オルガナ 2

 朝食後、暇を持て余して部屋で筋トレをしていた私の元へコレットがやってきた。


「…………」


 やってきたのだが、扉を少し開けてそこから私を覗き見るだけで何も言わない。

 しばらく私も中断せずに筋トレを続けていたのだが、数分ほど経って私のほうが耐えきれなくなって声をかける。


「俺に何か用があるのではないのか」


「いえっ、服を着ていらっしゃらないので……」


 確かに汗をかいたので上を脱いでいた。私が上を着ると、コレットが安心したように部屋へと入ってくる。上を着ていようがいまいが、覗き見てるくらいならあまり変わらないような気もする。


「実はですね、先程昨日お話していたレッカのお友達が来てくれたんです!」


 コレットが何がそんなに嬉しいのかニコニコしながら両手を合わせて言った。


「そうか、なら挨拶をして当初の予定通り君の癖やら何やらを見てもらうとするか」


 私が言うと、コレットはそこで急に表情を暗くした。


「いえ、それなんですが。ちょっと今日はそれは無理そうでして……」


「何故?」


「何故なのでしょう……? 疲れが出ている? のかもしれません」


 コレットの返事は今ひとつ要領を得ない。


「とりあえず顔を出してみるか」


 朝会ったあの旅行者ではないかと思ったのだが、違うのだろうか。強行軍とは言っていたが、そこまで疲れているようには見えなかった。……もしかしたらそもそも人違いで全然違う者がいるのかもしれない。


 例えレッカの友人だろうがなんだろうが、腑抜けているのであれば喝を入れてやろうと考えて私は立ち上がる。

 焦燥感が特にない私が言うのも筋違いな気はするが、一応世界の危機で、その瀬戸際らしい。だからお遊戯気分でいられても困る。……と、ギャレットなら言うと思う。あの爺さんは自分のことを棚上げするのは得意だった。私もそういうことにしておこう。


 そしてコレットの案内でたどり着いた食堂では、一人の完全に出来上がった酔っぱらいが居た。というか、やはり今朝の旅行者だった。


 道中で買ったと思われる酒瓶を抱え、乾物を酒のツマミに呆れた顔で佇むレッカに絡んでいる。

 食堂に私とコレットが入ると、それに気づいて、


「やっほぉー! コレットちゃあーん!」


 ぶんぶんとオーバーリアクション気味に手をふって自分をアピールする旅行者。

 そして横にいる私に気づくと首を傾げ、


「おにーさんどこかであったことなかったっけ?」


 私は一瞬言葉の意味を取りこぼして、じっと旅行者の目を見る。私を見返してくる目は真剣だった。コイツマジで忘れているのか……?

 特に迷うこともなく私も調子を合わせることに決める。


「ないと思うが」


「だよねえ! あっはっはっはっ、あたしもないと思ってたわあー! あはははははは!」


 うっぜぇ……。

 旅行者はその会話で完全に私に興味をなくしたのか、コレットに絡みに行く。


「おい……」


 それを見計らって、私はレッカに苦情を言うべく話かける。


「何も言わないでください。私もちょっと予想外でしたが、あの子はあれで緊張しいなので、多分お酒でも呑んできたのではないでしょうか」


 呑んできたというかまさに今も呑んでいるのだが。


「では普段はああではないのか」


「普段もあんな感じですがもう少し鬱陶しくはないですね」


「普段もあんな感じってことは相当普段から鬱陶しい……いや、馴れ馴れしいと思うんだがそんな性格なのに緊張しやすいのか?」


「言い直した意味ありました? まあ、そういう子なのです」


 人災の様な娘だ。


「彼女はオルガナ。ああ見えて腕は立ちますし、召喚術の心得もあります」


 召喚術の心得があり、腕が立つ。あの呑みすぎて吐きそうな顔をしている女が……?

