第64話 いへん
*
道のりは障害の少ない拓けた土地ばかりで、一行はそれ程時間を掛けずに目的地に辿り着いた。しんりんちほーを横手に右斜めに前進し、例の光りが発生したであろう高地まであと僅かの所まで迫っていたのである。
普段から
「宿泊施設があることは知っていたんだけど、このロッジってへいげんからこんなに近いものなのかなー?」
ロッジに到着して開口一番で発せられた質問に、流石のオオカミも意図を読み切れず、質問を返す。
「どういうことかしら?」
「んー、確信はないんだけどねー。どうしても気になってさー。それに、さばくちほーの時も同じ様な感覚を覚えたんだよねー」
「そ、そうなのか? アライさんは何も感じなかったのだ」
「それは分かってるよー。アライさんは自分の身が危険だったじゃないかー」
「それは……、そうなのだ」
フェネックの意見に、一同は自らの通った道を思い起こしている様子。そして、各々が意見を述べた。
「確かに……、そう言われて意識してみるとおかしな感覚はあったかもしれない……。私は、ユメリアンを倒してから、皆との再会のためにこの催しにやって来たの。もしかしたら、と思ってね。既に怪奇な体験を味わっていたから、そこまで目がいかなかったわ」
「今思えば、それは夢の様な話でしたからね」
同じ現象に巻き込まれたショウジョウトキが深々と同ずる。
「私たちは何も感じなかったよね?」
「うーん。多分ねー、いつもと変わらなかったと思うよー」
ロスっちとアミメキリンは首を横に振った。
同じ方向から出向いた、ヨーロッパビーバーとコモモもそれらしき異変は感じなかったと言う。糸口になる様な情報はなく、また統一性も感じられない。この時点ではフェネックの思い違いで、場を収める他なかった。
「なんだか、勘違いみたいだったねー。ごめんねー」
しかし、フェネックとオオカミはどうしても、その疑念が晴れずにいた。元は獣である彼女等。そんな彼女達にとって、地形の理解は身を護る為、獲物を得る為の策の一つと言ってもいい。そんな彼女達が誤認識をするだろうか。そして、二人に共通するのは、思考力に長けているという点。それをお互いに理解しているからこそ、この疑念はどうにも捨て切れないものとなっていた。
「どうにも、釈然としないわね……」
オオカミがボソっと言い捨てる。
そして、逸早くその疑念を証明する為にも、今はユキヒツジに同行する。
それは何かの
もやもやとした空気を裂き、ユキヒツジが発声する。
「オオカミさん、では私達は……」
「今から移動するのか? 大丈夫なのか?」
アライさんが暗がりの一帯を目にし、二人を心配する。
「アライさん、大丈夫よ。私達、夕方頃に活動し始めたからね」
「そうなのか?」
「はい。今日はお店もお休みにしてきたんです」
「それに、ほら」
オオカミは自分の頭上を指差して、その夜空を気付かせた。
一同がその空を仰ぐ。
「「「「「「「「「おおー!!」」」」」」」」」
九人が同様の反応を見せた。
宝石を
「今日は、月も相俟って明るい夜になりそうね」
「ゆきやまちほーならもっと綺麗に見えますよ」
「だから、心配要らないわ。それに、これでも一応、オオカミだからね。夜には強いのよ」
「それもそうだねー」
「大丈夫そうなら、良かったのだ」
「キタキツネは……、どうするの? 一緒に行くなら連れてくけども……」
「キタキツネは駄目なのだ。アライさん達はまだ話を聞いていないのだ!」
「ボク……、疲れた。ロッジでダラダラする……」
「それもそうね。じゃあ、私達はそろそろ行くわね。ロッジの部屋は自由に使って良いそうだから、そのまま正面の扉から入ってね」
「オオカミ、助かったのだ」
「アライさん、また会いましょう。きっと、すぐに会うことになるわ」
「分かったのだ」
「皆さん、ゆきやまちほーにお出での際は是非、うちの店に寄って下さいねー!」
「またねー」
オオカミとユキヒツジを全員が見送り、一同は言われた通りに正面の扉からぞろぞろとロッジの室内へ入っていく。
このロッジは元々、ジャパリパーク内の宿泊施設として造られた一画であり、フレンズが快適に時を過ごせる様、様々な部屋が存在する。そして、ヒト、パークスタッフが強制退去を行う前は、セルリアン退治の活動拠点として使われていた場所である。その為、他の施設と比べて整備が行き届いており、未だに人の面影を残す空間が広がっていた。
「好きな部屋を使って良いと言ってましたね」
椅子や机が配置されたロビーを前に、ショウジョウトキが確認をする。
「そう言ってたねー」
「アミメキリンちゃん、早速見に行こうー!!」
「あー、ロスっち待ってよー」
仲良しキリンの二人組が逸早く抜けて、部屋探しに行くと、続く様にコモモもその場を後にする。
「では、私もお部屋を見に行ってきます。またロビーに戻ってきますね」
「あっ、私も! 一緒に行こうよ~」
「構いませんよ。うふふ」
ヨーロッパビーバーもそれに同行し、ロビーにはアライさん、フェネック、リカオン、キタキツネが残り、身を休めていた。
「ふぁ~~」
アライさんが気の抜けた声で机上に伸びる。
――すると、それは唐突に起こった。
「――――!?!?」
「なんなのだ?」
小さな違和感は次第に、確信へと変わっていく。
ガタガタガタ……。
周りから聞こえるその音は、明らかに異変を示すものであった。
「なんですか? なんなんですか?」
「あわわ……、ボク……もう駄目みたい……」
ロッジは何処よりも大きな揺れに襲われている。室外では多くの鳥達が木から飛び立ち、飛翔していた。
「フェネック、これは!?」
「皆、伏せた方が良いみたいだねー……」
ドンッ!
アライさんはその揺れにより、寄り掛かった椅子から転げ落ちた。
「ほげっ!」
一方。
オオカミとユキヒツジもその異常を肌身で感じ取っていた。
「オオカミさん、大きくないですか……?」
「これは……」
二人は片膝を落として、その体制を何とか維持していた。身動きが出来ない程の大きな揺れである。周囲のフレンズ達も、その現象にざわついている様子が見える。
それは、しんりんちほーで待つこの二人にも襲い掛かっていた。
ジャパリ図書館の前で、宙に浮きながら辺りの状況を見通す二人。
「博士、これは“地震”ですか?」
「そうなのです。助手、それにこれは……、自然的なものではないのですよ……」
「どういうことなのですか?」
「恐らくは、誰かが人為的に起こしたもの……、あれを見るのです」
コノハ博士が指したのは、キョウシュウエリアで最も高く聳え立つサンドスターの山であった。その山の火口から黒い煙の様なものが遠くの彼方へ、導かれる様に飛んでいる様子がミミちゃん助手の目に映る。
「これは……、一体何なのですか? 博士……」
「分からないのです……。ですが、これが異常な現象であることは、はっきりしているのですよ」
そして、その現象を、目前でまじまじと見るフレンズが二人。山肌で揺れに耐えながら、異常現象を目に焼き付ける。
「サーバル……、生きてるわよね……?」
「なんとか、大丈夫だけど……、これって……サンドスターなの……?」
「これ以上、近付かない方がいいわよ……。それよりも、この揺れ、気持ち悪い……」
「近付くどころか……、動けないよ。カラカル、こっちに来て……」
二人は何とか揺れに耐える。
黒いサンドスターは何かに吸収される様に、一か所に飛び立ち続けている。
その現象は、まるで空に黒の橋が架かっている様であった。
この時、ジャパリパーク全体がこの大地震に襲われたのである。
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