第100.5話「真・獣王様の食卓」
「マイルズ! いや旦那様! よく来たな!!」
転移してすぐにポチ参上。
あなた学校は?
……はい、自主休校ですか……。獣王様命令ですか……。
ほう。権力が暴走していますね。
「愛し合う婚約者同士、感動の再開ですね」
「抱きつくでもなく手を握り合うだけの光景。微笑ましいわね」
王妃様と祖母が微笑みながら語っています。
「娘を嫁に出す悲しさと、娘が婿に来る喜び!」
「おう、獣王。一発殴らせろ」
獣王様と祖父です。そもそも『娘が婿に来る』って何ですか?
ねぇ?
獣王様?
聞いてます?
はい、抱っこされて移動中なう! なのです。
大人はずるいのです。都合の悪い話は笑顔でスルーなのです!
ずるいのです!
…………あれ?
何でしょうか自分に刺さりますね。この言葉。
……気にしたら負けです!
「ところで、獣王様っていつもお迎えしてくれますが……暇なの?」
エンジェルスマイルでぶち込んでみました。
確信犯ですが何か?
一度聞いてみたかったのですよ。
社長とか専務とか常務とか部長とかって組織が大きくなればなるほど重責を負って働き蟻な者なのですが……。
そこでふっと思います。もしかして中世の王族は違うのかなと……。
何分勝さん1号からみて王子があれなのです。察してしまうのです。
「無論、暇じゃ。王など暇を持て余してこそだ。詰めて仕事なぞしても国を世界を見渡すことなどできん。それが出来ぬ王がいくら仕事をしても空回るだけだ。あと、儂や我が一族がしっかりしているからこそ部下が活きるのだ。まぁ、やりすぎたものは……きちんと潰すのも王の役割ではあるがのう」
「うむ、我が王国や魔王国、神王国の王族が異常なのだ」
「王国の王族を働き蟻に仕立てた男がよく言うわい、がははははははははは」
「くくく、ばれておったか。王なぞ国の奴隷ぞ、がははははははははは」
パンドラの箱でした。
まーちゃんはそっと閉じたいと思います。
うん。聞かなかった。
よし。聞かなかった。
変な汗をかいたうえで獣王様に抱っこされたまま王妃様のお部屋に。
そして幼児用ドレス装着!
…………言わないで。
知ってるよ!
中の人40歳ぐらいだよ!
子供2人いるよ!
そんな叔父さんの女装……おぇ。
違うのです。想像してないのです。
ビール腹とか最近悩んでないのです。
その上にドレス、コルセットとか違うのです……。
……失礼……。
……昔、忘年会で部下に女装を強要された記憶が戻ってきました。
『係長かわいいーーー』
って部下に言われました。
ええ、野太い声で……。
……こえーよ。
本当にトラウマものだったよ。
……いや、普段は私を尊敬してくれる真面目で素直な子なのです。
……少し甘やかしすぎたのかもしれません。
……元の世界に戻ったら地獄♪の部署に送ってあげないといけませんね……。オープン・ザ・閻魔帳! カキカキ……。
ちなみに、私を着替えさせたのは女の子でした。
たまに『誘ってんのか?』ていう子でした。
誘われても既婚者でしたので無理ですけどね!
……今思うと『既婚者だから』誘ってきたのかもしれません……。
女性怖いです。
「マイルズちゃん? なんで震えてるのおしっこ?」
「王妃様おトイレ借りたいのです。いえ、抱える意味が分からないのですが……ええ『しーしーしましょうね』とか意味が分かりません。一人でできるのです」
トイレを閉じて思います。
何のプレイが始まるかと戦慄です。
用を足して扉を開くと祖母と王妃様とポチがジャンケンしておりました。
抱っこする権利争奪だそうです。いえ、歩けます。まーちゃん2.0は足腰が強いのですよ。ふふふ。
ん?そう言う事ではない?
え?どういう事でしょうか。聞けない。怖くて聞けない……。
王妃様に抱きかかえられて晩餐会場に到着。
ポチと共に雛段の様な所に座らせられます。
「安心するがよい儂がいる」そういってポチは手を握ってくれます。
それを見た周囲が『おお、絵になる』と感嘆しています。
そして絵師が絵をかいています。
祖父が騎士を読んで勝さん1号作成の写真機を準備しています。
……祖父よ、その騎士様は護衛?だったと記憶しています。
……任務から外れて罰が有ると思います。
王妃様……。
なんでそこで商売しようと画策しているのですか?
大臣に耳打ちしている様子と薄っすら見える黒い笑顔が怖いですよ……。え、収益の一部を頂ける?ほう、おいくらでしょうか……。
さてさて、婚約パーティとしてはそれなりの儀式があり私は笑顔を張り付けたまま時間経過を待ちました。そして、終盤に差し掛かった時彼が現れました。
「新しき弟?よ。初めまして! 我がビゼブ、ホーネストの2番目の兄だ」
ハテナマーク、はいりませんよ?
青髪の爽やかな青年は王族が着る服を着ているので王族と分かりましたが、態度が獣王様の様です。
豪快な男の様でそっとポチと私を抱えあげて両方にほおずりをしました。
「弟よ。お前が拉致されたときホーネストが可愛く泣いておったのだ『お兄ちゃん。マイルズを助けて』って泣きながら裾を掴むホーネスト。かわいかったなぁ」
あははははと笑いながら私達を肩に乗せる義兄。
お顔を真っ赤にして『お兄様のいけず』と言っているポチが案外可愛いです。
「いや、良かった。勢いで魔王国攻めに行かなくてよかった」
祖母から事前に効いて居た情報では獣王国最強の猪侍。よかった……祖母が抑えられて。
「ところでビゼブ兄」
「なんだ。というかいいな! ビゼブ兄というのはいつ以来か! 少なくとも1000年聞いてないな……良いな!」
うむ、いい人なのですが直情型のようですね。
「なぜ、皆様の席に野菜が残っているのでしょうか?」
「それはな……」
あ、その表情で予想ができました。それ以上は結構です。
「まずいからだ!」
……言っちゃったよ。
結構ですって空気読んだのに……。
見てください。祖父の耳がピクピクしています。こちらからは見えませんがきっと目に鋭い光を宿していますよ。
まーちゃんが言わせた発言ですが、
まーちゃんが言った発言ではないのです。
私はここに宣言します!
断固として私は関係ないと!
……やめて、野菜普及キャンペーン大使とか任命しないで。
祖父よ私3歳です。もっと自由に遊ばせて……。
……あ、はい。もちろん大使頑張ります!
ジーク! お野菜さん!!
そして翌日、何故だか私を中心とした対策室が設けられるのでした……。
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