に甘える父親って幻滅なのー」

「……」

 子犬になって調子に乗っていたところを突かれたご様子。


「もう一回だけチャンスを上げるの……」

 その言葉に他人事ながら私も息を呑む。


「貴方、チンチン」

「わん!」

 神獣様……見事な直立です。ウッサ、そんな目で父親を見ないであげて。お願い。


「貴方、よし!」

「わん!」

 床の上に置かれたお皿からカステラを頬張る神獣様。

 ここが神域故、獣王様達がいません。良かったですね。信仰してくれている方々に見られなくて。

 そこから和やかな食事会を挟んで食後のお茶を頂いています。

 神樹様の中ですが、大型のお風呂があるとかで興味津々です。

 え?獣王様方ですか?私のお付きのはずなのですがこの神域には入ってこれなかったらしくお外の神殿で掃除の手伝いをしています。何やら『神樹様の下で修業』扱いになるらしく『経歴に拍が付いた!』と喜んでやっているようです。

 美味しいお茶と神獣様をいじる楽しい会話の最中、神樹様がポツリと漏らします。


「この子も今月超級モンスター討伐デビューなの」

 そう言ってウッサの頭を撫でる神樹様。


「え?」

 ウッサの素直な反応。

 

「ん?」

 少し固まったのち、笑顔のまま振り返り、逃亡使用していた神獣様をアイアンクローする神樹様。……アレ痛い上に屈辱ですよね……経験者は語るのです。


「ねぇ、貴方。説明してくれるって2年前に話しましたよね?」

「うむ。神界に出張するのが忙しく忘れておった!」


「うふふふふふふふふふ」

「神樹、調教グッズならじんちゃんがたくさん持っていますよ」

「神樹、変態研究については研究会会員でもあるじんちゃんだから安心安全の調教術をしてるはずよ」

 え?神宮寺君そんな趣味が…………。

 私は筋肉の偉い人と共に神宮寺君と距離を置きます。


「先輩として君の趣味をとやかく言いませんが犯罪はだめですよ?」

「神よ。通報します」

「いやいやいや! 違いますから! 俺ノーマルですから!!!!!!!!」

 神宮寺君の絶叫がこの聖堂に木霊しますが、誰も真に受けていませんでした。

 私は私で後輩の性癖に頭の痛い思いでした。


「確定? どうしてですか! 俺を信じて!!!」

「ごめんなさい。日々積み重ねた信頼の差なのです」

「お姉さま方のお話の方が信憑性があるの、なの」

「神様こればっかりは普段の行いだな」

「「じんちゃんこれが徳の差よ」」

「……私は………………極力………………神宮寺様の趣味に……………………合わせます……」

 最後のもじもじしながら言ったウッサの台詞にて、神宮寺君は神獣様と並んで調教されることとなりました。願わくは真人間になってくれますように。

 ……ま、無理でしょうがね。


「いや! そこ諦めないで! まーちゃん先輩!」



カクヨム+α

「神樹様、その超級モンスターって何ですか?」

 私は素朴な疑問を投げかけてみました。

 皆さんお忘れですが、私3歳なのです。

 そしてこの世界の経験は1年未満なのです。知ってる方がおかしいのです。


「うん。超級モンスターって言うのはね、ほっとけばその地方が地図から消えちゃうぐらい危険なモンスターの事なの! 普通は下級神が出張ってきて討伐するものなの。危険なモンスターなの!」

 少し興奮気味でいう神樹様。


「こっちの地方で言うとハンター組合の特級。災害指定モンスターってやつだな。ほれ、20年前にお前の所のルカスとリーリスが部下100名連れて討伐した奴だ」

 ……初耳なのです。


「すっごく危険なモンスターなの! それを人間が倒すなんて当時信じられなかったの! すごい時代になったものなの……そういえばあの時も……」

 思い出語りに入る神樹様。そして朝食の支度に向かう主夫……じゃなくて、筋肉の偉い人。

 神樹様と神宮寺君?

 …………そこは触れちゃダメです。あえてスルーをすると言う大人の処世術を身に着けてほしいのです。


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