第14話「反省」

 「農業魔法」に熱中しているとお昼です。

 普段は祖父のところか母のところでいただくのですが、今日は母が在宅ですので祖父のところでしょうか。

 もしかしたら先ほどのパスタ(こちらではポロロというらしいです)を追加で作るのでしょうか……。

 気になったのでケチャラー会議室こと祖母の研究部屋の戸を叩きます。

 「はーい」と中からミリ姉の声が聞こえてきます。どうやら会議は継続中だったらしい。


「お昼どうしますか?」

「まーちゃん。私たちはおなか一杯だからお爺ちゃんのところで食べてもらってもいいかな?」

 母は片手にクッキー、片手にお茶を持っています。

 ……どうやら皆さん、今まで食後の一服時間だったようですね。

 ……おっふ。この状況聞いたことがあります。

 たしか私の記憶が確かなら………………そう、育児放棄!

 衝撃です。

 現代の社会問題が私を中心に巻き起こっています。

 私がジィーっと音が出るほどじっとりと視線をテーブルの上に置かれたクッキーに視線をおくると、祖母がクッキーにそっと布巾をかぶせ、初めから何もなかったように微笑みます。

 いや、無理ですあなたの横の女性がおいしそうに咥えてますよ。証拠はいまだ犯人の手の内にあります!

 

「まーちゃん、ごめんね」

 ミリ姉がそう言ってポケットの中から飴ちゃんを取り出し握らせてくれます。

 そして、ゆっくりと扉が閉じられました……。

 ……異世界で……異世界で……フェミニストが息をしていない!?

 何だろうこの疎外感……。

 なんだろうか幼児であれば男でも女性の集いに……、女風呂にも一緒に入れるというのに!

 この扉は何でしょうか……。

 男性差別の越えられない壁でしょうか。

 世の中不条理です。というか、中世って男性優位社会だったはずでは?

 レディーファーストって本当は『危険がないかお先にどうぞ♪』って意味だったはずなのに。

 なぜでしょうか?

 うちでは完全に逆転してます。現代日本もびっくりの女性優位社会です。

 ……ふぅ、なんだかんだと言っても結果は変わりそうにないですね。

 あきらめますか……。

 ……あ、先ほどのお風呂の話ですが、一度も女湯に入ったことないですよ。

 お家で一緒に入ってくれるのはお父さんです。

 いつも癒し系のバン兄と3人で入ってます。ふむ、気にしてはいけないですね。


 いつも通り権三郎に乗ってまずは研究所に配達です。

 守衛さんが「お母さん居ないよ?」と教えてくれます。

 パン配達のお使いなのです。と話すと飴を頂きました。いい人です。

 研究所で今日の受け取り担当の研究員さんにパンを渡します。

 おいしい食べ方はないかと聞かれましたのでレタスやお肉など挟んでみては?と簡単なアドバイスをすると。『なるほど、そこでケチャップだね!』と帰ってきます。

 否定はしません。ハンバーガぽくていいかもと思ったので。

 相変わらずマヨネーズに人権がありません……。仕方ないですね。

 職員さんはパンを受け取ると撫でてくれます、ですがパンは分けてくれません。

 キラキラアイズを使用していないので仕方ありません。あれはお母さんにおねだりする時専用です。

 安売りはしない主義なのです。

 さすがにおなかが減ったので守衛さんからもらった飴を頂きます。うん。甘い。

 いつもの様に私と権三郎の存在になれた街をぬけて農業ビルへ向かいます。

 ……あれ、小屋じゃない。立派なビルだよ。


 ビルにつくと祖父が迎えてくれます。おなか減った!

 というと『食え喰え』と水戸黄門笑いです。

 祖父と一緒に水戸黄門笑いをしつつ、権三郎を簡易の料理場へ派遣します。

 そうジャガイモのオムレツを作ってもらうためです。

 権三郎に持たせたリュックにはありったけのケチャとミートソースを詰め込んできております。みんなで食べましょう!。

 足りなくなったら先ほど出さなかったパスタも満載なのでそれを食べましょう!

 あ、まかない用にソーセージお忘れなく!

 茹でてパリッと行きましょう!

 何?やりすぎ?すべては私をハブった皆さんが悪いのです。

 持ち出した食費は必要経費としてケチャラーの会からいただいた物資で賄われております。残念でしたね。クッキーを分けていただければ、トレードしましたのに。うふふ。

 無礼講なのです!!

 結果からお伝えします。祖父が夕食の席で自慢げに語ってばれました。

 食材横領の罪で来週までにあと3つレシピを考える旨沙汰がおりました。

 ……横暴ではないでしょうか。

 3歳児の相談を受け付けてくれる機関は無いでしょうか。あ、ご存知かと思いますが児童相談所はお子様をお持ちのご両親用の施設です。


 時間を戻しますが、権三郎が荷物を載せている時間で施設内を見学しました。

 ニワトリに『似た』鳥を裁いているところにも遭遇しました。

 職員さんに尋ねたところやはり軟骨は捨てているようです。

 もったいない。揚げ物の許可を頂ければ唐揚げにいたしますのに。

 ちなみにわたくし現在揚げ物は全面禁止になっております。

 理由は2つ『コスト』と『危険性』です。

 権三郎がいかに優秀でも初回は近くで指導しなければなりません。油とか高温ではねるものの近くに幼児を置くのは危険という判断ですね。早く大きくなりたい限りです。

 お店に戻り納品物を引き渡すとたまごサンド会会員3号が声をかけてきます。


「明日ですね。調理長から許可もいただいてますし準備万端です。楽しみですね」

「ああ、すべてはSパンのために」

 敬礼してみます。


「すべてはSパンのために、ちなみに同志。明日の朝、野菜と卵の仕入れお忘れなく」

「抜かりない。すでに話は通してきた」

「さすがです」

 ……ようやく敬礼が帰ってきます。そしてそれを見ていた父が『育て方間違ったかな……』とつぶやいてます。

 失礼なこんなエンゼルなマイルズちゃんを前に何てことをいうのですか……。まーちゃん閻魔帳に書いておきましょう。いつか後悔させます。

 ん?あ、クッキー焼いてくれたんですか?『わーい、見せつけられて悔しかったのです。お父さん大好きです♪』そっと閻魔帳に二重線で取り消しを入れておきましょう。命拾いしましたね……。