 だんだん居たたまれなくなってきた私は、「オルガナが快復したら呼んでくれ」と言い残すと食堂を後にした。



---



 朝から酔いつぶれて眠っていたオルガナは夜になって目覚めると、風呂に入り身嗜みを但し、髪の毛を整え薄く化粧を施した状態で私やコレットの前に現れた。


「改めまして」


 オルガナが恭しく一礼をする。


「お招きいただきましたオルガナ・ノルラックと申します」


 思う。先入観をなくして見れば、この優雅でミステリアスな女性ならばもしかしたらなんとかできるかもという期待を持てたかもしれない。

 だが今の私の脳裏に浮かぶのは今朝のへべれけになってトイレで吐きながらコレットにウザ絡みしているあの残念な姿だけだ。

 もしこれが印象操作の一環であるというのなら恐ろしいことだ。何の意味があるのかは判らないが。


「この仕切り直しには意味があるのか?」


 思わず何もひねらずに聞いてしまった。コレットとレッカが私を咎めるような目で見てくるが知った事か。いきなり醜態から押し売りしてくるこの女がいけないと思う。


「良い質問だねお兄さん」


 オルガナはドヤ顔でそう言うと指を左右に振った。良い質問だね、という返しは想定してない質問が来たときに使うと聞いたことがある。

 それを見極めるために私はオルガナの解を待った。


「…………」


「…………」


「女の子には色々あるんだ」


「そうか。悪いことを聞いたな。続けてくれ」


 ますます険を強めるコレットのレッカの目を受けて、私は続きを促した。


「今回レッカに呼ばれたのは、コレットの召喚術を見てほしいとのことだったけれど……」


「はい」


 レッカが肯定して事情を話し始める。


「お嬢様は召喚術のやり方を見失ってしまったようで、今では召喚術師としては新米と歩調を揃えるくらいになっています。なので往年の勘を取り戻していただく補助をしていただくべく貴方を呼びました」


 レッカの言葉にコレットが小さく「往年って……凄かった時期もとくにないんだけど……」と言ったが誰もその言葉を拾わなかった。


「なるほどねえ。ところでレッカ、久しぶりに見たけどメイド姿が身についてきたじゃないか! 見違えたよ。昔の装いも似合うなあ〜って思ってたけどこれはこれで似合ってる! 才能あるよ!」


「話聞いてました?」


 レッカが若干疲れたような表情で言う。多分これも”いつものこと”ではあるのだろう。そして私はそれより気になった言葉がありつい口を挟んだ。


「昔の装いとは? このメイドは昔は何をしていたのだ」


「おや、おにーさんもこの家の人かと思ってたけど知らないのかい? レッカは昔……」


 何かヒヤリとしたものを感じたと同時、オルガナの言葉が止まる。どうやらレッカが何かした……様子もないが彼女の機嫌が急直下した結果、彼女の魔素が漏れ出してきたようだ。悪寒といったようなものではなく、単純に体感で室温が下がっていて寒さを覚える。


 オルガナがレッカをみて申し訳なさげにニヘラと笑うと、


「ごめんごめん、あんまり言っていい話でもなかったね。ごめんよおにーさん。レッカちゃんの好感度を上げて彼女から聞いておくれ。でもレディだから隠れて調べたら好感度ダダ下がりしちゃうかもよ?」


