第十二話 壊れてはじまる

 一夜が明けて、仕事も終えた。


「うん、いい加減これ、片付けないとね」


 実は、ディスク故障以来、サーバにしていたキューブ PC はディスクを抜き取って開いたまま、無惨にその内部配線を晒して部屋の隅に転がっていたのだ。


 だって、どうせ、新しいディスク入れるんだし、わざわざ閉じなくてもいいかなって、ね。


「よっし、新しいディスク入れちゃおう」


 キューブ型の狭いスペースに宙づりにするようにディスクを収めるための固定具にディスクをネジで留める。


 そして、固定具を内部の出っ張りに引っ掛けるようにして収めるべき場所に収める。この手の小型筐体にディスクを収めるのは、パズルのようでちょっと楽しかったりする。


 後は、抜いて放置してあった SATA ケーブルと電源ケーブルを繋いだら接続完了。


 外のケースは外したまま、電源を繋ぐ。


「何かあったときに、すぐ対応できるように最初は空けたままにするのが乙女の嗜みなのよ」


 って、だからあたしは誰に話しかけてるのよ?


 そのまま電源を入れ、キーボードを操作して BIOS の設定画面に入る。


「うん、認識してるわね」


 購入したディスクの型番が、 BIOS のディスクの欄に確かに表示されていた。


「オッケーオッケー」


 これで、ケースを閉めてしまって大丈夫だろう。


 BIOS を終了し、電源を切って外ケースをこれまたパズルのようにはめ込んでネジ留めする。


「さて、こっちの準備は整ったから、インストーラを準備しないとね」


 そこで、ちょっと悩む。


「せっかくだから、 CentOS7 入れちゃおっかしら?」


 ここは、技術者向けの話だけど、 CentOS は 6 と 7 の間で大幅に内容が変化してたりする。基本的な管理コマンドがガラッと変わってしまったのだ。


 勿論、慣れると 7 の方が扱いやすくはなってるだろうってことは解ってるんだけど、使い慣れてるってことまで、これまで古いバージョンでやってたのよねぇ。


「まぁ、色々アプリ動かしてた仮想環境の中身は同じバージョンにしないと設定復旧してもバージョン不整合で面倒そうだし、そっちは元のバージョンにするとして、大本になるホスト OS とファイルサーバは CentOS7 にしちゃおっかな?」


 そうすれば、仕事でも知識が活かせて一石二鳥。壊れてはじまるたり来たり考えながらの勉強タイム。


 転んでもタダでは起きない強かさが技術者には必要な資質。というか、趣味と実益兼ねるからこそ、自宅サーバ運用してたのよね。


 そんな訳で、 CentOS7 のインストーラを準備することにする。


「えっと、サイトからインストーラの ISO 落としてきて USB に入れたらいいよね?」


 USBメモリはそこらに転がっているのは乙女の嗜み。インストーラはせいぜい7GB程度なので、手近な8GBのメモリを用意する。


 そうしてメインPC上で全部入りの ISO を公式サイトからダウンロードして、起動用 USB を作成するツールでインストーラを作成。


「簡単簡単」


 これで、準備は完了。


 後は、先ほどディスクを入れたキューブPCに差して、起動するだけ。


「うんうん、順調にインストールが……あれ?」


 そこで、異常に気づく。


「あれ? なんか、エラーが出てる?」


 ディスクのパーティションを切るとろまではできるけど、肝心のパッケージ選択まで進めない。


「う~ん、インストーラのパッケージパスが、なんか違ってそうね」


 エラー内容を観れば、パッケージが見つからない、ということ。改めて、メインPCに差し直して USB の中身を観れば、パッケージは存在するけど、インストーラの設定ファイルとパスが合っていないように見受けられる。


「そういや、 CentOS 6 でも似たようなことあったわね」


 仕事で CentOS 6 を入れるときに、 USB からだと同じようにパッケージが見つからずにインストールが進まなかったことがあった。


「えっと、あのときはどうしたっけ……」


 記憶を辿り。


「あ、ネットワーク経由のインストーラ使ったんだ」


 仕事の経験が趣味に生きた瞬間。まぁ、技術職ってそんなもんよね。


 で、CentOS には、パッケージはインターネット経由で落としてくる前提の、最小限のインストーラが存在するので、それをサクッとダウンロードして、さっきの USB メモリの中身を消して改めて起動用 USB を作成し直す。


「さて、今度はいけるかな?」


 サーバ用 PC に接続した USB からインストーラは無事に起動し、ネットワーク設定で死ぬ前のホスト PC と同じ IP アドレスを割り当て。ディスクのパーティションも改めて切って、


「繋がってよ……」


 無事に、パッケージ選択画面に入ることが出来た。


 ここでは、幾つかのパッケージのプリセットを選択したり、更に個別のパッケージを選択して用途に合わせたサーバ環境を構築することになる。


「って、仮想ホストってあるのね、これでいいわよね」


 幸い、仮想化ホストを動かそうって思ってたところに、仮想化ホストってプリセットがあるんだから、それを選択したら間違いないよね?


「ま、足りないパッケージは yum でインストールすればいいしね」


 そうして、インストールを進める。


 パッケージインストール中に、 root のパスワードやらユーザの作成やらをしてしばしのときが過ぎ。


「インストール完了、っと」


 難なく CentOS 7 を新しいディスクにセットアップ完了。ま、ソフト屋さんだから、ハードさえ動けば簡単なものよ。


「これで、スタートラインには立ったわけだし、ここから仮想環境セットアップしてきましょう」


 インストーラ USB を外し、 PC を再起動する。

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