第八話 形のないものだけど 見付けられると信じ
「出た!」
眼鏡のレンズを通してくっきり見えるディスプレイには、 etc , home , usr , var といった、お馴染みのディレクトリが並んでいた。
でも、油断したらダメ。
これは、大外の枠組みが見えただけ。ディレクトリの中が読み出せるかは解らない。ディレクトリ構成が壊れてたら、中を辿って行けずにファイルを見付け出せない、なんてことは壊れたディスクではよくあること。
「ううん。悲観的にならないで、見つけれると信じて進めないとね」
そうして、サルベージすべく
「サーバ再構築には、何より設定ファイルがあると助かるわよね。あれこれ悩まず、動いてたときの設定そのままコピーすればいいだけだし。あとは、ウェブの公開ディレクトリと、個人用の作業ファイル、かな?」
となると、 etc 、 var/www 以下、 home 以下、ね。
「あ、あと svn のリポジトリもあったっけ」
svn というのは subversion というバージョン管理システム。
大雑把に言えば、ファイル変更の履歴を管理したりする仕組みね。履歴を残しておけば、後でやっぱり前の方が……ってときに戻せたり、どこを変更したか直前のバージョンと比較したり、とできて色々便利なのだ。
まぁ、仕事ではもっと色々な役割を果たすんだけど、これはあくまであたしの個人用だからね。実際、そういう用途で使ってたんだから、こんなところでいいでしょ。
で、その履歴を保存したディレクトリが var/repos になるんで、気づいた流れで確認しようとしたんだけど、
「あちゃあ……死んでるか」
ls var の結果の repos ディレクトリの表示がおかしかったからそんな気はしてたけど、中を辿っていけない。ディレクトリが壊れたってことは、この中に入ってたファイルは、見つけ出すことができないところにいってしまったってこと。
「まぁ、 svn は最新の作業コピーがメインPC上にあるから、履歴が失われただけでデータは無事。傷は浅い、かな」
こういうとき、そのまま作業コピーが履歴も含んだリポジトリにもなる分散管理の git の方が強いのよねぇ。
そんなことを思ったりもするけど。
「ここが読めなかった、ってことは、仮想ディスクはやっぱり壊れてたってことね。他にも、読めないディレクトリやファイルはあるって考えた方がいいわよね……ううん、本当なら全てを失ってもおかしくない状況でここまで来たんだし、必要なファイルはきっとサルベージできるって信じないと」
またネガティブになってきたんで、口に出して気持ちを切り替える。
こうなったら、一つ一つの細かいディレクトリを確認するのは止めておこう。
必要な etc 、 var/www 、home ディレクトリを、 tar コマンドで丸ごとアーカイブすることにする。
「やっぱり、ちょくちょくエラーが出てるか……」
それでも、エラーのあったファイルは無視して読み出せたファイルは tar ファイルにどんどん収められて行ってはいる。
そうしてできあがった tar ファイルを、メイン PC の側へ scp でどんどん吸い出していく。
「まぁ、幾つか破損はあったけど、設定ファイルやら公開用の HTML やら CGI のファイルの多くは吸い出せたから、サーバ環境の復旧はゼロからよりは格段に楽になりそうね」
仮想環境の中のファイルをサルベージできたことで、大分気が楽にはなってきた。
でも。
「データベースの中身は、全然吸い出せてないのよね」
ファイルが読み出せただけで、データベースが動いているわけじゃない。
データベースの中身を他の環境でもインポートできる形で取り出すには、データベースが動いている状態でダンプするのが一番確実。
まぁ、データベースの構成ファイルをコピーして設定ファイルの辻褄を合わせるって方法もあるけど、構成ファイルが壊れている可能性があるから、そもそもデータベースが動かない可能性があってリスクが高い。
ん?
「あれ? その理屈なら、動かしてみたらはっきりするわよね?」
勿論、それは大博打。
データベース以前に、OSが立ち上がるかもわからない。
それでも。
「サルベージした仮想ディスクさえバックアップしておけば、やり直しは効くし……」
うん、これは、やってみるしかないんじゃないかな?
あたしは一旦、サルベージ用の仮想環境を停止し、20GBの仮想ディスクをコピーしてバックアップを作成し、
「 VMWare 上の CentOS に Xen 載せて、仮想環境動かしちゃおっと」
メタな仮想環境の構築をすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます