第24話「門番最強説」

 俺の名前はグルンバルド。今年で20歳。この領都グルンド西門の門番を務めて5年目だ。

 まだまだ未熟者だが、この平和な都市を守る盾…‥・その一員だ。こういうと鼻が高い。

 そもそも俺の名前は街の名前からいただいている。

 この国で名前に音以上の意味を持たせるのは珍しい事である。

 それも都市の名前をもらえるなど本当に兵士冥利に尽きる。

 戦争が起きれば35歳までは正規軍へ編入されるそうだ。もし戦争が起きれば俺はさらに街の為に頑張れるのだ。この仕事、やはり俺にとって天職だ。


 といっても、街の犯罪は少ない。

 街へ来る商人は主に北と東からくるので、俺がいる西門は検問作業もすくない。たまに手伝いに派遣されたりするが西門にいる限り暇だ。

 今も槍を片手に街の中のと外に狭間に立っている。

 今日は珍しく立て続けて事件があったので、詰めていた数人が現場に急行している。

 警邏の騎士に引き渡してそろそろ戻ってくるだろう。そうしたら交代かな……。

 そんな緩んだ気持ちでいた。


 ボーっとしてると、目の前を鈍重な歩みの案山子が走っている。……事件の香りがした。

 俺は詰め所に駆け戻り、出先から戻ってきた同僚に事態を説明して現場へ向かう旨伝える。

 すぐ応援部隊を送るから無理はするなと言われた。

 案山子の部隊が西の森へ向かう。

 ……先日、異世界人警報があった……。

 北の森を捜索しているというのも知っているが……。

 俺の頭の中に情報がつなぎ合わされてい行く。

 誰かが異世界人に襲われ、警備の案山子が警報を送っている……。

 そういうことに違いない……。

 俺は使い慣れた槍を片手に気付かないうちに全力で駆けだしていた。

 案山子にはすぐに追いついた。


 その先、西の森と公園の間で子供3人を保護している権三郎殿と合流した。

 どうやら案山子を出動させたのはかの御仁らしい………。

 大きな男の子が足に深刻なけがをしていたが、すでに応急処置をされていた。

 俺にできることはすでにない。


「もう大丈夫だ」

 ルカス様のお孫さん、奇天烈幼児マイルズ君がいたので安心させようと思って撫でた。

 森を見ると薄く色のかかった肌の男が魔法の杖を森に向けて破裂音をさせている。

 ……その背中からは青い光が立ち上っている。

 ああ、異世界人が他の異世界人から子供を守ってくれたのか……。ありがたい。

 絶対に彼も助けよう。そう考えた。

 だがすぐにその彼は、弾かれた様に血をまき散らして倒れた。

 ……そして動かなくなった。

 こちらが倒れて動かな異世界人が戦っていた相手を迎え撃つ準備をしていると、森から下卑た笑い声の集団が出てきた。

 3名。先ほどの男と同じ装備だ。

 だが決定的に違うのは背中の光が赤いことだ……。

 異世界人がそこに転がる彼を見て、不機嫌そうに痰を吐きつけ彼を蹴る。

 ……戦士のはしくれとして許せない思いに駆られる。

 怒りにかられる俺に、案山子たち10体が揃い指揮を執り終わった権三郎殿が『肉の壁になりますので』とそっと告げてくると、視線を森から現れた3人に向ける。

 どうやら俺の『戦士としての憤り』に気づいて譲ってくれたらしい。高潔な御仁だ……。

 そのご厚意に甘えよう。

 すぐさま出来上がった肉の壁。いや、石なので石の壁。

 それに向かって異世界人は筒をかまえている。……何をする気だ。


『ドーーン』

 発射された弾頭は石壁となった案山子のうち1体を揺らし、膝をつかせる。

 ……脅威と認識した。

 下種だが、脅威だ。

 油断なくつぶさねばならない。

 ふう、と一拍深く息をする。

 ……確かマニュアルには『異世界人は生きて捕縛』だったな……。

 殺さない様に気をつけなば……。

 これが新人兵や中堅どころのハンターであれば逃走を勧める……。

 だが俺は違う。

 ルカス様の作られたこの都市を守る為、幼き頃から研鑽を重ねてきた兵士だ……。


 今のレベルは38だ。


 他の都市に行けば精鋭もいいところだろう。

 だがこの街ではこのレベルなどゴロゴロいる。

 だから俺は油断なく戦える。

 案山子たちに道を開けてもらい奴らの前に立つ。

 少し遠い。槍の間合いではない。

 だが、相手はとるに足らない相手だ。異世界人で加護もなし。

 神の審判も受けていないのであればレベル1だ。

 装備がよかろうが俺に勝てるわけがない。


『XXXXXXXXXXXX(ははは、自殺志願者が来たぜ)』

『XXXXXXXX(くっそ、イケメンが)』

『XXXXXXXXXXXX(なあ、爆発させていいか?)』

 口々に汚らしい音を立てる。

 そして骨の様な男が筒を構える。それは一度見ている。

 先端についている弾頭が射出される。

 俺は同時に前に進む。途中、ゆっくり飛んでいるそれを切り飛ばし前に進む。


『ドン』

 真っ二つになったそれは、俺に切り飛ばされた衝撃で真っ二つになりながらも爆発する。すでに十分に離れていた俺にも衝撃波がくる。些細なことだ。

 3人の下種の顔が固まる。ああ、ようやく立場に気づいたようだな。

 そのまま捕縛されるのであれば、俺は、何もする気はなかった。


『XXXX(ばっばけものめ!)』

 スキンヘッドの男が叫ぶ。そして黒い杖をこちらに向ける。

 だから、杖を持つその手を切り飛ばした。

 汚い叫び声が聞こえた。

 勢いあまって通り過ぎたので振り返る。

 炎の魔法付与を槍の穂先に付与し、スキンヘッドの男の傷口を焼く。

 ついでに右足太ももに刺す。動脈はかわしていると思う。まぁどうでもいいことだ。

 

 さて、お待たせだな。

 骨と皮の男と長髪の男は青ざめた顔でこちらを見ている。

 先に動いたのは骨の男だった。

 何を思ったのか、案山子のほうに走り出した。


 ………その御仁はいつからそこにいたのだろうか。

 権三郎殿はルカス様より賜りし宝剣を手に、案山子たちの前で泰然と立っていた。

 気付くと骨の男の膝から下がなくなっていた。

 膝から下が消失と言ってよい。

 正直俺から見ても何をしたのか、動いたのかすら見えなかった。

 やはり権三郎殿は恐ろしい御仁だ。

 ……そこの屑が死ななければよいのだが。

 しかし、それをなした御仁は『剣が汚れた事』に焦って剣の手入れをしている。

 ……締まらない。と笑ってしまう。


『XXXXXXXXXXXX(なっなにがおかしい、この原始人が!)』

 また喚いた。

 正直うっとおしい。

 軽くにらむと『ひぃ』と息をのむ。

 こわがるなら調子に乗らなければいい。


『XXXXXXXXXXXXXXXX(悪かった。参った投降する。助けてくれ)』

 そういいながら両膝をつく、どうやらあきらめて投降するだろうか。


『XXXX(ばーか)』

 下種の考えってのはわかりやすい、油断させたところでやる。そんなのは見え見えだ。

 手にした何かをこちらに転がしてきたので風魔法で反対に転がしてやる。


『XXXX(な、ひっひぃ)』

 必死になって離れようとするが足が動いていない。

 すぐにあきらめて頭を抱えるとそれは、爆発した。やはりな。


『XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX!』

 何かやたらと叫んでいるが、そろそろ付き合いきれないので打ち据えて意識を落とした。

 見れば案山子の向こうで西門からきた増援部隊が子供たちを保護している。

 俺は権三郎殿に異世界人の捕縛をお願いすると、目的へと足を向けた。

 1人寂しく倒れ伏している異世界人の遺体。

 もう背中から光はない。死んでいる。確認も取れた。

 この異世界の勇者は満足げに微笑みながら死んでいた。

 せめて安らかにと思い目を閉じ神々へ想う、彼の魂が『故郷の異世界に帰れますように』と。

 そのあと事後処理で忙しくなったが、『異世界の勇者』が持っていた遺品について、奇天烈幼児マイルズ君へ渡されたようだ。彼も『異世界の勇者』の生きざまに興味を持ったのだろうか………。

 俺も門番として職務を果たさねばなと、褌を締め直す想いで今日も門に立つ。


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