第8話「マヨラーよ永遠に…」

 雨上がりのその日。

 じめじめしつつも晴れ上がった晴天が気持ちいいので思わず伸びをするけど背は伸びない幼児。そうマイルズです。おはようございます。

 さて……では今回は、私の1日について紹介しましょう。

 3歳児なので大したことはしておりません。過剰な期待はご遠慮願います。

 食べて、遊んで、寝るが基本です。


 まず、朝起きます。

 おばあちゃんに手を引かれながら時計塔に向かいます。

 最近朝は権三郎とザン兄のコンビでパンを大量生産しているみたいで権三郎はついて来ません。

 ………ぐむ、うちはいつからパン屋さんになったのでしょうか………。


 帰ってくるとザン兄定食が食卓に置かれています。

 この間『塩分とりすぎは体に悪いのでは?』とささやいてみたら見事に薄味です。

 こちらのほうが自分で調整できるので良いといえばよいですが………、いまだ『残念定食』と言われています。主に私の中でのみですが。

 パンはなぜだか権三郎との作業を経ておいしくなってきているみたいです。ザン兄さんは努力家タイプのようですね。


 さて朝食を食べ終わるとおねむです。祖母に抱えられてベットにダイブインです。いつもお昼前に起きます。

 起きると執事服に着替えた権三郎が待機していますので、お母さんと祖父のところへお使いに行きます。


 お母さんの研究所は町の中心部に少し行ったところなので近いです。

 権三郎に背負われながら門をくぐると、守衛さんが笑顔で挨拶をしてくれます。

 挨拶は人間関係の基本です。私もしっかり返します。

 母の執務室の前に来るといつも必死に筆記する音が聞こえます。

 母は我々子供たちと触れ合うためにこうやって必死で時間を作ってくれているのです。

 ポンコツに見えるのは愛嬌なのです。

 そう思いたいという願望では無いのです。


 今日は祖父からお昼を分けてもらう日なので、母にパンを届けると母の膝の上で小休止してから研究所をでます。

 なぜだか最近この研究所の女性職員が私を餌付けしようとしてきます。

 『知らない人からものをもらってはいけません』という幼児のお約束を守り【少し】しか受け付けません。

 もらった研究者さんにはこっそりと後日伺い、ちやほやしてもらっています。

 これはWIN-WINの関係なので仕方ありません。

 ……何故か最近男の人も増えてきたのですが……、これは貞操の危機というやつでしょうか。


 さて、たっぷりと癒された後で西門を出て祖父の実験農園にある作業小屋?というには立派すぎる建物へ向かいます。

 扉を開けると祖父とその部下たちが迎えてくれます。半端ない野郎率です。

 当然の様に祖父の隣へ座りパンを頂きます。そして今日の献上品を頂きます。

 トマトさんです!

 卵さんです!

 トマトおいしー!

 卵はゆでましょう。ゆで卵とパン……こっこれはマヨか!?、マヨが必要なのか!?


 お昼を頂き満足したところでお店への納品物を積み込んで帰ります。権三郎は働き者です。

 お家にたどり着くと眠くなったのでベットへダイブ!

 そして夕飯前に目覚めます。その後、夕飯を頂き絵本を読んでもらいながら舟をこぎます。そして就寝になります。


 ハードスケジュールでしょ?

 実は最近、午前か午後のお昼寝、どちらか寝てしまったら片方は自由時間だったりします。

 その時に「農業魔法」の訓練していたりします。


 そして本日、午後のお昼寝をせず、マヨネーズについて考えています。柔らかいパンにはさむには卵ですね。たまごサンド!

 懐かしいですね……忙しかった頃定番の朝食でしたね。

 我が家のたまごサンドは玉ねぎ入りなのです。あの食感がいいのです。

 ということで本日の企画はたまごサンド復活に向けてマヨ開発です。

 しかし、マヨネーズのレシピが思い出せません……。

 いえ、なんとなく覚えているのです。攪拌させながら入れるのが酢だったか油だったかよく覚えてないのです。あと分量も。

 酢に関しては実はもう入手しております。

 ……なんとこの世界、というかうちの祖父なのですが、20年前の大戦で軍需物資として日本酒の蔵を立てていたりして、其れが現在結構メジャーだったりします。

 まぁ、戦争時の思い出なので『美味しくない安酒』として認識されているようです。

 冬場は熱燗で1杯が生きる糧であった私です。そんな不当な評価許せません。

 ……おっと、それましたね。酒を作っているということは! と思って聞いてみるとあまり流通してないそうですが酢もありました。ですので確保済みです♪

 とにかくトライ&エラーです。夕食後にお義母さんに許可を頂いて明日試してみましょう。


 と昨日動いてみたのですが、早速『本日のおやつの時間ぐらいにやってよい』とご許可いただきました。

 ただしお母さんの監視元という条件付きですが。……信頼がないですね。仕方ない話ですが。

 権三郎とお母さんが私の前でスタンバイ完了です。

 そしてなぜだか期待に満ちたまなざしの家族がその後ろに勢ぞろいです。

 皆さん、そんなに楽しみですか?

 マヨラー予備軍みたいで怖いですよ?