 私はこのメイドの好感度をあげようとは特に思っていないのだが、これ以上好感度を下げると仕事もやり辛かろうと思い引き下がる。


「すまん、横道に逸れさせてしまったな」


「本当ですよ」


 レッカが若干拗ねたように言う。


「まあまあ、落ち着いて。ね?」


 コレットが頭を撫でようとして背を伸ばすが届かず、肩のあたりをぽんぽんと叩く。


「……そうですね。すみません、私も少し大人気なかったです。当事者であるお嬢様でさえ蚊帳の外なのに私がどうこう言っている場合ではありませんでした」


 このメイド、すぐムキになる割には結構素直である。コレットはコレットで蚊帳の外呼ばわりされて顔を引きつらせてダメージを受けていた。

 パン、とオルガナが音がなるように両手を合わせる。


「じゃあ仕切り直そっか! ええと、じゃあコレットちゃん!」


「え、あ、はい!」


「精神獣を見せてもらえるかい?」


「えっ」


 オルガナの言葉に身をびくりと震わせるコレット。


 精神獣というのは教本にも乗っていた。

 一番確実に呼び出せて、召喚術師自身を反映していて、ある意味一番制御が難しい最初の召喚獣。それが精神獣だと。

 己の写し身であるそのこころを反映させたそれは、あらゆる場面で助けになってくれる時もあれば、術者にとって最大の試練をもたらすこともあり、自分の心を偽るものに取って許容し難い敵となることもある。

 なればこそ、コレットの反応を私は少し奇妙に思った。それはオルガナもそうであったようで、首をかしげる。


「別に精神獣が顕在化していなくても召喚はできる。できるけど、何故召喚できないかみたいな時にはやっぱり精神獣の状態を見るのが一番早いよ」


 コレットが露骨に目をそらす。


「そうか……居て当たり前だから教本にもほとんど記載がないのか」


 初歩の入門なのにいきなり何の説明もなく精神獣がどうとか書かれても門外漢の私にはいまいち判らなかった。もしかしたら私が手にした教本は初心者としての第二歩目くらいに読むべきものだったのかもしれない。

 オルガナの目が私を捕らえる。


「精神獣って言うのはね、何の対価もなしに呼び出せる、召喚術師が一番最初に呼び出す召喚獣。ギャレット卿の精神獣はあまりにも強大だったから星神獣の字を与えられるほどだったよ、ってこれは流石に知ってるか」


 オルガナに言われて私も少し思い出す。ギャレットがよく連れていたでっかい犬が確かそんな感じのやつだったと思う。

 私には全く懐かず、否、懐かないどころか警戒され通しだったので私もギャレットの精神獣とやらに関しては何かよく側にいる獣がいるな程度の認識しかなかった。


「精神獣を呼び出したくないのなら……そうだね、他の獣との契約をしてみる?」


「ちょっと待て、呼び出したくないってどういうことだ」


 私の言葉にオルガナは俯くコレットをちらりと見て、


「精神獣はその人がどうとか関係なく、その人の心が反映された獣になるんだ。だから……その、時にあまり見栄えが良くない獣の姿を取ることがあって、まあそういう精神獣だった場合はあまり人前では呼び出したがらないものだよ。そうでなくても魔力切れの際も使えるから、隠し玉としてもっていたり……」


 何となく合点がいった。コレットの精神獣はその”あまり人前に呼び出したくないもの”かもしれない。コレットが先程から否定も肯定も言い訳もしないところを見るに概ね間違っていないのだろう。


「さて、契約か……どの辺りの獣となら契約できるかな……」


 オルガナが目を閉じて付近の地図を浮かべているのか、ぶつぶつと何事か呟きながら考え始める。

 私はコレットに手招きをして、恐る恐る近づいてきたコレットに小声で話す。


「おい、その精神獣を呼ぶのが恥ずかしいなら俺とレッカは席を外してもいい。お前も少しは前に進む努力をしろよ」


「うぅ……そう言われるとは思ってました……。違うんです、恥ずかしいんじゃないんです。呼べないんですよ私……」


 コレットは消え入りそうな声で言った。


「一応確認するが、本当に召喚術師なんだよな?」


「うっ、ちょ、ちょっとそこから疑われるとさすがに心に刺さります! いえでもその疑問も今の流れではごもっともです……何故か喚んでも応えてくれないんです……。昨日も何度か喚んでみようとはしたんですけど」


 そこから疑われるとと言うが、私はまだ一度も召喚術師らしいところを見ていないのだが。


「お前……」


 もしかして、自分の精神獣にすら嫌われてるのか?


