第4話「チートさんはどこにいったの?」

『異世界といえばチートっすよ!』


 こんにちはマイルズです。

 冒頭のセリフは会社の後輩が楽しそうに語っていたそれです。私の境遇を鑑みてふっと先日思い出しました……。

 あれは企画部との打ち合わせのために本社ビルに行った帰りだったな。……ていうか何気にあの時の昼飯私のおごりだった。ハードな会議後だったから油断してた。


 その後輩曰く『異世界行ったらリアル【見た目は子供、中身は大人】と【先進技術で中世文化に革命】ができますよ!生まれながらの勝ち組っす! 俺、呼ばれねぇかな?』

 いや君ね。一応うちの会社に入るって結構勝ち組なのよ?同期とか周り見た?超一流どころの出身者ばかりだよ。

 なぜ異世界に行きたいのか理解できなかった。

 そんな私が今、…………なぜか異世界にいます。いまだ良さがわかりません。

 というか、後輩君が言っていたこと不可能なのですよ。

 まず『見た目は子供、中身は大人』と言われましても子供は子供です。

 大人ならわかるかと思いますが、知恵のある子供も、知恵のない子供も、大人から見れば一緒なのです。

 なぜかって?

 経験がないから知恵を生かせないのです。本人が培ってきたバックグラウンド、キャリアとも言いますが、それが子供には致命的にないのです。

 社会では信用がなければ何もなしえません。なので、中身が大人でも結果は子供なのです。変わりないと結論します。


 次に『先進技術で中世文化に革命』でしたっけ?

 基礎工学も素材開発もままならない状況で本気で言っているでしょうか。よしんばご本人ができても他人ができないので『変人が変なもの開発してる~』って指さされて町の嫌われ者コース一直線です。そもそもそんな物に理解を示してくれる中世の人間がどれほどいるのか、いたとしても『奪ってしまえ』となります。100%です。


 後輩の話を聞いてても思いましたが、チートを期待される方は脳内にお花畑をお持ちな気がします。

 技術面もそうですが、人材面について特に権力者をなめていらっしゃる。

 権力者怖いですよ。会社にいたときは手練手管でいつの間にかはめられて左遷……。なんてことざらでしたからね。若手の時課長の隣の席だったのですが、移動の社報が出るたびに面白そうに解説してくれました。本社の部長が地方転勤の裏話など聞かなければよかった、その10年後その部長の関係者の皆さんとご縁ができたのですが………まさか本当だったとは……。


 現代の優しい日本ですら『こう』なのです。

 『中世ヨーロッパ』のようなというなら察してほしいものです。

 『中世ヨーロッパ』といえば、彼らが用いた手口は奴隷です。

 曰く圧政に苦しむ市民へ『お前らより下で弾圧していい階層がいるんだまだ君たち幸せだろ?』とか、教会から『我々以外は人ではありません。奴隷とは神がもたらした資源なのです。殺すも楽しむも人である神の代行者たる我々の権利なのです』とか平然と言っていってのけた文化なのです。なめてはいけないのです。こんなところで異邦人として目立ってしまえば権力者に目をつけられてしまいます。気をつけねば。

 ……さて私も命が惜しいのでチート対策といたしましょう。


 チート対策、その壱 難易度★ 『その魔法力! 地球からの転生者は化け物か!』

 『三つ子の魂百までっていうじゃないですか?つまり乳幼児から意識のある転生者にとって体の基礎構成期間中に魔力を練って限界突破させておくとその後がイージーモードっす!』後輩談。


 これについては幸い『気づいたときには3歳』だったのでまだまだ回避可能である。

 なんというか時計塔でも思い知っているが、魔法力の吸収が1分続かない。

 農家の嫁であるうちの祖母でも余裕で1分超える。

 つまり、私の目標としては祖母と同じ程度であればよい。

 まだこれは余裕がありそうですね。


チート対策、その弐 難易度★★ 『その体素材良すぎ!』

『あれっすよ、鑑定とか便利スキルが初回特典でもっていて、その後簡単な努力でスキルがわいてくるんですよ。レベルとかも経験値倍増とかお得な特典付きっす!』後輩談。


 スキル?

 経験の伴わない力なんてないに等しいのに何言ってんだか………。

 あとレベルってなんぞ?

 RPGか!

 生物にそんなわかりやすいシステムあってたまるか!

 鑑定…………ですか……生えるんですかね?よしんば生えたとしてどこから情報がわくんですかね?その情報正しいですかね?正しいって誰が保証しているんでしょうか?騙されてませんか?大丈夫ですか?

 ……変な力は使わない。よし心に刻もう。


チート対策、その参 難易度★★★ 『前世知識で製造チート♪』

『鍛冶スキルとか料理スキルとか素材集めてぶわぁ(笑)って感じで製造完了。職人が1か月以上かける仕事を一瞬で完了です。ついでにコピースキルで大量生産! ガッポリ大儲けです!』後輩談。

 ……あいつ良くうちに入社できたな。まぁ私も3流の新設大学出身なので他人のことは言えませんがね。

 とにかく製造業をバカにしまくったチート。

 非常に殺意がわきますね。

 先日案山子製造魔法でうちの祖父が似たようなことをしていたような気もしますが…………オーバーテクノロジーは対象外ということにしましょう。……そうしなければ身が持ちません(遠い目)。……農業分野において農業魔法って後輩君が言っていたことと同じことしているような気がしますね。気をつけねば。


チート対策、その四 難易度★★★★ 『前世知識で内政チート♪』

『王様から領地もらって内政がんばるですよ。手押しポンプやノーフォークや楽市楽座とか頑張って田舎を一大都市にしてゆくゆくは王様!』後輩談。


 王様から領地ですか。たぶん戦争の功績。とすると相手国から奪った領地でしょうね。

 つまりは交戦国との緩衝地帯。

 住民はほぼ逃げ出した上、中世のならわしで『奪った土地の略奪は権利』(実際に勝ち負けもわからず報酬の確約がなかったので日本以外の国では近世までごく一般的な行為です)と言われていますので荒廃した大地が待っている。うん、ハードモード。


 で、手押しポンプ?