 ……兎にも角にも作りましょうか。


 権三郎に指示を出し卵黄、塩、からし、酢を混ぜてゆきます。

 その後油を少しず追加かしてゆき攪拌、乳化させてゆく……はずなのです。

 手順間違ったかな。でもマヨってほぼ油だから油でいいはず……。

 信じて追加していきます。

 今作っているのはたまご3個分です。

 たまごと等量程度の油を少しずつ入れております。

 すでに周囲の女性陣からは『そんなに油を……』と漏れておりますが、サラダのドレッシングも同じですよ? と言ってあげたい。

 ふむ、周囲の反応が悪いですね。油まみれであることへの忌避感と、見慣れない色で粘性が出てきた物体、確かにこれ初めて食べると思うと先入観ありそうですね。

 マヨネーズ自体は私が知っている物になってきました。ここで1つ味見です。

 スプーンで掬って手の甲に乗せなめます。うん、私が知っているマヨネーズだ。


「完成?」

「ええ、できましたよ。調味料というかドレッシングの類ですが」

「そう、じゃ食べてみてもいい?」

「あまり量を食べないでくださいね。調味料と思ってくださいね。味濃いですからね。」

 なんとなくリアクションが想像できたので、保険かけます。ですが。

 母の眉間にしわが寄ります。


「じゃ、俺も」

 父を始め、次々に家族が試食を始めます。すると口々に。


「これはちょっと………」

「食感が気持ち悪い」

「ぐえ」

「すっぱいの、油っぽいの……」

 等々異世界の方にマヨネーズは大変不評のようです。

 その中で唯一父だけが『これは組み合わせによってはありか……』と料理人目線です。

 ザン兄貴方も料理人目指すなら父のような反応しなければいけないと思うのですが、なぜトイレにダッシュしているのでしょうか。

 やめてください3歳児の豆腐メンタルに刺さります。その行動。

 その後皆さん『天才にも失敗はある。むしろ安心した』などと言いながら三々五々解散してゆきます。

 異世界はマヨラーには生きずらい世のようです。ま、私 、マヨラーじゃないのでいいんですがね。

 現在、私の前に残ったのは母と父の2名。

 母は失敗がうれしいらしく笑顔です。父は職人の顔です。

 ふむ、では本番と参りましょうか。

 すでに下準備は完了しています。

 目くばせをすると権三郎がゆで卵4つと玉ねぎ1つそしてパンを8個ほど持って食卓に現れます。

 そうです。これからたまごサンド復活祭なのです。

 家族たちは残念がって出てゆきましたが、個人的には取り分が増えたと内心ガッツポーズだったりします。


「これから、そいつの活用方法ってやつか。えらいシンプルだな」

「包丁を使うので見ててください」

 権三郎が最後に包丁とまな板をもって食卓に着く。いざ、決戦です。

 まずは玉ねぎをみじん切りにして乾いた布巾に包み水気を取ります。

 次に同様にみじん切りにした卵を木べらでいい感じにつぶしてゆきます。

 ここでマヨと玉ねぎを追加。マヨで味を調えます。私が味見をしながら調整します。いいですねたまごサンド降臨が見えてきました。

 用意したパンに切れ目を入れて出来上がった具をたっぷりとはさんでゆきます。

 バターロールですがたまごサンド完成です。

 権三郎が調理器具などを片付けてもらう前に、1つだけ真ん中から2等分にしてもらい両親に見せつけます。サンプルです。おいしそうでしょ?


 ………反応は依然よくありません。解せぬ………。

 ……そんなお二人はおいて、私はぱくつきます。

 くぁ~~~~、ずいぶん懐かしに感じます。たまごサンドの降臨で間違いないです。

 私の静かなガッツポーズに訝しげだった2人もおずおずとパンを手に取ります。

 母は眉間を寄せて新薬の被検体にでもなった面持ちです。とても失礼なのです。

 父は好奇心優勢です。とりあえず口に含んでみるようです。


 1口目の感想は出てきません。まぁそこ具が入ってないですからね。

 3口目ぐらいでしょうか二人に顕著な変化が訪れます。

 母は眉間に深いしわを作り、パンを手放してしまいました。

 逆に父には「あり」だったようで食べる勢いが増しました。

 私もそっと2個目に手を伸ばすのですが、母に止められます。


「晩御飯が入らなくなるので1個だけよ」

 手を払われます。愛しのたまごサンド様が遠のいてゆきます。


「ふむ、残りはもっらていくな」

 そういって父はマヨ、たまごサンド、たまごサンドの具をお盆に乗せてお店の厨房へと消えてゆきます。

 たまごサンド、かむばーーーっく!

 ……帰って来やしませんでした。

 私とたまごサンドの関係が悲恋に終わったその日の夕食の後、珍しくお店を抜けてきた父が私に笑顔で言います。


「今日作ったの店のやつに言えば追加で用意するから、ほしくなったらいうといい」

 神様ですか貴方!


「お父さんありがとう!」

 椅子を飛び降りて全力ダッシュ&タックルです。

 ああ、父よ。私はあなたの息子に生まれてよかった。

 普段から『家族の中で影薄い。ご苦労されてますね』とか思っててごめんなさい。今日から感謝して過ごします。

 猛烈に盛り上がる私に、他の家族は不信のまなざしです。

 知ってますとも。変わった味は受け入れられずらいことなど、でもね。それでも私のたまごサンドへの情熱は抑えられないのです。



 本日の異世界マヨネーズ計画は失敗しました。

 ですが後日お店の従業員のなかで数名「たまごサンド」フレンズができました。私はそれで満足なのです。

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