第五話 運命が回り出す 出たトコ勝負ではじめるの

 SATA->USB3.0 コネクタが、 PC へと繋げられた。


「動いて……」


  HDD に灯が入ることを祈る。


 しばし無反応な時間が過ぎた。


 でも、昨夜のようなブザーのような音は出てない。


「やっぱり、駄目か……」


 諦めかけたとき。


 カチャン、と。


 昨夜は動かなかった HDD が。


「回っ……た?」


 明らかに怪しげな音を立ててはいるものの、ディスクが動いている気配がある。


「も、もしかして……」


 Windows 10 のディスク管理画面を開くと。


「あった!」


 内蔵ドライブとは異なるディスクが確かに表示されていた。

 

 昨夜、全く動かなかったディスクが、認識されたのだ。


 心の準備のアルナシは待ってくれない。


 己の知識と技術と経験でできることをやっていかないとね。


「まずは、 ext3 を読めるようにしないとね……」


 このディスクのファイルシステムは ext3 。 Windows の標準では対応していないファイルシステムだ。


 ファイルシステムとはなんぞや? とか細かいことは省くけど、まぁ、 Windows ではそのままでは読み出せないってこと。


 でも、それを読めるようにするツールは幾つか存在する。


 とりあえず、その中でも定番の Ext2Fsd というツールを落としてきてサクッとインストール。


「さぁ、読んで……」


 だが。


「駄目……なの?」


 何度起動しても Ext2Fsd 自体がフリーズしてしまう。


 恐らく、ソフト側がディスクを認識できていないのだろう。


 こうしている間も、時折カチャカチャとディスクから音が聞こえてくる。着実に、ダメージは深まっている。

 

 本来なら、ここでディスクの接続を外して問題の切り分けをするべきだが、一度切り離すと二度と認識できない可能性がある。


「別のソフト、試そう」


 インストールしたところの Ext2Fsd をアンインストール。


 別のツールを物色すると、


「 explore2fs ……これも ext3 読めるみたいね」


 次に見付けたツールをダウンロード。これは、解凍してそのまま実行すればいいみたい。


「これも駄目、か」


 今度は起動したけど、ドライブのリストに繋いだディスクは出てこなかった。


「やっぱり、ただ回ってるだけで、もう読めないのかな」


 ううん、ここまできたんだもの。まだまだ試さないと。


 他にツールがないかを探してみる。


「 DiskInternals Linux Reader ……ダウンロード、してみよう」


 そうこうしている間も、ディスクから聞こえる異音は止まらない。


 明らかに物理的におかしくなっている音。


 残された時間は、長くない。


 ハラハラしながらも、ダウンロードしてきたインストーラを起動。


 そして、インストール後にそのまま起動すると……


「見えた!」


 そこには、目的のディスクが確かに表示されていた。


「でも、アクセスできるかしら?」


 ドライブのアイコンをクリックすると、


「ああ、嫌な音……」


 カッチャンカッチャンと怪しげな音を立ててディスクが回り。


 数秒かかったものの、


「読めた!」


 そこには、 usr 、 etc 、 var などのお馴染みのディレクトリがリスト表示されていた。


 この調子だと、ツリー表示するとディレクトリリストの読み込みでディスクに負担が掛かってしまう。


 だから、このまま順番にディレクトリを掘っていくことにしよう。


「復旧すべきファイルの所在は、 /var/lib/xen/images ……」


 var をクリック。


 異音と数秒の待ち時間。


 開いた。


 lib をクリック。


 今度も、待たされたはしたが、開く。


 xen をクリック。


「ああ、駄目、なの……」


 ディスクから一際大きな異音が響き、ソフトがフリーズしたように操作を受け付けなくなる。


 が。


「開いた!」


 十数秒の待ち時間の末、開いてきた。


「あと、一つ」


 深呼吸して、 images をクリック。


「ここまで来たら、開いてよ……」


 祈るような気持ちで、画面を見つめる。


 ディスクからは変わらず異音。


 再びフリーズ状態になってしまう。


「お願い……」


 技術者だって、自分の力が及ばないところでは祈るしかない。


 日本は八百万の神の国。きっとハードディスクの神様だっているはずよ。


 そうして、数十秒の時間が過ぎ。


 諦めかけたとき。


 祈りが届いたのか。


「見えた!」


 ウィンドウには、仮想OS用のディスクイメージファイルのリストが並んでいた。


「あ、でも……」


 幾つかのファイルの容量が 0 になっている。


 どうやら、ファイルの中身が読めないファイルがあるようだ。


 だけど。


「奇跡、ね」


 数少ない容量が表示されているファイル。


 それが、最低限復帰させたかった二つの仮想OSのメインのディスクイメージ。


 20GBと12GBと巨大なファイルだが、確かに、容量が表示されている。


 ということは、読み出せるはずだ。


 幸い、 Windows 10 に繋がっているデータ用ディスクには1TB以上の空きがある。サルベージ先は問題ない。


「この最高の奇跡に乗り込まないと」


 あたしは二つのファイルを選択し、


「えっと、保存は……これでいいのよね?」


 右メニューから Save を選び、出力先はデータディスクへ。


 そうして、異音と共に、運命のディスクが回り出した。

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