第二話『面倒臭ェ……』

カサコソ……

足元で落ち葉が潰れる音がしたが気にせず目的地へ向かって歩みを進める。

「はァ……」

今日何度目か解らない溜め息を吐いて鮮血色のマフラーを引き上げる。

今回の目的地はいつもの学校……では無く、学校近くにある喫茶店だ。どうやらまたアイツ▪▪▪が駄々を捏ねたらしい。

──ったくどの道まともな話し合いなんかしねぇんだから学校で事足りるだろうによ……

伊純は心の底からそう思った。本当はこんな面倒臭い話し合い等に出たくは無いのだ。

ぶつくさ文句を言いながら件の喫茶店に到着する。

「お〜いクルイスこっちこっち〜!」

「…………クルイスって言うな、スまで言うならギまで言え」

奥の席から元気な声が俺を呼ぶ。

──あぁ面倒臭ェ奴に声掛けられた……余裕で死ねる……いや殺せる……

「ちょっとちょっとなんて事を考えてんのさ〜? 僕を『殺す』なんて酷いにも程があるってもんだよ〜」

「……………そうやって考え読むから嫌いだよお前の事は」

「え〜? クルイスが解り易いんだって〜」

「……………ンな訳ねぇからな? お前以外に考え読まれる事なんざねぇんだから……」

「へぇ〜そうなんだ?」

「………………………………二人とも煩いぞ、近所迷惑甚だしい……」

延々に続きそうな軽口の応酬を少し低音の声が制止した。

その声に二人ともそれぞれ反応を示す。

「…………そう思うんだったら何で止めねぇんだよコイツをよ……」

「え〜? クルイスが面白いのがいけないんだよ〜?」

「………………………………首、落とすか?」

ブワッと寒々しい殺気が溢れる。

──やっべ完璧忘れてた……コイツの能力…………

──あ〜忘れてたぁ……氷刃ひめちゃんの能力……

俺達は通称:氷刃ひめ……いや正確な名前は幽鬼邑氷刃唖ゆきむらひめあ、俺と同じ高校に通っていた『最期の世代』の一人だ。雪みたいな白銀の髪に雪花石膏の肌アラバスター、そしてとても冷たく感じる薄氷色の瞳アイスブルー・アイ深紅の瞳レッド・アイ。そしてコイツの能力は──『首無の墓テムブ・オブ・タビナ』だ。名前からしてまともな能力じゃない事が解る。

そして俺の横でさっきまで俺にちょっかいを出してた馬鹿が津破毀伯仙つはきはくせん。通称:破毀はっきー。同じく『最期の世代』の一人で俺の同級生。柔らかそうな金髪と引き込まれそうな程綺麗な碧眼、ビスクドールの様な整った顔立ちをしている。能力は『思ひ出の渦ダイアリー・リーディング』。

本当は他にも居るのだが、今回は凄く面倒臭いので遠慮容赦無く割愛する。もちろん異論は認めない。

「御免って……」

「御免よ〜氷刃ちゃん〜」

「…………………………次したら落とす」

……うん、今の一言は割愛&聞き流しで。お世辞にも到底良い台詞とは言えないし思えない。いや思いたくない。良い台詞とか思う奴が居たらソイツは確実にM……それも『ド』が付くMだろう。

「あ、あの〜ご注文は……?」

「…………………………パフェと珈琲と水」

「か、かしこまりました……」

氷刃が端的に注文する。いやなんだよ『水』って。普通はお茶だろ百歩譲ってさぁ? ……珈琲頼んだ所は評価するけど。そして横で甘党馬鹿が煩い。お前は将来砂糖にでもなる気かよ? いや俺は珈琲好きだけど珈琲になろうとは思わんって……。えーってなんだえーって……。








──あ〜……面倒臭い。

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