 私が憐れむような目で見たせいか、コレットは口を尖らせる。

 特にコレットに自分を偽ってるような印象は見受けられないのだが、何かそうなる理由があるのだろうか……いや、なければここまでの事態にはそうなるまい。


「どうするんだ、そんな状態でオルガナの言うとおり他の獣と契約なんて出来るのか?」


「契約はできる……と思います」


 これでも召喚術師ですから、とコレットは小さく言葉を添える。


「だが、判っているのか? 俺は未だにお前の召喚術師らしいところを見ていないが……仮にお前が召喚術師だと自分で思い込んでいるだけなら、あるいはその資格を本当は有していないのなら契約どころか獣に喰われるかもしれんぞ」


 これは冗談ではない。召喚術師の契約の儀には他者は不可侵であるし、契約のための資格を有していなければそれこそ獣にその生命を奪われることも珍しくはないらしい。そしてそんな常に生死の危険と背中合わせだったのも重なり召喚術師の減少を招いたのだ。


「判ってます」


 コレットは小さく答えて自嘲気味に笑い、


「それにもう、契約すらできないのなら私は召喚術師を名乗れません。イムカさんには既にそう思われてるかもしれませんが、自分はまだこれでも召喚術師のつもりなんです」


 私もなんとも言えぬ気持ちになる。

 これで本当に召喚術師でないのなら、ギャレットに「アンタの孫は駄目だった。他を当たれ」と告げて終わるのだが。

 自分は召喚術師だ、と言うコレットの芯の部分にはきちんと何かがあるのを感じ取ってしまい、私はそれ以上何も言えなかった。


「一応確認しておくけど、さすがに契約手順とかは判るんだよね? ほんっとーに初心者とかじゃないんだよね?」


 思案を終えたオルガナが真剣な顔で確認をしてくる。コレットは心外だと言わんばかりの顔になっているが、正直爺さんから召喚術師だという第三者評を聞いていなければどうやってこいつの嘘を暴いてやろうかという考えになっていてもおかしくはない。第三者評があってすらそろそろ信じるのが厳しくなってきている。


「判りますよ! イムカさん、ちょっといいですか」


 コレットは有無を言わさず私の手を取った。


『術式:コレット・ウォンテスターによる契約の儀』


 コレットが術の発動を宣言すると、彼女の体が周囲に密集した魔素の反射により淡く光る。


 コレットが私を握る手に力を込める。


『我、汝に我が盟友となりて道を共に歩みしことを求む』


 その言葉を発すると同時、コレットの魔力が何やら流れ込んできた。私はその流れ込んできた魔力にくっついてきた諸々を特に読み解きもせず、


「保留で」


「そこは合わせてくださいよおーーーーーー!!!!!」


 コレットが叫ぶのと同時にコレットに集中していた魔素が散り、普段の残念なコレットが戻ってくる。


「大体俺相手に契約してどうするんだ……」


「だって……! だって! あの人が疑うから! 形だけでもと思って……」


 コレットにあの人と指されたオルガナは苦笑気味に、


「いや、まあ、うん……。契約のやりかたは判ってるみたいで良かったよ。それなら大丈夫かな、いくつか候補があるけどどこへ行く?」


「そんなピクニック感覚で行けるようなものなのか……? どういう候補があるんだ」


「この辺りだと……龍脈にいる水の大精霊、教会跡の鎧騎士、森の大樹、地底の網蜘蛛、あとは……廃城の大狼あたりかな?」


「ちょっと待って下さい」


 オルガナがあげた契約候補にレッカが口を挟む。


「森の大樹以外があまり現実的ではないと思うのですが」


「そうかな? だって初心者じゃないんでしょう? 初級モンスターとの契約なんてできないだろうし、このあたりに中級のはいないからどうしても大型のモンスター中心になっちゃうよ。何かあってもレッカやイムカさんもいるから大丈夫だと思ってね」


