第45話 しんてん

*


「…………」


 そして、再び暑さにやられ、焦げ始めたアライさん。


「あ゛つ゛い゛の゛だああああ!!!!」


 駄々をこねる様に、干乾び掛けたけものの呻き声を辺りに発する。


 その後、包まれる静寂からこの一帯が何もない場所である事を裏付ける。

 

「…………」


 シーーン……。


 砂音が耳に入る。

 一歩一歩、熱を含んだ砂へと足を踏み込む三人のフレンズ。この地域に適したスナネコとフェネックですら、無駄な体力を消耗しない様、慎重を期し気を付けている。だが、そんな心遣いを無にしようとするフレンズの姿があった。


 アライさんだ。

 アライさんは元々、この地域に適していない事に加え、熱を吸収しやすい体毛色である。言うならば、炎天の元、重りを背負ったまま移動を続けている様なものだ。そんな状態でさばくちほーを通過するのは至難の業である。先程まで涼しい穴倉で身を休めていたせいか、余計に酷であるその体は、既に暴発寸前の状態にあった。


「アライさんは、色が駄目だよー。白なら、砂漠でもやっていけるよー」


 フェネックの言葉に、自らの白い姿を想像するアライさん。


「……。それでは、アライさんはアライさんではなくなってしまうのだ!!」

「アライさんは、その色だからアライさんなのですか?」

「そうなのだ!! アライさんはアライさんなのだ!!」

「んー? ちょっと、よく分からないよー。けど、その色の方がアライさんぽくてしっくりくるよね」

「当然なのだ!! アライさんはこれでこそ、アライさんなのだ!!」


 自分の色を主張するアライさん。スナネコがその話題に冷めた所で、次の話題を視界に捉え、熱した。


「見て下さい!! やっとですね」


 スナネコが指差す正面には、この砂漠に終わりを告げる緑葉の色彩が迎えてくれた。それは紛れもない木々である。こんなにも、そこに立つ木に感謝した事は一度たりともないだろう。アライさんとフェネックは、その緑に感慨深く、感動していた。


「ようやくかー。うーん、長かったねー」

「本当に長かったのだ……」


 思い返せば、このさばくちほーでの出来事は二人にとって決して忘れる事の出来ないものばかりであった。その殆どがアクシデントの連続である。


「死ぬかと思ったのだ……」

「アライさんはー、いつもそういうのばっかりだけどねー」


 それは言わずも知れた日常的なトラブルの数々。二人にとっては、決して珍しいものではなかった。


「そんなことないのだ。アライさんにももっと、優しいお話が……、あるのだ!!」

「今の間は一体?」

「そろそろ、自分でも分かってると思うんだよねー」

「ぐぬぬ……」


 三人は進む。

 そして遂に、さばくちほーの境界を越え、次なる目的地のこはん付近に踏み入ったのである。それは同時に、さばくちほーの終わりとスナネコとの別れを意味していた。


「私は、ここまでです。こはんはこの先を真っ直ぐ進んだ所にあります。すぐに着くと思いますよ」

「スナネコ、色々助かったよー」

「ありがとう、なのだ!!」

「いえいえ、私も久しぶりのお客さんで楽しかったです」

「お客さんじゃなくて、友達なのだ」

「そうだよー。もう私達はそういう間柄ではないと思うよー」

「そうですね。では、また遊びに来てください!」

「分かったのだ! また今度、なのだ!」

「ばいばーい」


 手を振りながら、別れる二人とスナネコ。

 懐かしの木陰を堪能しながら、アライさんとフェネックは軌道修正の為に、こはんを目指す。


「涼しいのだ……」 

「地域によってこんなにも気候や気温が変わるなんてねー。へー」


 今更ながらに、その不思議な感覚を直に味わい、関心を持つフェネック。

 このジャパリパークは各地域によって、その環境が大きく異なり、管理されている。これもサンドスターによるものだと云われている。


 そして、このこはん周辺では針葉樹林が広がり、フレンズ達にとって過ごし易い環境と言える場所なのである。そして、早速フレンズ達の会話を耳にし、颯爽と突っ込んでいくアライさん。


「お前達、何を話してるんだ?」

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