2-2. 人殺しをめぐる論議(Ⅱ)

 

  2


 ここからが本題だ。

 そう感じたヒナコはもう一度、軽く頭を振って気合を入れ直す。


「もし、人工脳が本当に作れるとしたら」永久乃博士はそう言って微笑んだ。「そのことが持つ、最も大きな技術的意義は何だと思われますか。九條さん」

「その言い方だと、まるで博士自身が人工脳を作れるとは信じていないみたいですけど……」ようやく軽口を叩くくらいの余裕が出てきたようだと自覚しながら、ヒナコは言った。「人間が、自己の基本的な機能を改良する手段を得ることだと思います」

「ええ、そこが最大のポイントです。いわゆるシンギュラリティの議論にも繋がる話ですね」と永久乃博士は頷く。「人間の仕組みを解明し、再現し、改良することで能力の拡張を図る。それが、トランスヒューマニストの目指す未来でもあります。人間は、自分自身を進化させることができるようになるというわけです。しかし、技術とは離れた部分でさらに本質的な問題があると僕は考えています」


「それが、自己同一性ですか」

「そもそも、何のために人間の能力を拡張する必要があるのでしょう」博士は質問には答えずそう問い返した。

「何のために……色々と理由はあると思いますが……」ヒナコは眉をひそめる。「生物として、より強くなるためではないでしょうか」

「どうして、強くなる必要があるのですか」

「出来なかったことを出来るようになります」とヒナコは答えた。「これまでもテクノロジーの発展によって、人間の暮らしは豊かになってきました。病や不幸も、少なくともフィジカルな面だけに着目すれば減っているといえます」

「機能を拡張することと、出来なかったことを出来るようになるというのは、ほとんど同じ意味です」永久乃博士は淡々と述べる。「貴女は今、無意識にそのことに気が付いた。それで後から言葉を付け加えたわけですが、そちらの方が核心に近いと言えます。つまり、強くなることがよりよく生きること、幸福に繋がるからですね」

「すみません、頭の回転が鈍くて」


 苦笑しながら答えたが、博士にとってはきっとこれも不要な言葉であろうと思う。彼は間違いを指摘することでヒナコを謝らせたり、精神的な優位に立ちたかったわけではない。そういう行動原理は博士の中にはない、とヒナコは判断した。つまり彼は、ただ事実を述べただけなのだ。

 そうわかっていながら、このような意味のないリアクションをしてしまう自分が少しだけおかしかった。


「いえ、……失礼しました。貴女はとても聡明です」と博士は過失に気付いたような顔で言った。「話を元に戻しましょう。我々のあらゆる進歩、発展が幸福のためだと考えるなら、もちろん前提として幸福を感じるための主体の存在が不可欠になります」

「なるほど」ヒナコは小さく頷く。「やっと筋道が見えてきました。それで、自己同一性の話になるのですね」


「人工脳に人間の意識を移植する際、我々が自我と呼ぶものの連続性が担保されることを証明する手段は原理的に存在しないと言われています」永久乃博士は学生に向かって講義をするみたいな口調になった。「生命活動も神経回路を使った情報の伝達ですから、その過程をコピーして異なる媒体に移し替えることが可能です。その際に情報の欠損が全くないわけではありませんが、それは僕たちが日々生きていく中でも当たり前に起こっていることです。人間の存在を単純に機構として捉えるなら、自我の再現が不可能であると考える理由はありません。しかし……」


 博士はそこでいったん言葉を切って、ヒナコの目を見た。

「意識のハード・プロブレム」ヒナコは二回、瞬きをしてから言った。「脳の仕組みをいくら解析しても、私たちが現にこうして体験しているはずの意識というものが存在する根拠を見出すことはできない」

「そう。形而上学の範疇で、おそらく現在の科学の枠組みでは解決不能な問題です」と博士は言った。「僕の考えるところによれば、人工脳の技術によって人間は死を克服できます。ただし、それは意識のハード・プロブレムを脇に置いて考えた場合のことです。傍から見れば寸分違わない人格を再現できていたとしても、それが本当に人工脳に移植される前と同じ意識であるかどうか、言い換えれば自我の連続性が維持されているかどうかは誰にも、移植された当の本人にさえわかりません。もちろん彼自身は移植前の状態を受け継いでいるのだから、自分は過去と連続した一個の人間であると主張するでしょうけれど」

「自我の連続性が途絶えるのであれば、私たちは普通そのことを死と呼びますね」


「それが最も深刻なところと言えます」

 永久乃博士は深く息を吸い込んだようだった。

「要するに、人工脳の技術が人間にもたらす最大の変革は、死に対する認識の更新かもしれないのです。

 人類は、様々な技術を発展させることによって幸福を追求してきました。死の克服は、特に不幸の排除という観点からは、その頂点にあると言っても過言ではないものだと思います。問題は、それが本当に我々が求める意味での死の克服であるかどうかが決してわからないというところです。

