第50話 ふぇすてぃばる
そこに居たのは、一度目にしたら忘れる事の出来ない鮮明な赤色を持つフレンズ。ショウジョウトキであった。
「数時間ぶり……? で、いいんですかね?」
「分からないのだ。それよりも、また会えて嬉しいのだ!!」
「私もですよ!!」
窮地を掻い潜った戦友と、現実世界での再会に二人は満面の笑みを浮かべる。
「相変わらず、イカした赤色なのだ!!」
「当然です。ショウジョウトキの赤は世界一ですから(ドヤァ)」
喜びに浸るのも束の間、アライさんは時間が無い事を周りの雰囲気から感じ取った。ドタドタとフレンズ達が準備を進めている。既にアライさん達が到着した時点で多くの観客が集まっていた。この場のフレンズ達は、事前に準備をし、現在は微調整を行っているもの達であった。
ショウジョウトキもその一人である。以前見た服装とは大きく異なる、和を思わせる、巫女服(赤)を着用している。
「おぉー、印象が変わるのだ……」
今頃になりアライさんが服装の変化に気付き、見惚れる。
「そのための“ファッションコンテスト”でもありますからね。それよりも、登録は……?」
「登録?」
「参加するには、まず受付で登録しなければいけませんよ。アライさん急いで下さい」
すると、二人の所に心配で追掛けてきたフェネックが合流する。
「アライさーん、駄目だよ。突っ走っちゃー……」
「ショウジョウトキと再会出来たのだ!!」
「おぉー、お久しぶりだねー」
「フェネック、久しぶりですね(ドヤァ)」
「相変わらずのドヤ顔だねー。それよりも、えーっと、登録だっけ?」
フェネックが合流した際に途切れた話の内容を元に戻す。
「そうです。受付へ行って下さい。あちらにありますよ」
二人は頷き合い、急ぎ登録を済ませに向かう。
そして、ショウジョウトキが指し示す方向へと進んで行った。
ステージの裏側では照明や、機材などをいじるフレンズの姿が。催しに協力する知性の高いフレンズ達が運営スタッフを担っている。催しの始まる時間が刻々と迫る。フェネックが受付らしき場所を見付けると、アライさんを引っ張ってその場へと向かう。
「あったのか?」
「多分ねー」
長机に白い布を一枚敷き、紙を入念にチェックするフレンズ。そこへ大急ぎで向かうと、食い付く様にアライさんが着いて、すぐに声を上げる。
「受付か?」
「は、はいっ……!」
受付役のフレンズが、時間ギリギリでの珍客に不意を突かれて、裏返った一声で返した。ブリッジに指を当て、ずれた眼鏡を直すと本来の彼女らしい佇まいを取り戻す。
そこに居たのは、タカ目ヘビクイワシ科ヘビクイワシ属のヘビクイワシであった。
ヘビクイワシは名前の通り、蛇を蹴り弱らせて食べる姿から由来している。“書記官鳥”などとも云われ、その由来に冠羽が“書記用の羽根ペン”を連想させる事からという一説などがある。
大型の鳥類で、翼開張は200cm程。
非常に真面目な性格で羽根ペンと手帳を常に携帯している。読み書きをする事が出来る非常に珍しいフレンズで、知的な雰囲気とクールさを兼ね備えている。
外見は白軍服に同質のミニスカート、黒のタイツにブーツを履き、赤縁の眼鏡をしている。本人も書記である事に意義を持ち、それを誇らしく思っている。
「ん、ん゛ん! 時間ギリギリですね」
「間に合ったのか?」
「ギリギリです!」
クイッと眼鏡を上げ、ヘビクイワシは白紙の紙を取り出した。
「良かったのだ。急いできた甲斐があったのだ!!」
「間に合って良かったねー、アライさん」
「うむ!」
「それでは、まずはお名前を……」
「アライさんなのだ」
「フェネックだよー」
「わたくしは書記兼、ボランティアスタッフのヘビクイワシでございます」
ヘビクイワシは何やらメモを取り、その後、大きめな
「では、こちらに
机上の白い紙をすっと前に出し、横に肉池を置くと、ヘビクイワシはアライさんにそれを勧めた。当然、何を行う物かも知る由もなく。
「???」
とぼけた顔で横を見るアライさん。フェネックも初見の物に興味を抱きいた。
「まず、こちらの朱肉に手をぐっと当ててもらって、そちらの白い紙にその手を乗せてもらえれば印になります。後は、わたくしのサインを入れて登録が完了となる次第です。こちらの用紙は登録証明書になりますから紛失等には十分お気を付け下さいね」
「おおー、凄いねー、これ」
「分かったのだ」
フェネックは肉池に興味津々の様であった。アライさんが朱肉に自分の手をくっつけて離し、そのまま白紙に手を乗せるとペタリとくっ付き、小さな手形がそこへ現れた。
「おー、なるほどねー」
「手がペタペタするのだ~」
困惑した様子のアライさんの前に、ヘビクイワシは濡れ雑巾を差し出す。
「これで拭いて下さいね。フェネック君は……?」
「あぁ、私は付き添いだよー。参加はしないかなー」
「フェネックは出ないのか?」
「うん」
「了解しました」
ヘビクイワシはアライさんの手形の付いた紙に何やら文字を書き込むと、それをペラリと摘み上げ、彼女に渡した。
「ファッションコンテストは漫才の次の演目になります。あまり時間がないですから、急いで準備室へ向かってください。そちらにもスタッフが居ますから、お困りの際は遠慮なく声を掛けて下さいね」
「分かったのだ。ありがとうなのだ!」
「どもどもー」
「良い結果を期待しております」
アライさんは登録証明書を片手に、再びショウジョウトキの居る準備室へと走って戻って行く。その慌ただしい様子に、後姿を見詰めるヘビクイワシも思わずクスッと笑みを溢した。
ざわつく会場。集まったフレンズ達の期待の眼差し。
そして、ステージでは今まさにイベントが始まろうとしていた。
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