第六話 待ち焦がれては切なくて
ディスクは回ってるけど、嫌な音がしばしば聞こえてくる。
かっちゃんかっちゃんと。
そのたび、思わず呼吸を止めて一秒ぐらい固まったりしつつ、ただ待つ。
「大丈夫、容量は、増えてる」
出力先のフォルダを開いたエクスプローラのウィンドウでF5を押せば、ゆっくりとだがコピー先のファイルの容量は増えている。
明らかに、 USB3.0 の速度は出てないけど。
ときどき、増加が止まって心臓に悪いけど。
着実に、データはサルベージされていた。
今のあたしには、無事に読み出されるのを、ただただ待つしかできない。
「何か飲も……」
しばらく時間は掛かるだろうしね。
待ち焦がれてても切なくなってくるだけだから、軽くアルコールでも入れて気持ちをほぐそっかな?
うん、それがいいわね。
冷蔵庫から買い置きのカップ酒を取りだし、チビチビやりながら待つことにする。
「まだかな……」
アルコールで少し解れたとはいえ、気になるものは気になってしまう。
何しろ、いつエラーが出て止まってもおかしくないから。
頼りない、異音混じりの回転音がいつ破滅的な音に変わってお釈迦になるかも解らない。
そんな中で、合計32GBものデータを読み出すなんて、薄氷の上をスパイクで全力疾走しているようなもの。
「焦らず、待ちましょう」
F5を押すのも無駄にハラハラして、思わずそっと目を伏せてしまうぐらいだから、今は画面を見ないでアルコールを楽しむとしましょう。
そうして、デスク上に空のカップが3本ほど溜まった頃。
「終わった?」
ディスクの動きが止まる。
エクスプローラを観れば、サルベージ先のフォルダに二つのファイルができあがっていた。
「容量は……」
DiskInternals Linux Reader の画面に表示された容量と、エクスプローラに表示されたファイル容量を見比べる。
21,474,836,481 バイトと、12,884,901,889 バイト。
「一致してる、わね」
ちょっと涙が出てきた。
どうやら、形だけはファイルの読み出しに成功したようだ。
「でも、全部が正しく読めたかは、これから、だけど……ふぁぁあ」
そこで、あくび一つ。
ディスクが壊れずにここまでこれて少し気が緩んだのだろう。
眠気が一気にやって来た。
「そうね、眠くて作業ミスったら目も当てられないし……続きは、明日にしましょう」
今日のところは、お風呂に入って寝ちゃいましょう。
おやすみなさい。
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