第3話「勤労幼児」
おはようございます。マイルズです。
農家の朝は早い。本当に早いでござる。
なぜだか「魔法教えて」発言から毎日朝早くに起こされ、町の中心部にそびえ立つ時計塔に連れていかれます。
時計塔では祖母が時計塔に手を当てると塔全体がうっすらと光を放ちます。
最初に連れていかれたときは、1分ほどで祖母は手を放し「やってみて」と私の手をもって塔に触れさせました。すると腹の底から何かを引き抜かれる違和感に思わず時計塔から手を放してしまいました。
祖母を見ると予想通りの反応だったのであろう、楽しそうに口に手を当て微笑んでいる。
そして、不快感をあらわにしていた私のことなどお構いなしに、もう1度手を塔に触れさせられます。
1分しないうちに塔に強烈な光が宿りました。そして光が消える。
同時に非常に嫌な予感がします。
「……あら、もう1本分溜まってしまったのね……」
どうやら何かに利用されたらしいです。
祖母にジト目を向けると「これすると朝ごはんがおいしくなるのよ♪」とはぐらかされた。
「おなかすいたでしょ?」と聞かれたので即答で「うん!」と答えてしまう。
……空腹とは罪深いものです。
この世界、中世にしては珍しく3食食べるのが文化になっている。
祖父曰く「20年前の大戦の折、『喰わねば戦えぬ』といって3食喰わしていたらそのまま文化になった♪」だそうです。いやそもそも食糧生産の効率的に3食食べられるっていうのが無理だから2食の文化だったはずなのですが……。ああ、そうですか「農業魔法」ですか。なるほどチートですな(棒)。
実際に思い切り食べさせた祖父の軍は強かったらしい。
うーん。農業魔法おそるべし。
実はその恐るべき農業魔法を実は先日1つ教えてもらいました。
それは祖父がこの地域の食糧生産力を底上げさせた要素の中でも大きな1つらしい。
そう、その名を『案山子製造魔法』。
……もうね。案山子の概念ぶちこわしですよ。
魔法を教えるといいつつも私を連れて都市郊外に連れてきた祖父は、大岩に手を当てると魔法を発現させました。
呪文とか魔法名ないんですよ。これが。軽くカルチャーショックです。
魔法に驚く私を置いておいて、呪文が発動した大岩はまるでスライムの様に液化するとその後一気に人型に変化しました。ターミネーごほごほ……。
案山子魔法の最後、頭部から強烈な光を放ち変化が収まる。
……ヲイ。これ案山子じゃなくてゴーレム!
思い起こすと突っ込みたくて仕方なかったが……、私は不覚にもはじめてその奇跡を目にするとフリーズですよ……。
フリーズしているところで「貴様の名前は、A1306号じゃ。指揮官機はB34号になるこれより指揮下に入るがよい」と祖父が案山子に命じます。そうするとそのストーンゴーレム(案山子)は祖父に敬礼する。駆け足で作業小屋の方向へ駆けて行きました。迷いなし。独自ネットワーク機能でもついてるのでしょうか……。
……完全にアンドロイドじゃねーかよ!
ということで案山子という名の無料の労働力(高度)が、祖父の農園において生産力向上の要でした……。
案山子って何なんでしょうか?