 人工脳への意識の移植が実用化され普及すれば、永遠に生き続けることと、自分のレプリカが自分に成り代わって生きていくことの区別がなくなります。そこでは、死が本当に消えてしまったかどうかも定かでないまま、死という概念はひっそりと秘匿されていくことになるでしょう。

 果たして、これを僕たちと同じ人間の未来と呼んでいいものでしょうか」


「……率直に言えば、ちょっと意外です」ヒナコは一瞬だけ迷ったが、思ったままを口にした。「博士のような研究をされている方が、そういうことをおっしゃるというのは」

「矛盾している、でしょうか」博士はそう言って、なぜかにこりと笑う。「ですが、科学者というのは得てしてそんなものだと思います。目の前にわからないことがあるから、知りたいという欲求に衝き動かされている。基本となる行動原理はそれだけで、そのことがよりよい未来をもたらすことに対する確信など持ち合わせてはいない」

 それから彼は、今度は片目を細めて視線を逸らし、少し早口になった。

「……歴史上、偉大な科学者とされる人物にも単純なオプティミストが多くいましたが、彼らの未来に対する展望はいささか無責任だったと考えざるを得ないでしょうね。本気で自分たちの研究が世界をよりよくすると考えていたのか、そう考えていることにするのが都合がいいと判断したのかは、僕にはわかりませんが」


 ヒナコはそこで初めて、博士が抱いている本物の感情を見て取った気がした。

 これを簡単な言葉で表現するなら、そう、怒りではないだろうか?


「極めて、興味深いお話です」ヒナコはライターとして正直に言った。「博士は、これから先の人類には三つの道があるとおっしゃいました。うち一つは機械との融合で、もう一つが機械への隷属でしたね」

「そういった変化を拒絶するというのが、残った一つです」永久乃博士は頷いて、深刻な表情ではっきりとそう告げた。「これは愚かな話に思えるかもしれませんが、我々の歴史を考えれば決してあり得ないことではないのです。アイデンティティの放棄を迫られたとき、人間はこれ以上ないほど強固な反発を示すことがあります。これまでにも文明間でそうやって数多くの争いが起こり、たくさんの人が死んできました。人工脳への移行も、そのような文脈で解釈されうる事態です。おそらく現実に、この三つ目の道を選ぶ人々が少なからず現れるでしょう。もしかしたら、人類の中では多数派になるかもしれない。そこで、何らかの紛争があってもおかしくないと考えています」


 怒りとは少し違う、とヒナコは思い直す。

 博士の個人的な感情というよりは、何かもっと大きなものに対する、信念にも近い思いだ。人間がこれまで積み重ねてきたものの、その行く末が見えてきたように彼は感じている。

 それを適切に表現しようとするのであれば、憤りか、あるいは……。


「博士は、ご自分の責任を感じていらっしゃるのですか」ヒナコは恐る恐るそう訊ねた。

「ある意味では、そうとも言えるかもしれません」と博士はすぐに答えた。「ただ、自分が研究を進めたせいで悪い事態が起こるのではないかと考えているという意味であれば、それは的外れです。僕がやらなくても、結局は誰かがいずれ辿りつくでしょうから。黒ひげ危機一髪をご存知ですか」

「え?」思わぬ単語にヒナコはちょっと面食らう。「ええ……そんな古いゲーム、よくご存知ですね。樽にナイフを刺していくおもちゃでしょう。自分の手番で海賊が飛び出したら負けっていう、ロシアンルーレットみたいなルールの」

「僕の役割は、あれのようなものだと思います。ゲームを進めていけば、誰かが必ず貧乏くじを引く羽目になる。偶然、当たりの場所にナイフを刺してしまったのが僕だっただけの話です。だから僕が抱いているこの不満のような感情に名前を付けるなら、逆恨みとしか言いようがないでしょうね。これまで能天気に同じゲームをやっていたプレイヤーたちを羨んでいるのです」

「逆恨み、ですか……」ヒナコはそれをジョークと捉えるべきかどうか迷った。「博士は、人殺しには意味がないとおっしゃいましたね」

「ええ」博士は目を瞑る。「自我の同一性に固執して死んでいくことと同じ程度には、不合理です」

「ですが、その種の合理性を突き詰めれば、永遠の生と死の区別をなくすことを否定する理由はなくなると思います。人工脳への移行を拒否したところで、死がなくなるわけではありませんから」

「やはり貴女は明晰な頭脳をお持ちです」永久乃博士はちょっと儚げな笑みを浮かべた。「自我とはそういうものです。秩序や法則とか、合理性といったものとは本来、関係がありません。地球上に人類が誕生してからしばらくの間、たまたま自我の持つ機能が生存に適合的な働きをしてきたに過ぎないのです。そして今、我々の自我に対する執着は連綿と続いてきた進化の系譜と矛盾しようとしています」


 ヒナコは言葉に詰まった。

 思った通り、博士の人格は相当に不安定だ。不定形と言ってもいい。

 彼は自分の主張に一貫性を持たせようとしていない。というより、正確には主張をしていない。物事を割り切ってどちらかを選ぶことをせず、合理性と非合理性という相反する価値観を同時に許容してしまっている。

