第8話 放課後
半年後。
『次は、先日デビューしたばかりのアイドルユニット、いなかっぺがーるずの皆さんです』
歌番組にまた新しいアイドルが現れた。
「本当に、次から次へとライバルが増えるね、この業界は」
聖ジョルジョがテレビを睨みつけながら、ため息をつく。
「僕たちは唯一無二の石膏ボーイズだから、問題ないよ」
メディチは鏡の前で美しい顔を眺めながら、今日一番の角度を探している。
「確かにな、俺たちは石膏だから、そこらのアイドルよりも固いぞ」
胸筋をぴくぴくとさせているマルスは新曲の歌詞を必死に暗記している最中だ。
「マルス、もうすぐ本番だよ。まだ覚えていないとか、プロとしてどうなのかね」
ヘルメスがスマホの株価を見ながら、売り注文をクリックしている。
「はい、みなさん、本番行きますよ。台車に乗ってください」
マネージャーの美希が一人ずつ台車に乗せていく。
「マルスさん、また重くなりました?」
「ああ、日々鍛錬だからな」
「これ以上重くなられると、私運べないんですけど」
テレビ局の廊下を台車に乗って進んでいくのは石膏ボーイズにとって密かな快感の一つである。
すれ違う人々の羨望の眼差しがこの台車に一心に集められるのだ。
少々残念なのはこの台車が小道具の運搬用のものと大差ないことではあるのだが。
「ねえ、石ちゃん、今度僕たち専用のおしゃれな台車を買ってよ」
メディチが甘い声でおねだりをする。
「そんなお金はありません」
美希がパシッと言い切る。石膏ボーイズは今が踏ん張り時なのだ。
「あっ、ジョルジョ様」
突然、前からやって来た女の子の集団から一人が飛び出してきた。
先程、テレビに映っていたいなかっぺがーるずの一人だ。
4人の石膏からさっと聖ジョルジョを選び出すと、その頬にキスをした。瞬時に石膏の違いを見極めるのは、実は簡単ではないことを美希は知っている。
「あの、えっと、ええ」
突然のキスに聖ジョルジョの思考は完全に停止し、ただの石膏と化した。
「あれ、もう忘れちゃいました。私ですよ、私。委員長のハルコです」
少女はにっこりと笑うと、もう一度聖ジョルジョを抱きしめた。美少女の抱擁に聖ジョルジョは完全にエロ目でにやけてしまう。
「ジョルジョ様のお陰でやりたいことを見つけられました。もう本当に、神様仏様ジョルジョ様です」
もともと聖ジョルジョは聖人ではあるのだが、ハルコの嬉しそうな表情にますますその視線もいやらしくなる。
「これは驚いたよ。じゃあ、これからはいいライバルとして頑張ろう」
少女が去っていくと、微かに甘い香りだけが残された。
「あれ、この香りどこかで」
美希が何かを思い出しかけそうになる。
「石本さん、早く行かないと本番に遅れちゃうよ」
ヘルメスが何事もないように声をかける。
気がつかなかったかもしれないが、いなかっぺがーるずは全員同じパンストをはいていた。それを知っているのはヘルメスだけだ。いなかっぺがーるずはヘルメスとタケシのパンスト屋が影からプロデュースしているアイドルなのだ。事務所には内緒の話ではある。
「そう言えば、この前の試合、ヒカリちゃんは勝ったんですよね?」
ヒカリちゃん(男)は総合格闘技の世界へ参戦し、その類稀な才能を活かし、既にチャンピオンに君臨している。
「ああ、開始10秒でKOだ」
自分のことのようにマルスは誇らしげだ。
「シノブだって負けてないよ。小さいけど個展も開いてるんだからね」
メディチがぶーぶーと騒ぐ。
彼らに負けないように石膏ボーイズも頑張らなければならない。全員の表情がきりっと引き締まった。
勝手に劇場版『ようこそ〇輩』 @demasa
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