この間集団で森の魔物を倒してきたそうです……。
祖父が笑顔で「多くなってきたから間引いた。今日は魔物肉じゃ!」と平然と言い放っておりました。
……。
ちなみに、このアンドロ……じゃなくて案山子さんですが、こちらの領内に多く派遣されているようです。この都市以外にも領内に3万体だそうです。
……領主様は安らかに眠れているでしょうか……。おじいちゃんよ……、そのままの勢いで国中に普及すると貴人の皆様が不安で眠れなくなるとあなたの孫は愚考いたします……。もう王様にでもなっちゃないよ……。え? めんどくさいからヤダ? ……なれそうだったんですね。驚愕です。
さてさて話を戻します。
そんな食糧事情の救世主案山子さん製造魔法ですが、私にも継承されたようです。
ですが、これが難しい。
理屈が見えない。
現象がわからない。
そもそも魔法力って何ですか?と聞いたら先ほどのように毎日時計塔にお手付きなのです。
説明プリーズです。
魔導士っていうのは感覚派なのでしょうか……。
そんなこんなで今日も今日とて庭に置かれた大きい岩に手を当て『うんうん』と唸っております。
もうね。何が難しいていうと……、そうですね。私も思考整理のためにご説明します。
まず魔法の実行自体は結構簡単でした。岩が光るからわかります。
次に形成なのですが感覚に従って行うと形が変化しました。
【アシ〇】にね。
【ドラ〇もん】じゃなかったことにすっごく安心しました。
さて次は制御機能の追加です。
うん?関節?うん石です。動きませんよ。じいちゃん、どうやってたのでしょうか、これ……。
そもそも魔法を習得と言われても【魔法回路】とやらに継承術を持って書き込まれたらしいのですが、それ自体意味不明でした……。
四苦八苦の末理解できたのは【魔法回路】とやらパソコンでいうとソフトのインストールらしいです。
今私がしようとしていることはコンパイル済みのEXEを、ノートパッドで開いて機械語からソフトウェアの仕様を理解しようとしている行為に等しいということでしょうか……。リバースエンジニアリングしようとするのは変態の領域です……。
ですが、それでも新しい魔法を開発する人がこの世界にはいます。
……ということは、この機械語の様な人間には意味のわからないものを読解して整然と理論体系化している人がいるということですね……。
異世界なめてました。
変人とはどこにでもいるものですね……。
閑話休題
私が今やらなければならないのは、魔術本体の分析ではなく、魔法発動時のパラメータ解析です。
入力は意思と魔法力でしょう。
なんとなくわかります。
あとは何かきっかけがわかるまで粘るしかないでしょう。
……その日もうまくいかないままお昼過ぎを迎えました。
お時間です。私は祖父がつけてくれた護衛案山子と一緒に街の外へとお使いに向かいます。
3歳児でもできるお仕事です。
映画で見た軍用アンドロイドのような精悍な外見に高そうな剣を腰にした護衛案山子G10号の背中に乗るだけのとっても簡単な! ね。
祖父の横暴………じゃない、奇行………でもなく、行動になれたご近所さんでも『3歳児がごついアンドロ……じゃなくて案山子に乗って移動する』様子に驚いております。
同い年ぐらいの子供たちが指をさすとお母さんが「見ちゃいけません」をしています。
……待ってください。それは私の名誉を侵害しています。
見て見ぬふりとか【関わらない優しさ】はないのでしょうか?。
幸い、我が家は西門に近く、あまり人に見られずに街を出ることができました。
ちなみに街を出る際門番さん達に怪しまれてしまいました……。
その門番さんですが、私の顔をみて「ああ、なるほど」と頷いておりました。
名誉棄損その2。失礼にもほどがあります。共犯扱いですか!
門を出て少し歩くと目的の祖父がアンドロイドたちと一緒に収穫しております。ちょうど小麦のようです。
「おお、マイルズ。どうじゃ案山子の乗り心地は?」
なんと呑気な! 私の名誉が汚されたというのに……。
「そういえば、キュウリのいいところをテーブルの上に置いておいた。店で使う分とは別じゃから食うてゆけ」
「じいちゃん、ありがとう! 権三郎、基地へGO! 全速力だ!」
「いや、そやつ権三郎じゃないからな………G10」
「了解マスター」
我が愛機『権三郎』が短く返答し、駆け出す。
トマトもほしいところだが、今日はキュウリで勘弁してあげよう!