 ……ああ、うちにもありますよ。魔法道具に駆逐されてさびついたポンプが。


 ノーフォーク農法?

 うちの祖父を何だと思っているのですか?

 この都市には農業大学と祖父の農地には大規模な実験農場がありますよ。研究者だけで結構な人数がいましたね。恐るべき農家です………………農家なんですかね? 農家なんですよね? 祖父よ、なぜ目をそらす!


 楽市楽座?

 残念です。うちは交易都市ではなく農業都市です。そもそも緩衝地域を領地でもらう予定なんですよね?

 そんなことしたらただでさえ少ない商人が守ってくれる存在なくして寄り付かなくなりますよ。


 一大都市にして王様?

 反逆希望ということですね!

 なるほど敵国の近くで敵国に好を通じて増援とかですな!

 勝っても負けても命がないような気がします。『命大事に!』という言葉を送りましょう。


 ということで、今は魔法力とかヘンテコスキルとか間違っても生やさないに留意しましょう。

 後輩の言っていた『鑑定』とか『こいつの頭を鑑定できたら便利だ……』とか興味を持ったのは内緒です。うん、現在は不要です。

 

 ということで今日も今日とて地味に魔法練習中です。

 先日来権三郎がいい感じでお手伝いしてくれます。あ、その石いい感じですね。持って帰りましょう。

 ふう、周りの視線を集めますが変なのは祖父であって私ではないのです。皆様そこのところお間違え無く。

 ではお家に帰りましょう。


とある料理長視点――――――――――――――――――――

 俺の名前はルース・アルノ― 32歳だ。この都市で料理屋をやっている。

 今昼の忙しい時だが親父とおふくろに呼び出されて妻のミホと一緒に裏庭にいる。

「親父、何の用だ。研究素材のドラゴン狩りなら夜言ってくれ、いま店がいそがしいんだが」

 親父とおふくろの視線の先には我が家の3男マイルズが親父の案山子と一緒に土いじりをして遊んでいる。ん? あれ土いじりだよな? 探査魔法で素材抽出じゃないよな。

「ふむ、お主が見たものは錯覚ではない」

 まじかよ、まだ3歳だぜうちのマイルズ。

 生まれた時から才能が! という話は聞いていたがそこまでか………。

 横を見ると妻のミホが沈痛な面持ちだ。そりゃな、子供が力を持つ危険性は世の中誰もが知ってるよ。

 しっかし、なぜうちの子なんだ。かわいそうで泣けてくるぜ。

「ルースよ、ミホよ。さらに驚くことを見せてやろう」

 そういうと親父はマイルズを呼び寄せた。

「なーに」

 かわいいさかりのマイルズは子犬の様に駆け寄ってくる。うん、いい子だ。

「調子はどうじゃ、権三郎も、役に立っておるか?」

 ボケたか親父? 案山子に声かけたって返答なんて…………。

「面白いよー、もうちょっとで関節の材質変化行けそう! もっと素材集めないとだけどね、えへへ」

「創造主殿、この権三郎、マスターであるマイルズ様の安全のため日々尽力しております」

 ……案山子がしゃべった………。しかもかなり流暢に………。

「うむ、よきかな良きかな。マイルズ。あと1時間したら収穫物を取りに行くから爺と一緒に畑にいこう」

「うん! じゃもうちょっとあそんでるね!」

 俺たちの天使マイルズは笑顔で庭をかけてゆく。その後を案山子が油断なく追いかける。


 くそっ。神ってやつは何てことしやがる!

 決めた!

 何の神かは知らんが今日から俺の敵だ!

 うちの息子にみょうちくりんな力を与えやがって!!


「さて、二人とも認識したな?」

 親父の言葉に無言でうなずく。


「この力、権三郎の会話能力についても家人の前以外は禁止しておるが、お前たちも気にしてやってくれ。あと、ほかの子供たちにもいって聞かせるのじゃぞ」

「ああ」

 力なくうなずくしかない。色々と気になるが、その道の専門家であるおふくろが妙に嬉しそうな表情でマイルズを眺めているので追及はやめておこう。


「貴方…………」

 ミホがマイルズに降りかかるであろう今後の困難を悲観し俺にしなだれかかってくる。

 俺は支えにならなければならない。妻を、子供たちを、それが父親ってやつだ。

 マイルズ、お前が笑って生きていけるように父ちゃんも母ちゃんも頑張るぞ。

 俺がそう決意するとミホも同じように決意したのであろう、俺の服をつかむ手が強くなり、決意に満ちたまなざしで俺たちの愛しい子(マイルズ)を見る。


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