第34話 くせん
二人はピンと来ないまま、その声に反応した。
「さぁ!!」
オオカミが“こちらへ来い”と手招きをする。それを戦闘の合間に確認して、二人はその方向へと移動する。
「どういうことなのだ?」
「散らばる必要がなくなったのですか……?」
バラついていた小型セルリアンの少数が三人の方向へ、ゆっくりと集まってくる。
「説明してる暇はなさそうね。リムガゼル! ユメリアンまでの道を拓いてちょうだい!」
「わ、分かりましたっ! 行きますよっ……!」
「アライさん、付いて来て!」
「分かったのだ!」
槍術使いのリムガゼルが先陣を切り、突っ走る。
「これでっ!!」
前方の小型セルリアンを刺突し、次々と排除していく。
しかし、片側へと意識を集中させすぎ、死角から小型セルリアンの接近に気付かないでいた。そして、三日月型セルリアンは得意の攻撃でリムガゼルを襲う。
スパーッン!
「きゃああああああ」
声を上げたリムガゼルは地面へと転ぶ。それと同時に二色の目が光りを灯した。
「やあー!!!」
オオカミがその後ろから素早い攻撃で敵を仕留める。
パリーン!
「リムガゼルッ!」
「だ、大丈夫か?」
アライさんとオオカミは後ろからすぐに駆け寄り、安否を気遣う。
「はぁ……、はぁ……。ゆ、油断しました……。問題無いですっ」
ボロボロになりながらも、落ちた自身の武器を取り、再び
しかし。まだ。
この戦場には敵が居て、助けなければならない仲間が居る。特にリムガゼルは同じグループであるヘラジカをリスペクトしており、絆はこの場の誰よりも固いものなのだ。
「ま、負けませんっ!!!」
いつもは弱気なリムガゼルが仲間の危機を目の当たりにし、残された力を出し尽くす。
そして、目を光らせ。
「やあああああああああああ!!!!!」
ホーンノックで前方の敵を弾き飛ばし、破壊する。辺りには多くの光りが散らばった。
「さぁ……、急いで……」
槍で体を支えて、地面に片膝を落とすリムガゼル。ユメリアンの攻撃範囲内である為に、このまま放置すれば見捨てる事に同じになってしまう。オオカミは上空のショウジョウトキに声を送った。
「ショウジョウトキ!! リムガゼルをお願いっ!!」
「分かりました!!(ドヤァ)」
急速な飛行が不可能なショウジョウトキは隙あらばと、ヘラジカ救出の機を窺っていたが、ハクトウワシとの戦闘を繰り返すユメリアンが向きを変えない為に身動きが出来ずにいた。それに加え、現状ハクトウワシとの攻防を行う上部のクモの足が脅威で接近することすらままならない。
しかし、相手の死角であるならば、仲間の為にその翼を役立てる事は可能なのだ。何も出来ずに
ショウジョウトキのドヤ顔が、地上の二人には今ばかりは頼もしいものに見えたのである。そして、回り込んでリムガゼルの方へとその赤色が迫ってきた。
それを見て、オオカミとアライさんは頷き合い、ヘラジカの方へと猛進していく。
「やあー!!!」
「あたるのだっ!!」
阻む敵を破壊する一方、二人の体力は確実に消耗を続けていた。
ユメリアンの足元付近。煙が立つ中を抜け、遂にヘラジカの元へと駆け寄った二人。
「ヘラジカ!!」
「大丈夫か?」
「う、うん……。まだ衝撃で、頭が痛い……」
ヘラジカの武器は片方が折れ、地面にはその衝撃を物語る
現在はヘラジカに次ぐ攻撃力を誇るハクトウワシが交戦し、時間を稼いでいるがどれだけ持つかは分からない。寧ろ、単独でこれだけの時間を稼げている状態の方が異常な程だ。
上空を飛び回り、隙を見て攻撃を繰り返す一人の姿はとても
「もう少しお願いするわ……」
「よいしょ」
「す……、すまない……」
「大丈夫なのだ」
アライさんがヘラジカに肩を貸し、もう片方をオオカミが支える。
「さぁ、急ぐわよ」
そして、三人はゆっくりとユメリアンの足元から離れて、その場を離脱する。
その様子を上空から、激戦を繰り広げるハクトウワシがチラリを見て、安堵した次の瞬間。
更に、事態を悪化させる現象を目撃した。
「な……、そんな……」
唖然とし、一瞬よそ見をしたその時。隙をつき、ユメリアンの大鎌の様な上部の足がハクトウワシを空から叩きつけた。
ガサガサガサ……。
悲鳴はなく、衝突音の後、木々を突き抜けて間近の茂みへと勢いよく落下していった。
「うそ……」
負傷した二人以外が、その様子に目を取られ、絶望の表情を浮かべた。交戦していたハクトウワシが一瞬の隙に地へと落とされたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます