第13話「魔法道具を作ろう!」

「いかがでしょう?」

 祖母と母、そしてミリ姉が私の前に鎮座してらっしゃいます。

 心の中でそっと『ケチャラー3姉妹』と呼んでいるのは秘密です。

 この異世界ではマヨネーズは異世界人と直結するが、ケチャップはそれほど知られていたものではなかったらしい。祖母曰く『新商品として売り出してよし。だけど名前は違うもので』とご許可いただきました。

 それに伴い母の研究所からケチャという名前で新調味料として売り出します。実際に遠い異国で似た名前の調味料があるみたいでそちらを参考にしたという理由込みで。


 さて長々説明しましたが、現在はケチャ料理を並べています。

 要は活用アイディアを出せということです。

 とりあえずケチャを初めて作った時に添えた、フライドポテトとプレーンオムレツは普及用レシピ確定のようです。

 今追加で要求されて提供したのは子供のお弁当に作っていた料理4品です。

 何だろうかこの緊張感は、子供の料理を試食する雰囲気じゃないよ。

 ミリ姉、あなたの目標は騎士様だよね?

 もう料理評論家みたいな目をしてるよ?

 祖母も母も言わずもがなだ。こわいです。

 父よ、なぜ料理は気になるけどこの場にいたくないといった態度で先程からこの部屋をちらちら見ているのですか?本来ならあなたがワタシの立場なのですよ?

 3人そろって1品目『鶏肉ケチャップ炒め 』を食べています。醤油がほしかったですが美味しくできた自信があります。

 3人は事前に配ったレシピを眺め各々メモを取っています。ここから逃げ出して、芝生の上でゴロゴロしたい。せめて無言やめませんか?

 ねぇねぇねぇ。……あ、はい。すみません。次だします。


 2品目『薄切りの豚肉と玉ねぎのケチャップ炒めINとろーりチーズ』。

 名前の通りに炒めケチャップで味付け。

 その後チーズまぶして窯でとろけさせて出しました。

 とろけるチーズがほしいところでしたがなければ無いでいいのです。

 3人が食べ始めました。

 何かうんうんと納得しながら食べたり。瞑想しながら食べるのはどうなんでしょうか……。

 おいしい?ねぇ、おいしい?


 3品目『ケチャップで味付けロールキャベツ』。

 ロールキャベツそのものです。

 見た目で引いています。戸口で父がうんうんと納得顔です。

 いえ、うちの料理で似たようなのあったよね。

 そんな父に権三郎がそっとロールキャベツ(食品サンプルの様に半分に切られたもの)を渡しています。……食べるならこちらに来てほしいところです。


 4品目『ナポリタン風』家で扱っているショートパスタを細長くして普通のパスタを作りました。

 食べ終わった後にケチャではなくミートソースで作ったほうも配ってみる。

 どうやらこれは好みが別れたようだ。想定通りだ。

 父はナポリタンの方には渋い顔をしていたがミートソースのほうは納得顔。いいなぁ……その立ち位置。


「我々は別室で検討に入ります」

 そういって3人は無言で部屋を出ていった。

 代わりに父が入ってきてテーブル中央に盛り付けられた料理を1つづつつまんでいきます。私の知っているレシピは醤油ありきだったので正直微妙なのかもしれません。

 父は私にかける言葉を探しているようですが思い浮かばなかったらしく。

 『残りもらっていく』と言って部下を呼びお持ち帰りさせます。

 ねえ……。

 誰か……。

 美味しいとか、美味しくないとか言っていこうよ……。

 作った人悲しいよ?

 プロじゃないのよ?

 ……む、作った人、権三郎でした。


「権三郎、ご苦労様。おいしかったよ」

 なぜでしょう、今なら他人に優しくなれそうです。豚さんに慰めの手紙でも書きましょうか……。

 そして誰もいなくなった……、をリアルに味わった。

 むなしい思いを抱えながら定番の裏庭へ。後片づけは権三郎がしてくれました。

 こんな時は宝物を眺めて癒されましょう。

 腰に下げた袋から先日拾ってきた魔石を取り出します。

 指先大の大きさですが半透明で水色の奇麗な石です。

 石の中には先日魔法力で埋め込んだ線が残っていた。本当に線だけだった。

 これから発展できるのであろうが、私はその手の勉強禁止だそうです。禁止されるとやっちゃうのが人間。

 さきほど料理で虐げられたので勉強はしないけど実験はするもんね。

 え?勉強につながる?

 しらなーい、僕3歳だから遊んでるだけ―。

 よし、そういう事にしよう。

 

 まず今あるこの線を消そう。

 前の時の様に『消えろ』と魔法力を込める。数秒待つと魔石が小さな光を放つ。光が収まると魔石の中の線は消えていた。

 さて開始だ。

 まずは簡単なものがいいだろう。

 『赤い光を放つ』を意識して魔法力を注ぐ。

 この後どうしたっけ。何も意識しないで魔法力流しただけだっだろうか。とりあえずやってみよう。

 魔法力を流して数秒。魔石を覗いてみると1本の線が伸びていた。

 室内灯の魔石のもっと回路的な線だったはず1本ではない。これは単調な命令だったからだろうか。

 とりあえずやってみないとわからないので、少量の魔法力を流す。少量流すのは生活魔法具を使っていてなんとなく覚えた。無駄に強く流して魔石を壊すことは……たぶんないはず。

 ドキドキして待ったのは1秒満たない時間だった。魔石は内部から赤い光を放ち始めた。光は1分後徐々に小さくなって消えた。

 次はもう少し多く魔法力を流してみた。すると今度は比べ物にならないほど強く光る。やはり光は徐々に弱くなる5分ほど光っていた。

 

 次の実験を行う。今度は複数条件だ。

 魔石の中を消して以下の3つの条件を記載する。

 ・魔法力をためる

 ・蓄積した魔法力使用する

 ・蓄積した魔法力がなくなるまで光量を10として光り続ける


 なんだかプログラムを思い出す。

 げんなりとしつつ無色の魔法力を流し込んだ。

 魔石を覗くと3本の線が複雑に絡まっている。

 成功のようだ。

 魔石に魔法力を流し込む先ほど5分光ったのと同じ量だ。

 魔法力の入力が終わり魔石から手を放すと魔石の中で豆電球程度の光が発生していた。

 あーこりゃ魔法力消費に時間がかかるな。


 私はこの魔石が終了するまで待つのをやめて魔石を光ったまま袋に放り込む。

 実験は成功だな、そしてなぜだかプログラムのように動くということがわかった。

 実際の職人たちも同じことをしているのだろうか。気の長い話だ。だけどそういった1つ1つの下積が高度な文明、学問の礎となる。


 だが私は学者になるつもりはない。

 面白そうだったからやっただけだ。まだまだ時間はありそうだったので庭の隅に置かれたアシ〇もどきの作成途中の案山子に駆け寄る。魔法の練習だ! 今日こそ農業魔法だ!

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