第92話「魔王様殿中でござる」
――平和な魔王国の午後を覗いてみよう。
「陛下。アリリィ様がいらっしゃいました」
「う、持病の癪が……」
「じゃ、回復魔法!」
「リィ、さんきゅー……」
「いえいえ。じゃ、仮病使おうとした理由をじっくり聞こうか」
「……魔王様が逃げたぞ!」
「とらえろ!火の粉がこっち飛んでくる!」
「俺は生贄じゃな―――ーい!」
「黙れ! 陛下! この国の責任者はあなただ! 近衛、逃走防止結界だ!」
「私もお手伝いしますわ!」
「妃なぜ! ぎゃああああああああ」
「リィとはお友達と書いて親友と呼ぶ間柄なのですわ」
「む、無念……」
――平和な魔王国の午後終わり。
平和なまーちゃん共和国のダンジョン都市ジャゼルの街角でその男はどっかりと腰を下ろして空を、いや虚空を眺めていた。
男の名前はヴァリアス。ダンジョンマスターである。
ダンジョンマスターとは何か?
この魔法世界の根幹をなす【魔法力循環のよどみや汚れ】が起こす【機能不全に対するろ過装置】である。
マスターはモンスターを生み出してそれを処分することで世界の均衡に一役買っている。
そもそもダンジョンとは当初マスターがモンスターを倒す闘技場であった。それが人が増え、生き物が増える過程で当時神が管理していた【魔法力循環のよどみや汚れ】の処理が追い付かなくなった。そこで神々はレベルシステム同様に『たくさんいる人間に処理させてみれば』と考えに至る。その為、【魔法力循環のよどみや汚れ】をモンスターという形に生成する自然法則をアレンジしモンスターと戦う場所、ダンジョンが作成された。
ではダンジョンマスターと何なのか?
マスターは神候補の亜神であり、世界の安定させるため【魔法力循環のよどみや汚れ】の処理と処理を自動化させる為人間を強化し自然のモンスターとも向き合えるようにする職業であった。
「はぁ……」
ヴァリアスからため息が漏れる。
彼の見た目は20半ばの青年貴族である。
見目麗しくはかなげな表情は通りをあるく奥方様の話題をさらっている。
だが残念、ヴァリアスは2人の子持ちだ。
「ねぇねぇ、あの人かっこよくない? 貴族みたいだし声かけてみようよ」
「落ち込んでいらっしゃるわ……お可哀そうに、でもその表情もお美しい」
お嬢様が2人赤い顔でけん制し合う。
そこに1人赤髪の幼い女の子が駆けてくる。その瞳には幼無さとは似つかわしい、はっきりと理性の輝きが映っている。多分魔法使いがいればその身に宿す異常な魔法力に慄く場面だが残念ながらそのようなわかりやすい魔法使いはいなかった。
「パパ!」
周囲に聞こえるように叫んでヴァリアスに飛びつく幼女。
「パパ! ばっちり証拠も集めたし、弁護士も雇ったよ! あと上役の神様も味方してくれるし裁判官も買収済みだよ! これであの屑女と馬鹿間男追い込めるよ!」
周囲の者達は耳を疑った。
かわいらしい赤毛の幼女から聞いてはならない台詞があふれている。
「もう、あの『稼げない』『家事・育児できない』『見た目ない』のないない尽くしの女と会わなくてすむよ!」
笑顔の娘ナルディアにヴァリアスは苦笑してしまう。
普通こういう時は母親に付くものではないだろうか? とんでもなくうれしいが、ついヴァリアスは意地悪を口にする。
「ナル、それでも君のお母さんなんだよ? 味方しようと思わないのかい?」
「そんなこと昔は考えていました……たぶん生後1年ぐらいまでは……」
(((それ考えたことないって言わない?)))
聞いてた全員一致の思いだ。
「それに、あの女出る母乳全てあの間男に飲ませてたのよ? 6歳の私が聞いてもドン引きのプレイだわ」
(((ない、それはない。ていうかお嬢ちゃん6歳?まじで?)))
ダンジョンマスターの娘も亜神である。成長が速くても何ら不思議はない。
「わかったよ。ナル。俺も男だ決着をつけてくるよ!」
「さすがパパ! カッコいい結婚して!」
(((パパ、ロリコンだった! しかも近親相姦!!)))
はかなげな青年からロリコンを見る目にジョブチェンジした周囲を他所に親子の会話は盛り上がる。
「でも、パパ。暴力はだめだよ? 裁判で心証悪くなるからね? モンスターとか手なずけてダンジョンに送り込むとかが推奨だよ!」
「ああ、がんばる! ナルとエバンのパパは頑張るよ!」
(((いやいや、人間に迷惑です)))
「じゃ! ナル俺ちょっといってくる!」
「がんばってパパ! 私大人になるまで待ってる! いっそロリコンになってもいいよ!」
駆け出すヴァリアスと涙ながらに手を振るナルディア。
それを見送る待ち人たちはみなこう思った。
(((見なかったことにしよう)))
傍観者最強。
駆け出したヴァリアスやがてまーちゃん共和国の国主にであう。
やらかし幼児マイルズと出会う。
そんな運命だった。
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