第12話「ポチとタマとウッサと僕」
一カ月ぶりの交流会。
今日はお呼ばれしなかったはずなのですが、なぜか祖母に引きずられて参加しております。
豪農の嫁は社交性が高いらしいです……。
若いころの趣味が全世界食べ歩きだったらしく、顔も広いらしいです……。
元はどこぞのお姫様なのでしょうか。セレブなのです。
ということで獣王家やら領主様やらとうちの祖父祖母が並んでもそん色ありません。
何故かこちらのほうが格上に見えてしまうので困ったものです。
我が家は農家さんです。
一般市民のはずのです。
一般市民としてのプライドをなめないでほしいのです。
ポチとタマと触れ合えるのは正直嬉しいのでまぁいいです。
まってください……そういえば私の同世代の友達はこのお2人だけです……。
なぜでしょう?。
私は小さな脳みそをフル稼働します。そして結論にたどり着きます。
『公園デビュー失敗』
そんな言葉が浮かびます。
というか両親忙しい方なので、そもそもデビューしておりません。
まずいですね。今度権三郎に仮装させてデビューしてきましょうか。
ぐぬぬ。いかがしたらよいでしょうか。
「まーちゃん。今日は大変高位の方が来ますからね、失礼のな……いえ、あってもいいですが、やりすぎないようにね」
祖母はそういって私の頭に優しく手を置く。
聞いていた皆様が首を横に振って『イヤイヤイヤ』とやっているが祖母に反論しようとするものは居ない。
皆様、はっちゃけてよいっていう振りですね。
空気を読むのは特技なのです。
はい、読みましたよ。お任せを、きちんと接待いたしましょう!
そのまま私は護衛の権三郎に連れられて子供の集まる会場に向かいます。
先に到着しているポチとタマ。いえ、今はホーネスト様とネロ様がいます。
挨拶をすると『来ない予定』だったので驚かれます。
ポチタマ状態じゃないので【すこしがっかり】しましたが、話を合わせます。
石鹸はご家族にも大変好評だったようです。
もっと隠しているのでは疑われてしまいました。
……山賊なんでしょうかこのお犬様。
ポチタマの癒しがほしいので後で煽ってみようと企んでいるともう1人現れました。
「こんにちは、イーリアス・アイノルズです。よろしくお願いします」
15歳ぐらいであろうか背の高いお兄さんが態々私たちの視線に合わせるようにしゃがみ込み、やしそうな瞳で私たち1人ひとりの目を見て挨拶をする。
おお、歳不相応にできた人だ!
ん?アイノルズですか。では祖父の長男一家の方ですね。
ちなみに「アイノルズ」の家名は直系の1家のみ継承可能な家名のようです。
現当主が引退して次代を継ぐとかの際に他の兄弟たちは国より別の家名を買うのが習わしのようです。
また、お父さんの様に結婚を期に変えてしまうのもあるそうです。どちらかといとそちら主流だそうです。
我が家の本家筋のお兄さんの丁寧なごあいさつにポチ・タマは頬を染めてぽーっとしている。
2人の反応はわかる。
見事なまでの貴公子だ。
もっと大人になっていたら嫉妬したかもしれないが、今は幼児、逆に『うちの親戚の兄ちゃん。かっこいいだろ』という気分です。
私はイーリアスのズボンのつかみこういいます。
「イーリアス兄さま、初めまして マイルズ・アルノ― 3歳です」
「はい、マイルズ君しっかり挨拶できてすごいね~」
撫でられました。気分アゲアゲです。
「イーリ兄って呼んでいいですか?」
イーリ兄は目尻を下げ「いいよ」と言ってくれたのでこれ幸いと背中から抱きつきます。
かがんでいるのでこれ幸いと靴を脱ぎ背中を登っていきます。
「靴は、あ、しっかり脱いでるのね……」
少しあきれがちなイーリ兄の声。そして、私を支えるようにそっと手を当て。
「しっかりつかんでなよ~」といって立ち上がります。
おお高い! 少し不安定ですが楽しい。
ふふふ、私を見上げるポチタマどもよ。頭が高い! なんてな。うらやましかろう。だが君らはすでに大きく育っている。残念ながらおんぶを楽しめるのは私だけだ。
優越感を味わいながらポチタマを見下ろします。そして完全勝利のスマイル&ウェーブハンズです。
「いくよー」
イーリ兄からぼそっとそんな声がします。
ん?何なんでしょうか。と思っていたら急回転です。
怖いです。遠心力を感じて声が出ます。ですが1回転しないうちに嬌声に代わります。
楽しかったのですがすぐに降ろされました。
私が笑顔全開でいるとイーリ兄も満面の笑みです。本当にいい人です。
いい人は空気も読めます。
期待のまなざしを向けるポチタマに手を伸ばし両手をとるとジャイアントスイングの様に回し始めます。
そばに控える護衛達は戸惑っていますが、本人たちが笑顔全開なのでオロオロするだけです。
ポチタマのお相手が終わると、イーリ兄もさすがに疲れたのか息を切らせております。
しかし護衛達を不安にさせたことに気づいていたのでしょう、彼らに向けて軽く頭を下げます。
イケメンおそるべし。その所作は非常に洗礼されています。
非常に心地の良い空間でした。
そう、『でした』。
「楽しそうだな、出来損ない」
10歳ぐらいのオークがニタニタしながら歩いてきます。
何を勘違いしているのでしょうか?
そしてどこの飼育小屋から抜け出してきたのでしょうか?
私はパンパンと手を叩き権三郎を呼ぶ。
「権三郎、豚舎の指揮官機を呼び出して」
「はっ、マスター」
私は案山子ネットワーク(そんな無線ネットワークが彼らの同型の脳である大型魔石に組み込まれていたとは知りませんでした。恐るべし異世界)で指揮官機を呼び出してこの脱走者を持ち帰ってもらいましょう。
「マイルズ君、この子はね。豚さんに見えるかもしれないけど、ギリギリ僕の弟なんだよ? 豚さんじゃないんだよ?」
『ギリギリ』の部分で護衛達が口に手をやっているのが見えます。
お姫様達は遠慮なく爆笑です。
「な!」
豚さんは怒りのあまり声になりません。
「でもこの豚さん、このままだとかわいそうですよ?豚さん、服着せられてストレス状態ですよ。豚さんに服を着せるのは人間の自己満足で豚さんかわいそうですよ?」
豚さん怒りのあまり腰の剣を抜きます。はい、チェックメイト。
「貴様! 名乗れ! このルカス・デ・アイノルズが孫、ジュリアン・カ・アイノルズが成敗してくれる!」
ワナワナ、カタカタしています。
え?怒っているのは私の方だよ。
私が認めたイーリ兄を『出来損ない』だと?
魔法名を持っていないだけじゃないのか?
もって居ないだけでその態度か?
いや言わなくてもわかるよ。君たち兄弟がどのような立ち位置で生活をしているのか。親の責任だな。
だが増長したのは君の責任だ。
「豚さーん、ハウス!」
青筋が見えます。
「我、武神に決闘を捧ぐ!」
変な祝詞を唱えます。豚さんの剣に青い光が宿り、それを私に投げつける。
「権三郎」
呼びかけると権三郎はゆったりとした動きで、腰のものを鞘ごと抜き放ち、豚さんの光を叩き切ります。
相応の速度がないと私に当てるのは無理です。
恰好つけて遅い光の様なもの投げるからこうなるのです。
そもそも本物の光や、雷なんて人間が認識した時には当たってるものなのです。
避けようと思ってよけれるものではないのです。物理学をちょっとかじればわかることです。
理系馬鹿にしているのでしょうか?