美味いんだようちのキュウリ。
スペック以上の速さで駆け抜ける権三郎を唖然と見つめている祖父が「発声機能なかったはずじゃ」とか小さなことを言ってるような気がしたが大事の前の小事無視しましょう。
その後、美味しいものを堪能した後、今日のお使い品を荷車に搭載させます。権三郎が。
少々暇なので祖父が収穫した麦わらを眺めつつふっと思いついたので魔法を発動させます。
農業魔法の練習で形成までは行えるようになっていましたので、なんちゃって麦わら帽子を生成しました。
もちろん光って次の瞬間帽子! ……なんて事はなく、ちゃんとひも状にして編み込んでいきます。
……とっても不細工にできてしまいました。
出来上がったそれをそっと権三郎に乗せると「坊ちゃんに感謝を」と敬礼されました。
……よくできた案山子さんです。
なんとなく上機嫌になったように見える権三郎に荷車を引いてもらい、街を目指します。
そろそろ夕食に向けて開店準備中でしょう、それに間に合うように進んでもらいます。
ね、3歳児にもできるお仕事でしょ?
王国の賢者視点――――――――――――――――――――
リーリア・ゼ・アイノルズ 現役で賢者をしております。
賢者って何かって?
色々あって面倒なのですが主に魔法面での王国アドバイザーと王都魔法学校の理事長でしょうか。
いち魔法研究者という側面も強いのですが……。
さて最近のことです。
私たちの次男ルースに男の子が生まれたのですが、その子がすごい魔法才能を秘めていたのです。
特にうちの主人が死んだら、もう二度と本来の形を取り戻さないだろうとまでいわれた【農業魔法】を受け継げるだけの才能だったことは素直に驚きました。
主人はとにかくこの子に「農業魔法」を教えると意気込んでいますが、私は反対です。才能が大きいということは別魔法の可能性も高いということです。
失って久しい「大賢者」が用いた「時空魔法」ももしかしたらと思ってしまいます。
兎にも角にも「可能性」を「洗脳」でつぶしてはいけません。
「農業魔法」の重圧に負けたときの逃げ先が無くなってしまいます。逃げ先がないと立ち直れもしなくなってしまいます。才能とは素質であってそれを成長させ形成するのは本人自身なのですから。私たちはあくまで補助として導かなければなりません。過剰な干渉は才能をつぶしてしまいますので。
うちの主人にそう諭すと、一気にシュンとしてしまいます。かわいい人、もうちょっと虐めようかしら……。
話し合いの後、この子については10歳になるまで国の重要機密として取り扱われることとなりました。
それに伴い、主人はこれ幸いにと魔道公爵をやめてしまいました。
農業専念を狙っていましたね……。
そして、我が領地の西の果てにある領都へ夫婦で転居しました。
王都で仕事がありましたが、面白い素材があるのであればそちらに参りますとも、ええ。
王都の仕事は転移魔法で移動して日に1時間程度こなすこととしました。
そういった体で部下に仕事を押し付けたとも言いますが、気のせいに違いありません。
さて、私たちの孫、面白才能被検体マイルズちゃんですが3歳になりました。
最近魔法に興味津々です。
困ったことにうちの主人もノリノリです。
まずは魔法力操作のため、時計塔の魔法力集積装置に魔法力を流させます。
するとあっさり1万人分の魔法力を放出しました。
やっぱり「農業魔法」のみではこの才能もったいないな、……くふ。
昼に代官が来て感謝を述べていきました。「これで下水処理機能をフル稼働できます」と。
そこまでたまりましたか、1本じゃなかったのね……。
これは予想以上にまずいことになりそうです。
暗殺・誘拐色々起こりそうですね。
私やうちの主人と全面的に敵対しても成すだけの価値が出てきそう……。
そんなことを考えているとマイルズちゃんが帰宅です。
ん? 案山子がしゃべりましたね。
ほう、そのお帽子はマイルズちゃんが作ったのですか素敵ね。
ん? 案山子から帽子を取ろうとしたら、いやそうな顔をされましたね。
表情筋? そもそも感情機能……。マイルズちゃん、おねがい今日はもうお外でないで、明日もお願いね。
3歳でこれとは先が思いやられます。
……どんな化け物に育てようかしら♪ 楽しみだわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます