第2話「爺は意外と大物」

 ……皆さんこんにちは。


 結婚前から妻に裏切られていた愚かな男こと、勝です。

 そう、離婚半年でかわいい彼女を見つけちゃった、あの勝です。

 何気にエリートサラリーマン街道驀進中だった男、そう勝です。


 今、何の因果か……幼児をしております。

 気づけば白人男性の3歳です。どなたの企みかは存じませんが説明がほしいところです。


 現在はぶつぶつと不満を抱えながらも遅めの朝食中です。

 うん、パンが固い。

 日本にいたときに欧米のパンが硬いのは人種としての唾液分泌量の違い、と聞いたことがあります。ですが実際に人種変わってみてもパンは柔らかいほうがおいしいです。しかも幼児です。柔らかいものプリーズなのです。

 さて現状ですが、昨日私が発現?覚醒?してしまい。「マイルズが祖父の農地で倒れる」という事件を起こしてしまいました。そのせいで朝から祖母にがっちりホールドされております。

 いわゆる祖母に抱っこされている状況です。

 幼児期なにがあるかわからないので仕方のない事なのです。

 油断すると祖母が「あ~ん」をして来るのでしっかりとパンを食みます。

 時折添えられている祖父農園100%クリームシチューをすすりながら、パンを食みます。

 3歳なので口からこぼれてしまいます。そうすると祖母は「あらあら」とか微笑んで口の周りを拭いてくれます。

 あ、いえ。中はいいお歳なので結構です。ええ、大丈夫です。こぼしてしまうのは3歳の体のせいなのです。フォローは自分で行います。


 味についてですが、祖父農園100%クリームシチュー、野菜がおいしいです。野菜の甘味とか抜群です。欧米文化のくせに抜群においしいです。おかしいです。こんなにおいしい農作物現代では日本ぐらいでしたのに……。もしかしてこちらの農業はとても進んでいるのでしょうか。侮れません。