もちろんですが、私の挑発と同時に、豚さんと私の間に権三郎が立っていました。
高速で発射してもこの最硬強度の護衛を豚さんごときがどうこうできるものではないのです。
さて、先ほどのは決闘の申告だったのでしょうか。受けれましたかね。
どちらにしろ結果は変わらないのですがね。
ふっと豚さんを見やると権三郎に叩き伏せられていた。
ほどなくして大急ぎで祖父と見たことのないおじさまが現れました。
事情を聴いて祖父は爆笑。おじさまは顔を青ざめます。
それはそうでしょう。
格上である獣王家と格下である人間の友好の場で、人間側の招待客が、護衛でもないのに帯剣、あまつさえ獣人王家第一王女の御前で抜刀。……宣戦布告なのでしょうか?
なので私は徹頭徹尾『豚さん』呼ばわりなのです。オークは魔物さんですからね。無礼打ちは単なる討伐です。
え?私もたいがいだった?
3歳がじゃれただけで本気で戦争したなど獣王家の面子が傷つきますよ。
お子様でもやっていい範囲と悪い範囲があるのです。前者が私で、後者は豚さんなのです。
というか、はめたのは私なんですがね。奇麗にはまってくれましたね。
見たことのないおじさまは沈痛な面持ちで頭を抱えています。そして平謝り。大変そうです。真面目な方のようですので、今後心労で禿ない様にマイルズは祈っております。
後日、豚さんは家名はく奪の上大変厳しい教育にぶち込まれたようです。合掌です。
さて、豚さんのせいでとても場が冷えました。
場が冷えてお茶も冷えてしまったせいで先ほどから、こちらの様子をうかがっているお嬢様、が参加できなさそうです。思い切って誘ってみましょうか。
「さて、お茶を入れなおしましょう。あ、そちらのお嬢さんもご一緒にいかがですか?」
私の声に木陰から、ピョコンと耳が生えます。
様子をうかがうようにして、ゆっくりと6歳ぐらいでしょうかウサギ型獣人の女の子が現れます。
「いいの?」
「どうぞどうぞ」
たぶんこの方が『大変高位の方』という子なのだろう。
とりあえず自己紹介と軽いトークから様子を探りましょう。
うさ子ちゃんがお茶会の席に座る。では早速。
「私はマイルズ・アルノ―3歳です。で、こちらが」とポチに向ける。
「ホーネスト3世ですわ」
「いえ、ポチです」
唖然と口を開くポチ。はしたないですよお姫様。
「隣の方は……」
「ネロです。ネロほかの呼び方はありません!」
「タマ、興奮したらいけませんよ。はしたない」
唖然とするお姫様2人目。
「あ、その隣のかっこい人がイーリ兄さん」
「イーリアス・アイノルズと申します」
『扱いが違う―』『イケメン逆差別はんたーい』等々お姫様方は自由なご様子。
うさ子ちゃんも控えめに口に手を当て笑っています。自然な流れです。
「お名前をうかがっても?」
私の言葉にうさ子ちゃんではなくほかの皆が反応します。
あれ、なんかまずいこと言った?
地雷踏み抜いた感が半端ない。
「わたくし神獣の御子ですので、名前はございません。必要がないとの理由で持っていないのです」
「神獣の御子様ですか……」
私がそういうと、うさ子ちゃんは少し残念そうだ。
……!
私は空気の読める男。よろしい期待に応えると致しましょう。
「ウッサ」
「?」
うさ子ちゃんの耳が再び伸び切ります。
「愛称などいかがでしょうか? ポチ、タマ、ウッサ なんていかがでしょ?」
うさ子ちゃん改めウッサはどんどんと顔を赤く染めてゆき、気が付いたらテーブルの下に隠れ、ついには勢いよく走りだしてしまった。
「あー」
頬をかく。
ポチを見る。軽く首を横に振られる。
タマを見る。軽く首を横に振られる。
イーリ兄さんを見る。苦笑いだ。
うーん。やっちゃたかな?
空気読めなかったようです。どうリカバリしましょうか。
本日のお茶会は私を気遣った沈黙のまま終了しました。
あ、イーリ兄は近くこちらに文官研修で引っ越してくるようです。楽しみです。
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