第93話「ダンジョン攻略と帰宅難民のダンジョンマスター1」

 ダンジョンマスター界の貴公子ことヴァリアスはとある町で可笑しな光景を目にしていた。


「まーちゃん先輩! ダンジョンコア破壊したってどういうことですか!」

 30歳超えているであろういい大人が幼児相手に崩れた敬語で怒っている。

 問題は話の内容だ。


『ダンジョンコア破壊』

 ダンジョンコアとはダンジョンマスターについて命である。

 ダンジョンマスターが持つ亜神の権能は魔法神の従属神としての魔法力である。

 ダンジョンマスターが現世でその権能を発揮するためには現世の物質とリンクしなければならない。それは神の力という異物を世界で行使するために必要な仕組みであった。

 故にダンジョン機能制御とダンジョンマスターの存在の大部分を担っているコアえお破壊されることは、つまりダンジョンマスターの死を意味している。例外は存在するが……。

 例外。ヴァリアスや他の一流ダンジョンマスターであれば管理ダンジョンが複数もつダンジョンマスターは1つだけ壊されても存在が消失することはない。1か月程度体の喪失感に悩まされる程度である。

 ヴァリアスは想う。

 ここでダンジョンコアの事を話している。

 もしや、この近場にあるヴァリアスが報復対象としている間男の一味が管理するダンジョンの事ではないだろうか。と。

 そしてようやくヴァリアスは気づいた。

 幼児を叱っている男。あれは神だ……。

 あの幼児は神が降臨して指導するほどの大物なのか……。と勘違いをする。

 ヴァリアスは集めたモンスターに行き先を変更させ、一旦幼児一行の動向を観察することとした。

 一方、なぜマイルズが怒られているのか見てみよう。


「まーちゃん先輩反省してるっすか?……その顔反省したないっすね……」

 反省してない顔とはどんな顔か、こんな顔である。(´・∀・`)


「効率的な攻略なのです。寧ろ良い事をしました」

 開き成りである。


「だーかーらー、ダンジョンはダンジョン管理課の領分なんです! 勝手に壊したら俺が怒られるっすよ! そう言ったところ縦割り行政なんです! 縄張り意識バリバリ何ですよ! 先輩わかりますよね? わかってやってますよね? 世界滅んでいいけど俺怒られたくねぇっす!」

 神は神で身もふたもない。


「だってダンジョンチャレンジしてもいいって言ったの神宮寺君じゃないですか?」

「言いましたけど……」

 神様であれば世界の安定の為にも、ダンジョンが作り出すモンスターを処理してほしいと思うのは自然なことだ。


「ダンジョンって最下層まで行くのが目的じゃないですか?」

「確かにそうですけど……」

 最下層までたどり着いた人間にはダンジョンマスターから報酬が与えられる。それは太古の昔に神々が示した約束である。


「コアを壊せるものなら壊してみろ! って喧嘩腰じゃないですか?」

「確かにここら辺のマスターはそうですけども……」

 ダンジョン入り口の立て看板にでかでかと書かれていた。

 ダンジョンマスターも人間と同じように、繰り返し作業は飽きるのである。その為このような道を外れる刺激を求めるダンジョンマスターが少なくない。


「だからって、捜査魔法でコア関知して、土魔法で掘り進んで、コア裏から爆破って性質悪すぎですよ!」

 普通はできないそもそも。

 捜査魔法など聖域たるダンジョンには無効であるし、同様に土魔法もダンジョン周辺の土に干渉するなど普通はできない。

 

「効率化最高!」

 マイルズは笑顔でサムズアップ。


「日本の社会人の悪癖です!」

 この世界史上最長と言われているデフレですっかり日本企業は必要以上の効率化ブームが巻き起こっていた。マイルズの思考はその弊害である。現場の需要はそのままで費用だけ削減されるそんな中で社会人生きてきたのでしょうがない話である。 


「最良の過程と最小のコストの上で目標の達成! ソレのどこが悪いと?」

「ぐぬぬぬぬ」

 過程と目標が間違っているのですぐさま指摘すべきだが、残念ながら神宮寺は事前に説明を省略してしまっていた。


「とにかく! ダンジョンの目的はモンスターの討伐なんです! モンスター倒してくれなきゃダンジョンの意味ないんです!」

「ふむ。なら初めから言わなきゃ。あとちゃんと契約書にも書かなきゃ」

 契約書なんかない。これはファンタジー世界。


「分かりました。次はちゃんとモンスター倒してくださいね……」

 そして彼らは次のダンジョンへ向かった。


―――とあるダンジョンマスター集会 


「ザックのダンジョンがやられた……」

 円卓を囲む6人。空席が4席。赤髪でヒゲを蓄えた中年男性が静かに告げる。同時に彼の眷属から他のマスターに資料が配られる。

「コア破壊か。馬鹿みたいに挑発するからだろうに」

 資料に目を通し後、青髪の青年が資料をテーブルに投げ吐き捨てるように言った。


「しかも、このご時世でだれともコア共有していないなんて不用心にもほどがある」

 頷く一同の中で一人だけ長髪黒髪のメガネを掛けた男のみ心ここにあらずであった。


「おい! ンラド」 

 赤髪ヒゲ中年の一喝が飛ぶ。


「……ん? あ? ああ、ザックだからなしょうがなかったんじゃねーか。あいつ馬鹿だし」

「あ? お前正気か?」

 睨み合う2人。だがすぐに黒髪の男が視線を外す。


「ちっ、何のための会議だここは! 興味ねーなら二度と来るな! ンラド」

 赤髪ヒゲ中年の声はもうンラドには届かない。

 ンラドの頭の中には最も大切な妻との間に割り込んで来ようとしている女の事を考えていた。そして小声でつぶやく。


「………遊びだっつたのに、何が結婚だよ………メンドクせえ………」

 そのつぶやきはすべてのマスターに聞こえていた。

 会は微妙な空気のまま終了した。


「あの野郎………」


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