第三話 やってみなくちゃわからナイ
どうにかこうにか仕事を乗り切った帰りの電車の中。
「また、1からセットアップかぁ……」
これからの作業を思って溜息一つ。
「なんにしても、交換用ディスク買わなきゃね」
通勤経路上の
探すのは、1TBのディスク。大容量も安くなってきたけど、不必要に巨大なディスクを買っても管理が面倒なだけ。
何より、少しでも安い方が嬉しいしね。
高耐久とかを唱ったサーバ用のものとかもあるけど、流石に手が出ない。
速度は気にして、最低限 7200 RPM だったらいいか、ぐらいのターゲッティングで幾つかの店舗を回ったのだが。
「そんなに値段変わんないか」
大体六千円弱。
「ま、それならポイントが付く店で買えばいいわよね」
こうして、交換用ハードディスクはあっさり手に入った。
だけど、こうして歩いている間も、ちょっとした希望的観測が頭を過ぎってた。
「よく考えたら、昨日動かなかったのはサーバから抜いて直ぐなのよね」
ハードディスクはとてもデリケート。
特に、温度変化で動いたり動かなかったりすることがある。
昨夜のことを思い出せば、この手には、ディスクから伝わってくるほのかな熱が残っていた。
そう、あのブザーのような音がなっていたとき、ディスクはまだ稼働直後の熱を持ったままだったのだ。
また、動かなかったディスクがちょっとした振動で機械的な部分の具合がよくなって動くようになるってこともあったはずだ。
勿論、これは偶然にもほどがあるけど。
ところで、件のディスクは今は鞄の中。
すっかり熱は冷めているだろう。
梱包材に包んでいるとはいえ、通勤で持ち運んだことで何かしらの振動で刺激が加わっているだろう。
いい話ばかりを思い浮かべて自分を慰めているだけかもしれない。
でも、あたしは、まだ試していない。
このディスクが時を置いたことで動くかどうかを。
「やってみなくちゃ解んないわよね、うん」
そうよ、勝手にもうダメと思い込んでたけど、一夜明けての復活に希望するぐらいは許されるよね?
なら、
「USB3.0変換ケーブル買っちゃおっかな?」
もしも、僅かな可能性でディスクが動いたとしても、物理的にいかれているなら直ぐに動かなくなる可能性が高い。
だったら、少しでも素早くデータを抜き出せた方がいいに決まってる。
そのためには、今持ってる USB 2.0 ではなく、 USB 3.0 のインターフェイスがあった方がいいのは道理よね。
「よっし、これにしよ!」
再びパーツ屋を巡り、三千円弱のものを見付ける。
「ま、ディスクが動かなくっても、これはこれで今後も使い道はあるしね」
そう、自分に言い聞かせながら、レジへとブツを持っていって購入する。
「さて、帰りますか」
ダメ元もいいところだけど。
期待しても裏切られる可能性の方が高いけど。
なんだか、妙にふわふわした足取りであたしは家路についた。
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