第108話「ウッサ無双」

 少女は木の上に立ってた。

 【木】と言ってもどの山脈よりも大きな神樹の頂上である。

 眼下に広がるは母なる神樹の緑。

 それは遥か地平線にまで向かう勢いだ。

 時は早朝、朝日がまだ赤く輝いている時間。

 少女は一つ深呼吸をすると、突然巻き起こった下方から打ち上げられるような気流に身を任せて更に上空へ飛び上がる。

 打ち上げられた先、空の限界に近い場所で少女は唐突に目の色を変える。

 黒から金に。

 次の瞬間、彼女の周りに金のオーラが発生し、それはやがて金の鎧に変換される。脚部と腕部が拡張された鎧は、まるでそれが金色の獣の様であった。

 空中で大地を踏み締めるかの様に姿勢を正した少女は、遥か地平線の向こうを見る。……人には見えないほどの距離にそれ等はいた。

 1体は街を飲み込むほどの太った黒竜。

 それを追随する様に、高層ビル程あろう黒い巨大な馬が続き、そしてその上には黒い鎧が居た。


「4体確認………………行ってきます」

『行ってらっしゃいなの! ズバ――――――とやっちゃえなの!』

「………………」

『婿殿。喋らないといけないのなの!』

『えっと、怪我しないで帰っておいで………………』

 その思念波で少女のテンションは燃え上がる。

 テンションに逢わせるように金色の波動も燃え上がる。


「行ってきます!」

バンッ!

 急加速によるソニックブームが神樹を揺らす。

 神樹の遥か先、少女の目標であるモンスター達が、迫りくる少女の気付いたのは右拳を突き出したまま【黒竜に大穴を開けてようやく止まった】少女を発見してからだ。

 少女に気付いた次の瞬間、モンスター達は反撃を開始する。

 巨大な馬は無数の触手を少女に向ける。

 しかしそれは命中しない。動いていない様に見える少女を無数の職種はさながら避けるように動く。

 続いて触手の影から黒い鎧が、大剣を少女に振り下ろす。

 剣はもちろん魔法力を帯びており、何かしらの【呪い】がかかっている大剣である。

 しかし少女はさも【つまらない】とばかりに大剣を掴むと金色のオーラで大剣を包みまるで進捗する様に鎧へ進む。鎧は辛うじて大剣を手放し馬へ逃げ帰る。

 残された大剣は金色のオーラに解かされるように消滅させられる。

 少女は再び動こうとしたが、その前に黒竜に飲み込まれた。

 さしもの少女も予測できておらず、されるがまま飲み込まれたかのように見えた。

 体の中心に大穴を開けられた黒竜は先程の鎧と少女の攻防の隙に大穴を復元し少女の好きを突いた。突然現れた強敵の好きを付き葬れたことに興奮した黒竜は収まらず、先程大穴をあけられた怒りと身を震わせる興奮に任せて吠えようとした。

 だが、そこで喉が無い事に黒竜はようやく気付いた。

 顎の下で喉を蹴破って出てきた少女は、満面の笑みで金のオーラを黒竜に放つ。

 金のオーラはあっという間に黒竜の胴体を包み、焼失させる。

 悪夢だと黒竜が理解すると彼の眼前に少女が降り立つ。

 その表情は満面の笑みを浮かべている。

 だが、その瞳は黒竜を映していない。

 相手にすらしていない。

 黒竜たちがこの世に生を受けたのは昨日だ。

 モンスターという形を得て、自らの元となった者達を憎悪した。

 その者たちを万単位で始末すればなんと心地よい事かと想像し、そして己の存在の大きさに満足していた。

 そんな自分が、目の前の小さな存在に……まるで羽虫を潰すように、意味なく、興味なく消される。

 全力で贖いたい黒竜だが、もはやそれもままならない。

 それでも! と奮起したところで少女は黒竜に手を突き、次の瞬間黒竜の自我と共に頭部も焼失させた。

 黒竜を完全に消失させた少女は、次の得物に切り替える。

 全速力で逃げる馬と、こちらをけん制しているつもりの鎧。

 少女はここで右手を伸ばし、掌を大きく開いた。

 金色のオーラが掌の前で圧縮され、馬と鎧が海上から砂浜に逃げだしたところで発射された。

 馬はとっさの機転で身を横に投げ出す。

 例え超級モンスターになった馬とは言え、この速度での横転はもしかしたら致命傷を負うかもしれない。

 それでも【気軽に放たれた攻撃】などで消されてなる物か! と必死に馬は横に飛ぶ、鎧もそれを察知して必死にしがみつく。

 金色のオーラの塊が、一瞬前まで彼らがいた空間を通過する。

 超級モンスターとして極限までに圧縮された視覚で鎧はそれを認識した。

 【金色のオーラの塊が自分たちを追って曲がった】のも認識した。

 鎧にできたことは禍々しい障壁を展開し、オーラに対抗することだけだった。

 咄嗟に飛び込んだ鎧は20層に組み込んだ魔法力障壁を金色のオーラの塊にぶつける。


パリン

 鎧はガラスが割れる音を聞いた『一枚やられたか!』と認識したのが彼の失敗だった。何故ならば先ほどの音は19枚同時に破られた音だったからだ。

 手に汗握るような鎧の気持ちとは裏腹、端から見ると鎧が耐えたのは……ほんの一瞬だった。

 衝突、次の瞬間金色のオーラの塊に鎧は飲み込まれて消える。そんな光景だった。

 次は馬。だが馬はすべての触手を展開し障壁を成し、自らはその脚力を全開に上空へ逃げていた。

 触手を切り離すと、その場に残された職種は次の瞬間金色のオーラの塊に飲み込まれて消えた。

 馬は飛べるだけ飛んだら少女が来た方角と反対側に逃げるつもりだった。

 何だったら惑星外に逃げてもいい。

 一瞬で考えを巡らせ、馬は『馬の頭部に止まった金色のオーラを発する少女』の事を考えない様にしていた。

 『そうだ。別の惑星を目指して長時間旅行も……』全てを思考する時間を馬には与えられなかった。馬は金色のオーラに包まれ次の瞬間消えていった。

 馬を消し去った少女は、自由落下を堪能する間もなく次弾を発射する。

 それは4体目の、馬も、黒竜も、鎧も、居なくなったのに【砂浜に存在する大きん影】に向けられた。

 影は少女が馬を負った事に安堵し小さく変化し木の陰に溶け込めなかった。

 自らを貫いた金色のオーラが徐々に自分を消してゆく。

 そこで影は無数の影に分裂して逃げることを選択したが、それもうまくいかなかった。

 金色のオーラはそのまま拡張子砂浜全てを飲み込んだ。

 少女が砂浜に下りた時、そこには4体いた超級モンスターの痕跡は何も残っていなかった。

 少女は満足そうに砂浜を眺め、昇り始めの太陽をまぶしそうに眺めると飛び上がり母なる神樹へ向けて飛んでいった。


 ・

 ・・

 ・・・


「これで見習い神なのですか?」

 神樹様が映し出したウッサの動画に只々唖然とする自分が居ました。


「うーん。力は4級神の中堅ぐらいまで入ってるかなーっと。それは愛の力なの!」

「神宮寺君よりお強いですよね?」

 固まっている神宮寺君の代わりに聞きます。


「神宮寺君は神様成り立てなの。だから5級神平均位の実力なの。だからうちの旦那に舐められるの」

「ちなみに、ウッサに護衛っていりました?」

 そっと筋肉の偉い人を見ると苦笑いを浮かべられます。


「亜神は弱いの。脆いの。だからそこの筋肉にお願いしたの。決して名誉職枠を残してあげたわけじゃないの!」

 本音が出たようで、筋肉の偉い人を見ると気にした様子もなく、鼻歌交じりに朝食を作っていました。


「マイルズ。辛い物は好きか」

「いいえ、嫌いです。栄光ある神獣の御子様の護衛長様は尊敬の対象なのです」

 朝食の一部赤かったので、そっと切り取り神宮寺君のお皿に移しておきました。


「あの……あーん、します……です」

 その赤い部分をウッサに『あーん』され、何のリアクションも取れず悶える神宮寺君の冥福を祈りつつ、私も朝食を頂きました。


「ぐは、これ緑の部分も辛い!」

「はははは、マイルズはお子様舌だな~」

 筋肉の偉い人。大人気ないのです……。


カクヨム+α

「ロリコン?」

「違うっす! 自分の好みはボン・キュ・ボンっす!」

「…………なれるよ」

 ウッサが恥ずかしそうにつぶやくと、ウッサの周りに金色のオーラが漂う。

 次の瞬間、そこにはウッサ大人バージョン(推定22歳)がいらっしゃいました。

 清楚な黒髪ロングで犯罪臭のするうさ耳。

 出るところは過激に出ており、引っ込むところはきちんと引っ込んでいる。


「この体、肩が凝って困る……」

「うっし! 僕のお嫁さんかもーん!」

 神宮寺君が腕を広げてウッサを抱きかかえる。

 何でしょうか、コロシテモイイカナ。


「まーちゃん殺気が漏れ漏れなの下手な亜神だったら昇天しちゃうの。どうどう」

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