 オルガナの返答を聞いて、私も会話に参加する。


「すまん、その……契約候補の良し悪しがよくわからないのだが」


 私の疑問にレッカが答える。


「水の大精霊は龍脈の辺りを拠点にしているおかげでその力が膨れ上がりすぎて最近では危険視されていますし、鎧騎士は要は廃教会に住まう亡霊です。これも地縛霊のようなものになっているので召喚契約は難しいでしょう。網蜘蛛にとってはそもそも我々は捕食対象なので……。それに廃城の大狼なんてギルドで高難度の討伐クエストですよ。廃城周りには脳喰らいとか物騒なモンスターがわんさかいますし」


 それは……確かに森の大樹とやら以外の選択肢がキワモノすぎる。


「で、では……森の大樹で……」


 コレットも概ねレッカと同じ意見だったのか、消え入りそうな声で言った。


「よし! じゃあ明日からクオッグの大森林に向かおう!」


 オルガナが両手を合わせて嬉しそうに言う。

 オルガナの言葉に若干の引っ掛かりを覚えて私は口を挟む。


「明日……”から”? 遠いのか?」


「うーん……さすがに日帰りできるような距離ではないけど、そこまでは遠くないと思うよ。でも旅装の準備はしないとね」


 ふむ、とオルガナの言葉に頷く。



---



 今日は解散ということになり、コレットが出ていったのを見送ってからオルガナが私とレッカと向き合う。


「召喚術のやり方を見失ったって最初にレッカが言っていたけど、本当?」


「本当です。理由は存じ上げませんが。というか、私がお仕えし始めた頃には既に今の状況でしたし」


「何だ、ではお前もコレットが召喚術を使役しているところを見たことはないのか」


「ええ……。ただ、ギャレット様から今は事情があって召喚術がほとんど使えなくなっているとだけ伺っておりました」


 あの爺! やっぱり全部知った上で訳ありであることを黙っていやがった! コレットがポンコツだからなんとかしろ、ということかと思えば訳ありでポンコツになってるというのならその原因くらいは話しておけよと思う。


 オルガナが複雑そうな表情で、


「普通はありえない。コレットちゃんは記憶喪失になったことがあるのかい?」


 私とレッカは顔を見合わせた。レッカが答える。


「記憶喪失ですか? いえ、そういう話は聞いたことありませんが」


「召喚術師としての道を歩み始めてそれが使えなくなるってのはそう単純なことじゃないんだよ。レッカが剣の使い方を忘れて、イムカさんが魔術の使い方を忘れるようなものなのさ」


 レッカが驚きで目を開く。

 確かに一大事だ。修練を重ねて手足のように使ってきたものを忘れる――もっと身近なところで言えば、それこそ手足の動かし方がわからなくなるようなものだろう。


 オルガナが疑ったとおり、コレットは記憶を失っているのかもしれない。だが本人がそのことすら自覚していないのか、他の人に話したくないだけで覚えているのかもしれない。

 それでもコレットは召喚術師だ。その記憶を持っていて、多分少なからずそれを自負できるだけの自尊心もありながら己に起きている今の惨状をどう捉えているのだろうか。


 基礎はできていて、召喚陣自体も反応はしていた。出て来るものが規則性のないランダムだったり、不発に終わっているとしたりしてもだ。

 喚ぼうとしているものが全く出てこないという点では使えなくなったと言えるのだろう。だが全く使えなくなったという表現は正しくなくて、基礎からの手順を暗記するほど教本を読んでその通りにできるということはおそらく忘れたわけでもないのだ。


 一番近い表現としては喚んでからその対象が召喚されるまでの経路がおかしくなっている、とそういう話だろう。

 だが記憶を失っているにせよ、覚えていて使えなくなっているだけにせよ、傍から見ていてその現象に直面して絶望するほどの狼狽は見られない。もしかしたら胆力は想像するよりはるかにあるのかもしれない。それかもはや狂気に近い何かが。

 状況は全く解決しないまま、謎ばかりが深まっていった。

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