第三話『中々…いや絶対決まらない』
「でね〜ソイツがねこう、お水をバシャッと……」
「「…………ふーん、で?」」
「ちょっ真面目に聴いてよ二人共!?」
『いや無理だから』と水と珈琲をそれぞれ飲みながら口を揃えて言う。
──当たり前だ、何でお前の愚痴やら何やらを延々と聞かにゃあならんのだ。それもわざわざ家から出て来てまで……
伊純は少々イラッとしながら乱暴にコップ内の氷をガリッと噛み砕く。口の中に冷たい氷の欠片が広がり温やかな口内を少しずつ冷やしていく。
氷刃唖は氷刃唖で伯仙の戯言に『面倒臭い』と感じているのか十数分前から手元のPDAを弄っている。
そんな二人の反応がお気に召さなかったらしく、伯仙がぷくぅっと頬を膨らませる。だが元よりビスクドールの様な女顔なので可愛さしか引き立てないのが、俗に言う『男の娘』の欠点であり長所でもあるのかもしれない。
「二人とも酷過ぎだよ〜折角可愛い僕が居るって言うのにさぁ?」
「「可愛くないしお前のは見た目だけだと理解してる」」
「…………何で長い台詞がぴったり息揃えられるかな……」
「「…………さぁ?」」
「……………」
伯仙は不満げにパフェの生クリームを掬い口に入れる。俺が来る前からケーキやらプリンやらを食ってたらしい。
──いつか砂糖になるんじゃねぇかな……
俺は心の中でそう思いつつ口には出さなかった。当たり前だ口に出したが最後、伯仙から延々とスイーツの話をされるのはうんざりだ。次されたら迷わず手元の珈琲をパフェにぶっかけている事だろう。……珈琲が無駄になるので出来ればその暴挙に出るのは控えたい。
と言うか…………
「話し合いはどうしたんだ?」
当然の疑問だ。わざわざ自由時間を潰してまで外に出て来たのだ。やっていない訳がな────
「ん? やって無いよぉ?」
──よし殴ろう。今すぐ。……あぁいやパフェに珈琲かけて無理矢理口に入れてやるのも良いな、絶対効果あるから……
「ちょっとクルイス今すっごい事が聴こえたんですけどッ?」
「………………………………珈琲なら後で追加してやる」
「問答無用ッ」
バッシャァァァッ!
「うわぁぁぁぁッ!? なんでパフェににっがい珈琲かけるのさぁぁぁッ?」
伯仙の悲鳴が上がる。
──知るか、わざわざ呼び付けといてしてないお前が悪い!
とは流石に口に出しては言えないが、心を読めるコイツには問題無く伝わっている筈だ。
「…………………………残すなよ?」
「残したら次から珈琲以外禁止だな」
「うぇぇ……? 二人共酷いよぉ……」
その後伯仙は涙目で珈琲かかりパフェを完食して、その場に伏していたのは言うまでも無い事実なのだった。
「はぁ……」
──面倒臭ェ……絶対方針なんざ決まらねぇな、これは…………
いつか世界が壊れたら 幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕 @Kokurei
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