 ですが、残念です。味付けがいまいちです。2食ほど食べましたが塩味の強弱がひどすぎます。あと旨味があまり感じられません。煮込みが甘いです。

 人参とか洗って丸かじりしたほうがおいしです。

 料理されることを拒否したいのですが、どうやらそうもいきません。

 うちはどうやら町でも人気の料理屋のようです。

 記憶にある我が家で提供する料理ですが、まるでフレンチのようにかっこいいです。

 ですが自宅の味がこれということは……察してしまいます。

 ふーっと溜息を吐きだすとパンをちぎってシチューに漬け込みます。

 これが正しい食べ方だそうです。ましになります。食べ続けたくありませんが。

 現代日本人の味覚を持っている私としてはつらい時間でした。

 ふいに元妻の飯マズを思い出します。私が家にいるときは私が料理番。子供たちの弾ける笑顔が懐かしい。

 全部食べ終わり空になったお皿に頭を下げ「ご馳走様でした」とつぶやくと祖母が頭をなでてくれます。


「えらいわ、全部食べたわね。おいしかった?」

 無垢な笑顔ってやつですな。

 全部食べたのが意外だったのでしょうか。

 それともこんなまずい料理を食べ切ったことへの称賛でしょうか。

 前者だと思います。農家の嫁なのです後者だったらお説教ものです。


「僕も料理してみたい!」

 もう勘弁なのでおねだり(深刻)です。

 調味料が塩だけでもこれ以上のものを作れる自信があります。

 祖母を見上げて、かわいらしく首を傾げます。

 幼児のかわいらしさアピールってやつです。

「うーん、包丁は危ないから無理かな」

 うかつでした。その通り包丁を持てませんでした。

 さらに3歳です。

 私が大人だった時に3歳児に言われたとしても包丁も火もあぶなすぎるので触らせるわけがありません。


「あとね」

 祖母は私の視線を誘導するように台所を見ます。

 ……そうか、身長も足りませんでしたか。


「大きくなったらおばあちゃんにおいしい料理作ってね」

「うん!」

 私は満面の笑みで祖母に返答します。

 脊髄反射ってやつですかね。慈愛に満ちた祖母の顔を見ていると考える前に体が反応します。体が正直で困ります。


「ばぁちゃん! お外行きたい!」

 調子に乗っておねだりです。情報が必要なのです。現状把握は重要です。

「だーめ」

 やはり昨日倒れたのがまずかった様ですね。

 親類としては当然ですが、なんとかしたいものです。

 その後少しぐずってみたのですが祖母の反応はかわりません。

 マイルズの記憶を見る限り、マイルズとのお散歩は祖母も好きだったようなのですがね。

 お約束の「お母さん若いわね」でご満悦の祖母がはっきりと思い出せます。

 私は私で「マイちゅる! 3歳!」と自信満々で答えております。記憶の中で確認しましたが演技でもできません。ご勘弁ください。


 さて懸案の祖母ですが、リーリア・ゼ・アイノルズ。名前の意味は「個人名・魔法名・家名」になるそうです。

 魔法名を持っている人は少ないらしいです。祖母はその中でも類まれない魔法力を有しているらしく、その影響で20歳代と言われても遜色ない若さを保っております。


 さて暇です。子供の体がうずうずします。

 祖母が「絵本でも読んであげましょう♪」といって席を外しました。ぜひ魔法の本をお持ちいただきたい。

 なぜって? こう見えてもこのマイルズ・デ・アルノ― 3歳は魔法名「デ」を有しているのです!

 「デ」の意味は不明です。祖母にそれとなく聞いてみたところ「大人になるまでは人の前で言ってはいけませんよ」との事。


 そんなにひどい適正なのでしょうか。聞いただけで嘲笑を誘うなど。。。

 あ、ちなみに農家やっている祖父も魔法名【デ】です。昨晩質問した時に『おじいちゃんと一緒じゃ! うれしかろう』と言われました。

 ……リアクションに困ります。


 極めた魔法は【農業魔法】だとか、確かに剣と魔法の世界で「農業魔法】は、と思いますが。

 嘲られるほどひどいものではありません。笑った人はお野菜さんに謝ってほしいです。

 ちなみに【農業魔法】についても秘密なようです。

 なんという差別社会! 早めに極めてギャフンといわせてやりましょう。


 ……でも【一般魔法】にも未練があります。

 かつて遠き昔の大学生時代にはまっていたMMORPGにて私は戦士職でした。

 なんとなく始めた戦士職ですが進めていくうち後悔しました。

 数が多い分パーティーからあぶれ始めます。

 逆に魔法使いなどはじめ苦労するが数が少ない職は引く手あまたです。

 気が付くとオンライン上の町で戦士職諸兄はブラブラと無職状態。

 まさに、『リアルニートがネットでもニート!』状態……『魔法使いを上げなおす』とも考えましたが愛着の沸いたキャラクターを消すこともできず、魔法使いたちのご機嫌取りをしていた日々でした。


 ……いったい何が面白くてゲームしてたのでしょう……若気の至りというやつですね。

 そんなわけで【派手な攻撃魔法】や【状況を覆す回復魔法】なんてものに若干のあこがれがあったりします。悩ましい話です。


「かえったぞー」

 祖母が読んでくれている絵本で英雄が悪魔を倒すページに差し掛かったところ、祖父の帰宅です。

 絵本の英雄が鍬を持っているのはたぶん祖父のいたずらでしょう全く困ったものです。


「じいちゃん! 魔法! 魔法教えて!!」

 祖父を向けえる為に私を解放した祖母のすきを縫って祖父の左足にタックル。そしてがっちりホールド。そしてかわいらしく強請ってみます。


「ほっほう! マイルズ魔法に興味を持ったか!」

 嬉しそうに祖父は私を抱えあげます。浮遊感が若干不快です。

 【一般魔法】にも興味がありますが、まずは【農業魔法】です。

 きっと【農業魔法】は私の基礎になってくれます。

 最終的には【派手な攻撃魔法】や【状況を覆す回復魔法】ですがまずは【農業魔法】です。

 なにより私の勘がこう告げています……『農業魔法は金になる!』と【!】を信じて魔法特訓あるのみなのです。


元王国の英雄視点――――――――――――――――――――

 我が名はルカス・デ・アイノルズ。

 3年前まで魔導公爵をしておった。現在念願かなって専業農家じゃ。

 4年前までは週に4日も王都詰めであった。当初は6日であった、ついイラっときたので陛下に「王城を農地に変えてもよいか?」と聞いたら2日減らしてくれた。名君と呼ばれておるが器が小さいのう。

 魔法名は「特殊魔法」を極める文字「デ」。そして我が魔法名を持って一族の特殊魔法「農業魔法」を初めてまとめ、極めた「大魔導士」と言われておる。


 さて最近の話じゃが、東方より取り寄せた根菜を畑の端で育てておる。めずらしいものを育てておるとひそかに自慢じゃ。それになんと我が孫のマイルズが気づき大いに興味を示しておった。

 さすが我が秘術を継ぐ孫! 頼もしい限りじゃ。

 やはりもう3つぐらい秘奥魔法を伝授……リーリアが視界の端で暗黒魔法を準備し始めておる。わかっている伝授するのは10歳以降だったな。


 我が自慢の孫マイルズについてだが、もう我が「農業魔法」を受け継ぐために生まれたとしか言えないほど才能にあふれておる。

 奇しくもマイルズが生まれた時には儂も本家筋の者どもあまたの実験、検証の結果の上、体系化した「農業魔法」をすべて受け継げる人間は、【あまりに特異なケース】である為、儂以外再度【全てを受け継げる者】が現れる可能性は極めて低いとあきらめておった……。

 だが、マイルズが生まれた。

 「農業魔法」を受け継ぐ才能を秘めて。

 神など信用しておらんかったが神に感謝じゃ。

 儂のように「農業魔法」を極めるには生まれ持った才能として3つのことが必要となる。


 1.魔道の才能。「特殊魔法」を極めることができる魔法名が必要となる

 2.魔法力の容量。一般人が生涯かけて生み出す魔法力を1日で扱える量が必要となる

 3.精霊の加護。動植物にかかわる魔法だけあって、自然に潜む精霊との親和性の象徴である加護は必須である


 1つでも持てばその道を究められる才能が3つ。やはり我が孫はかわいいのじゃ!

 「かわいいは正義」ではなく「我が正当後継者が生まれた」として保護・育成のため、3年前に儂は魔道公爵を息子に譲った。


 陛下はとてもしぶしぶであった。解せぬ。孫かわいくて何が悪い!

 政治の世界では30・40歳は子供。儂の様に実績をもってしても派閥を持てたのはここ5年での話。

 陛下が惜しいと思うのは無理からぬ話ではある。

 だが大丈夫じゃもう10年昔から息子にすべてゆだねておる。何ら支障はない。

 ということで、現在所領で農地を見ておる。儂のすべてを引き継ぐ予定のマイルズとともに。

 ん、なんじゃマイルズよ。……なに! 魔法をしりたいだと! ほほう! さすが我が孫もう「農業魔法」の良さに気が付いたか。僥倖僥倖。

 今日は一日「賢者」リーリスから【回復魔法】など受けてそちらに傾倒してしまうかと危惧しておったが、爺は孫を信じてよかったぞ。

 やはりもう3つぐらい秘奥魔法を伝授………リーリアやめような、その呪力半端ないから、儂でも3日ぐらい寝込みそうだから。

 結局、その日はわが妻リーリアから1つの魔法を継承させる許可をもらた。

 明日以降マイルズに継承させてゆくこととなった。

 明日が楽しみじゃのうマイルズよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る