第101話「菓子職人いえ護衛です」
「「「「「ネロ様万歳!」」」」」
……パレードなう……。
白い屋根のない馬車に獣王様と王妃様そしてポチと私が乗っています。ええ、獣王様のお膝の上です。ポチは背が高くてうらやましいです……。
「「「「「まーちゃん様! かわいい!!」」」」」
覚えました。今叫んだ方々覚えましたよ。
こう見えても私『えっ?そんなことまで覚えてたのかい?』と昔の上司を追い込んだ実績のある男。そう勝なのです。
私の閻魔帳は無駄に容量があるのです。そして記載事項は即出てくるのですよ。うふふふふふ。
……出てきても復讐方法が浮かばないのは内緒なのです。
よっぽどのことをしない限り大丈夫ですよ。ニコリ。
さて、このマイルズ専用拷問馬車は今ゆっくりと獣王都の聖域に向かっています。
獣王都南部の小高い丘に白い柱が並び立っている所なのです。
馬車はゆっくりと進んでゆきます。
沿道は獣人で埋まっています。
たまにルースパンと言う旗を見ますがきっと便乗商法ではないでしょう。
家を出る前に似顔絵を描かれて父が一緒についてきたりしましたが,気のせいなのです。昨日パーティーでも上流階層向けの書品をアピールなんかしていないのです……。そう、息子を出汁に商売なんて,きっとしてないのです……。
「マイルズー! こっちに笑顔!!」
勝さん1号。貴方の名前は明日から『守銭奴』です(血涙)。
「……ねぇ、あそこで神様が露店してるんだけど……」
「ポチ、見てはいけません。あれは少年少女の教育に悪い神様なのです……」
勝さん1号の方を睨むと、露店でルースパンを販売しているの神宮寺君がいました。
レベル神しかも組織の長らしいです。あれ。
ああ、結婚神様と恋愛神様。ここで公然とさぼってる馬鹿がいます。報告して減俸に処していただきたい。
『『その願い聞き届けました』』
私の耳だけにそっと優しいお言葉が流れてきます。
「待ってくだいっす! 冤罪です! 真面目に仕事しているのに!!」
私は結婚神様と恋愛神様の言葉に感謝を捧げます。
そして、できれば今日は出てこないでいただきたい。
『『りーむー、です』』
軽い返事でした。
『今日の為に婚約パーティー我慢したので無理です。演出の為に我慢したの……』
結婚神様。演出って、神様もそう言うの気にするのですね……。
『機会が少ないからね♪』
楽しそうで何よりです。ところで恋愛神様は本日何か出番でも?
『まーちゃんも、ネロちゃんも、恋愛って年齢じゃないからね。その日が来るまでに浮気しない様に祝福をさずけるのよ♪可愛い女児二人眼福だわ~』
……うん。まぁいいや。
そこでふっと、私の視界に筋肉が映りました。
失礼。
筋肉の偉い人ギーズさんが、神宮寺君のお手伝いを幸せそうな表情でするウッサの背後から、神宮寺君をすごい目で睨みつけている映像が私の目に映りました。一応あんなのでも立場は……うん、不敬な気もしますが気にしないようにします。
さてそんなカオスな現場を馬車が通り過ぎます。
私は見なかった。
神獣の御子とその護衛が、神宮司君と共に露店のお手伝いのお手伝いをしているなど見なかった方が良いに決まっています……。
やがて馬車は白い石一色で構成された儀式場に到着しました。
青空の下、整然と整理された観客席。もうすでに満席です。
その間を無数に乱立する柱は魔法の光を放っており荘厳な雰囲気が作り出されている。私はその中心部である舞台へ続く赤い絨毯に降り立ちます。
そこで2音、巨大な太鼓が叩かれました。
お腹に響く重低音が私を一歩引かせます。
普通ならここで自分の足で進んでいく、らしいのですが……。
私は3歳。ポチは6歳なので、私は抱きかかえられて、ポチは手を繋いで歩いてゆきます。中央の舞台は巨大な魔法陣でした。
「これより、我が娘ホーネスト7世と人が英雄の孫マイルズの婚約式を執り行う!」
獣王様の宣言に観衆が沸き立ちます。
婚約式と言えば結納みたいものなのですが、この場合は獣人たちの神たる神獣様への誓いの儀式。特に獣王家のそれは数百年に一度の為日々の感謝も捧げるようです。
そう言っているうちにも獣人の神官たちが祝詞を捧げると、魔法陣がより光を増してやがて青空から光が消えます。数秒の沈黙。その後、光る魔法陣から更に強烈な光の柱が点を貫き、この場を照らす。
圧倒されていると、天空からより強烈な白い光の玉が下りてきて、皆に告げます。
当然ながらこの場にいる人類すべてが平伏しております。
『獣王。エルダン7世』
「はっ」
全員膝をついて頭を伏せている中、名を呼ばれた獣王様だけ顔を挙げます。
『此度の縁談。見事である。今後も眷属たちを導くがよい。では後の事は我が娘が執り行う……。だがその前に……、聞け! 全てのわが眷属よ! 我神獣が、この婚約祝福することを宣言する! 心より祝うがよい!!』
神獣様の宣言直後魔法陣がさらに光り輝く。
やがて光から白いドレスに身を包んだウッサが光の中から登場します。
……ちょっとウッサ、その手のパンは何ですか?
まーちゃんパンですか?
そのパンだと何か可愛らしい女の子に見えますが……。
それポチパンの方ですよね……あ、筋肉の偉い人が気付いて回収した。
ざわつく獣人の皆さん。『神獣の御子様がおすすめのパンらしいぞ』『神獣の御子様のお口に合うものを金で買えるのか! 逃がす手はないな』『まーちゃんかわいい。はぁはぁはぁ』
滅んでほしい。割と真剣に。
『我次代の神獣が、心労……新郎マイルズと新婦ホーネスト7世』
ウッサが微笑むと私達を光が包みます。というか【わざと】間違えましたね?
神々しいスマイルでごまかしましたが、まーちゃんはそういうの慣れているのですよ……。
それは閻魔帳に記入いたしました。
さて、色々置いておきます。と……私は初めてウッサが神聖なものに見えました。
すっかりウッサの神々しさに見惚れていると、ウッサの横に俗物が現れました。
「ちーっす。まーちゃん先輩お祝いに………」
……無言でレーザ魔法(強)を打ち込んだ私は悪くない。
そう宣言することにした。
―――後編に続く。
カクヨム+α
神宮寺は我慢していた。勝さんの時はとんでもない女を引き合わせ盛り上げて勝を不幸にしてしまった。
だから今回の話には不介入を決め込んでいた。
だが、
どうしても、
神宮寺はやはり神宮寺だった。
「ルースさん。また腕挙げましたね! まーちゃん先輩のホイップアンパンが更にうまくなってます!」
天界の飯は本当にまずいのだ。
「ん? 婚約の引き出物? まーちゃんパンとかどうですか。お、いけます? いいですね! 色々お手伝いします! 売り込んでいきましょう!」
そして当日沿道からマイルズを見守る神宮寺の瞳は………。
「儲かりまっか!」
おおよそ神の瞳ではなかった。
そして、後日神宮寺は職務怠慢で部長に説教部屋へ連れ込まれ、減給処分となった。しようがない話である。
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