第2話

温泉街の四柱を1週間も独占するには、それに見合うだけの信頼と、多額の金が必要だ。「花」の段階では街の外に連れ出す事は禁止され、「姫」や「王子」は街の中枢に絡む仕事も多く抱える為に客人と街の外へ出る事を拒むのだ。 街の情勢については、今は置いておこう。



ヒノエは下宿先に戻り、どれだけ少ない荷物で1週間をすごせるか、クローゼットの中と睨めっこしていた。

「古着……楽なんだけどなぁ。洋服だと1週間ってちょっとかさばるよね?後は〜……着物?うん!」

手をかけたのは、クローゼットの下の方に置いてある引き出し。艶やかな色彩のものを2枚ほど引っ張り出す。

「あった!女物は自分で着れなくても、男物に改装したやつなら、着物と浴衣と……あと紐とか帯とか足袋とか細かいものだけで着るものはオッケー!鞄一つで済むぞっ」

鞄に少しの衣類を詰めて、時計に目を向ける。22時少し前だった。

「うん!1週間はここのお風呂に入れないんだもの、今のうちにサッと入ってこよう」

バスタオルを掴み、部屋を出て、下宿の一階にある共同浴場目指して猛ダッシュ。

温泉街、と言うだけあり、高級旅館から一般家庭まで、この街でお風呂と言えば温泉なのだ。豊かな湯量も、観光資源の一つになっている。


脱衣所に入り、着ていたものを脱ぎ捨ててバスタオルと友に乱暴にカゴに詰める。と、先客が湯から上がったのだろう、浴場のドアが開いた。

「もう、ヒノエちゃんはまた服脱ぎ散らかして……ちゃんと畳まないと、シワがついて取れにくくなるぞ?」

いかにも世話好きといった声色の男性は、昼間の広場でアイスキャンディなどを売っている、同じ下宿の住人だ。下宿の浴場はさほど広くはなく、混浴になっている。

「あははは、明日からちゃんとしまーす!て、言っても明日から仕事で1週間街を出るよ!下宿のおばちゃんにヨロシクしておいてー!」

「仕方のないコだなぁ全く……」

「それじゃ、おやすみなさいねー!」



「混浴ってのは、ホント便利だよ。私の身体を見ても普通に接してくれる人ばかりで、さ……」

かけ湯を念入りにした後、ゆったりと湯に浸かり独り呟くヒノエ。誰も居ない浴室は、ちょっとした独り言でもよく響く。ヒノエの身体は、セミロングの明るい赤茶色の髪に白くきめ細やかな肌、この温泉街でそれは良い武器になる。ミズノト程では無いものの豊かな乳房があった。曲線や弾力は女性そのもの。だが、下半身には見た目にそぐわないであろう男性器も備わっている。遅咲きだった少女は、両生具有という言葉を知るまでにずいぶん思い悩んでいた。

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