  

 さぁ、午後からの自由時間です。

 何しましょうか……。

 そういえば午前に作った魔法道具はどうなったでしょうか……まだ光ってます。

 驚きです。

 驚きの省魔法力。エコですね。まーちゃんに優しいエコな魔法具です。

 なんとなく愛着がわきました。エコって良い言葉です……。

 おっとまだ光っているということは水色のほうは使えないのですね。

 赤いほうでやってみましょう。色によって違いとかあると勉強するとき楽しそうですね。

 真面目に魔石へ向き合いましょう。

 基本の光らせるはできました。基本ができれば少し応用してみましょう。どうしましょうか。

 ふっと前世のプレゼンでレーザポインタを使っている人たちを思い出しました。

 あれ見やすいようで見づらかったなぁ。でも光で作れるとしたらあんなものかな。

 思い立ったが吉日です。

 早速条件を考えてみましょう。

 まずは、赤のレーザポインタが多かったですね。

 たぶん赤外線のほうが扱いやすかったのでしょう。

 実行『赤外光線を射出』

 次は持続時間ですね。別に継続的に出したいわけじゃないから特別条件は必要にですかね。

 おや、これだけ? ……いや違った。このままじゃ全方位に発射しちゃうな。

 条件『魔法力が入力あった面と反対に射出方向を設定』かな?

 おっと、もう1つあった。光の波動調整だな。このままじゃ単なる赤いライトだもんね。

 ……確か……コヒーレント光だったね。

 条件『射出する赤外線をコヒーレント光とする』

 う、うーん。これちゃんとできるかな………。とりあえず魔石に書き込んでみよう。


 ・魔法力が入力あった面と反面を射出方向とする設定

 ・射出する赤外線をコヒーレント光とする

 ・赤外線を射出


 よし魔法力で定着! いってみよー!

 魔石が光りだしました。

 妙に長いのでこの魔石直接持つの少し怖くなってきました。

 なので、近くに落ちていた比較的まっすぐな枯れ枝の先を直角になるように折り、お家から麦から作ったと言う糊をもってきました。準備万端になったところでようやく魔石が落ち着きます。正直この時点では『コンパイル長かったな』ぐらいしか思っていませんでした。

 出来上がった赤い魔石を太陽に透かすと3本線が妙に蛇行してます。大丈夫でしょうか。

 不安になりましたが、やらずに後悔するよりやって後悔しろとも言いますし、こういう時はGOなのです。

 木の棒の先に指先大の魔石を糊で貼り付け、いざ実験です。

 目標は2m先の岩ですかね。少し高めに設定してっと、「おかーさん。今こっちで遊んでるから近づかないでねー」というと洗濯物を取り込んでいた母が「何々なにしてるの~」と寄ってきます。正直後ろにいてくれれば危険性もないでしょう。ではいざなのです。

 この後、私はつくづく不幸のもとに生まれてきたのだなと思い知ることになる。

 やってしまった直後は本能に従ってましたので何も考えられませんでした。

 先に記述したほうが良いと思いここに記します。


「では、3秒後魔法力通します……3、2、1」

 実は魔法力を木の棒に通したことがなかったので魔石まで通じるのか不安でした。

 様子をうかがう限り順調に魔石まで到着しました。ここまでは私も成功のイメージしかありませんでした。

 それは魔石が光を持ち『ブン』という音を出したのと同時でした。

 庭に突風が吹き『実験場の真横で干されていた洗濯物が風に吹かれて射線上に舞い上がった』のは……。

 しかもお母さんのお気に入りのワンピースが…‥、次の瞬間『ジュ』という音で私は逃げ出したい本能に襲われます。

 ですが……、そっと…‥、でも力強く乗せられたその手は逃がしてくれないと如実に語っているようでした。

 失敗したとき、社会人としたやるべきことは2つ。

 迅速に影響と対策を練る。そして誠意をもって……謝る。

 その法則にしたがい、私は反転すると木の棒を手前において、誠実に土下座するのでした。


「申し訳ございませんでしたーーー!」

 怒られても被害は最小に、お互いの信頼関係は失敗した時にこそ、失敗を隠さず誠意を持って対応してこそ構築されるのです。

 さぁ、母よ煮るなり焼くなりしてください。

 ん? 明日のSパンの会に参加させろ?

 あ、はい。喜んで。ていうかなんでSパンの会の事を……いえ、不満はございません。

 参加嬉しく思いますマム!

 さて祖父のところに言って追加発注しなければですね……はぁ……。

 結局、魔法具を勝手に勉強していた、作っていたという罪状を追加されたお説教会は夕食後長く続きました。

 助けてほしかったのですが、救援はきませんでした。皆さん目を合わせてくれません。

 まーちゃん閻魔帳は今日も追加項目が多いです。

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