第8話

「悠が置き去りにして行ったっぽい洋服とか、色々あった気がして電話したのはホント。だけど、私の部屋って散らかってるじゃないですかぁ」

テーブルの端を指先でトントン叩き、頬杖をついてヒノエは優子をジト目で睨む。

「見れば分かる」

「だから、ゴミ捨てとか手伝って貰って、いるものあったら持って帰って貰おうかと……ごめん!」

「……とりあえず謝っておけば済まされると思ってんのか?ナメんな!」

苛立ちから、今にも優子に殴りかかりそうなヒノエを止めたのは、法師さまだった。法師さまはヒノエが暴れないように、ギュッときつく抱きしめて、口を開く。

「優子ちゃん、だっけ?ヒノエちゃんにも事情があるんだよ。遠くて行けないような場所から、今回は僕が引っ張り出してきて、そのついでだったけど」

「でも、引越し大変だし、誰かに手伝って欲しくて……ほら、私って天然だから」

「テメェのは天然パーマだろっ!よく今まで生きて来れたよなぁ?あぁ?」

ヒノエの悪態はエスカレートし、法師さまの腕の中から逃れようと足掻き出す。温泉街の四柱や姫、王子は何らかの武術を嗜んでおり、並大抵の客人では暴走した時に食い止めきれない事が欠点なのだ。

法師さまの坊主頭は、汗でテカり始めていた。

「ものが勿体無いと思うなら、自分で分別して着れるものだけまとめて、ヒノエちゃんに送ればいいじゃないか。ここで揉めて勿体無いことになるのは、神経と体力だと、僕は思うね!そういうのは、ものじゃないから買えないんだよ?優子ちゃん!」

「法し……んむっ!?」

「ヒノエちゃん。ちょっと大人しく……痛っ!手、噛んでていいから暴れないで!」

法師さまの手がヒノエの口を塞ぎ、ヒノエはその手に思い切り噛み付いた。優しげな法師さまの顔も、苦痛で引きつる。

「とにかく!優子ちゃんには優子ちゃんの生活があるように、ヒノエちゃんにもヒノエちゃんの生活があるの。お片付け出来ないなら予算を見積もって、近隣のギルドに依頼しなよ!」

ここまで来て、やっと気が付いたのか優子はハッと顔を上げて連絡用の電子端末を開く。少し落ち着いてきたのか、ヒノエは法師さまの手から口を離し、歯型を残してしまった部分をペロリと舐め、ここにはもう用がないと言わんとする空気を纏い、立ち上がる。

「朝食に関しては、礼を言う。ありがとな。ギルドだが……片付け程度の平和的な仕事なら、規模の小さい所を選べよ」

次いで法師さまも立ち上がり、二人は優子のアパートを後にした。

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