 一般に、成熟した自我の持ち主にとってそれは難しいことである。人は自分でも気が付かないうちに辻褄合わせを行うものだ。

 だから、矛盾が人を殺す理由にもなり得る。


「……コンフリクトを解消するために、自我が殺される」とヒナコは呟いた。

 自分がどうしてそんなことを言ったのか、咄嗟にはわからなかった。

「なぜ人を殺してはいけないのか、という問いそのものにはあまり意味がないかもしれません」博士は温和な表情を崩さない。「合理主義的な観点からすれば、九條さんがおっしゃったように、そもそも人殺しを無条件に禁ずること自体に無理があるのです。問いの立て方が間違っている、疑似問題だとする立場も存在します。ですが、それでも人を殺してはいけないのだと言えないなら、きっと僕たちはいずれ自我への執着を放棄するしかなくなるでしょう」

「私には、それが悪いことであるかどうかを決めることはできません」ヒナコは控えめな表現を選んで言う。

「そう、その通り……。僕も同じであるべきです」博士はゆっくりと答えた。「貴女の方がよほど理性的ですね。これは、物事を大局的に見れば明らかに不合理な葛藤です。しかし、その不合理性こそが自我であるならば、正しさとの間で板挟みになって最後までみっともなく足掻くことが、僕の人間としての業なのかもしれないとも考えています」


 ヒナコは改めて、永久乃博士の精悍な少年のような顔を見た。

 瞬かれる二つの目は、溢れんばかりの好奇心と一緒に、深い苦悩と孤独の色を湛えているようにも感じられる。

 彼は一体何者だろう、とヒナコは不意に考える。

 こうして面と向かっていても、永久乃数一という人物を覆っていた謎の霧がすっかり晴れたとは思いにくかった。それどころか、話せば話すほどに博士のことがわからなくなっていくような気さえする。


 どうやったらこんな人格が出来上がるのか、想像することさえ難しかった。

 きっと、単に公の場に姿を現さないというだけでなく、本当にほとんど他人との関わりを持ってこなかったのではないだろうか。先端の研究を行いながら、どのような生き方をすればそんなことが可能になるのかはわからない。荒唐無稽な考えだと思う。だが博士の不安定な人格は、日常的に他者と交流している人間が自然に維持しているものではないように思えた。

 生きている世界に自分以外の誰かが存在するならば、その誰かとの比較において、自分の相対的な立ち位置というものがどうしても出来てしまうからだ。


 一方で、彼がどれくらい長く生きているのかも、まったくわからない。話していると時折、意外なほど若いのではないかと感じられる部分もあったが、それは科学者という人種に一般的に見られる傾向でもある。

 特集記事を組んだときに調べたことだが、人工脳に関する研究以前の永久乃博士の経歴は、一切公表されていない。論文査読メンバーの一人であった有識者によれば「想定される知識の量から考えればまず間違いなく老人であろう」とのことだったが、そのような人物が年老いるまで誰からも存在を知られていなかったというのはあまりに奇妙な話である。


 ひょっとすると、今ヒナコが対面している人物と、実際に人工脳の研究を行った永久乃数一博士は別人なのかもしれない。それは十分にあり得るケースだ。

 あるいはそもそも、永久乃数一などという個人が現実には存在していないということも考えられる。その場合、どこかの企業や研究所が、研究成果の発表にあたってバーチャルな人格を作り上げたことになる。これは特にインターネットの本格的な普及以降、アカデミックな分野に限らずしばしば実際に起こってきたことでもあり、説得力のある仮説に思えた。


 もし、そういう背景があるのだとすれば、ジャーナリストとしてヒナコの置かれている立場はやや微妙なものになってくる。「永久乃博士」側は何らかの意図があってこの取材を受けているに違いないが、ヒナコの側がそこで期待される役割を全面的に受け入れなくてはならない理由はないからだ。

 もちろん、大人しくこのインタビューを完遂するだけでも、話題性に富んだ取材記事を書くことができるという十分なメリットが存在するのは確かである。しかし、ここから先の調査によっては、これが博士の正体を暴くスクープに化ける可能性もあるのだ。取材相手からすればほとんど裏切りに近い考え方だと言えるが、自分の信用に傷がつくリスクよりも大きなリターンがあるならば検討する価値はある。それに、あまり賛同はできないが、こういった傷はジャーナリストにとっては勲章のようなものだと考える向きも少なくない。

 誰が言ったか知らないが、まったく因果な商売だとヒナコは思う。著名人たちが口を揃えて「記者は信用できない」と言うのも無理のない話だ。何しろ自分以外の誰とも根本的な利害が一致していないのだから、信を置けると考える理由がない。


「具体的に、博士が今後どのような活動をなさろうとしているか、差し支えのない範囲でお聞かせ願えますか」ヒナコはそれまでのやりとりを一度仕切り直すつもりで、そう訊いた。

「人工脳の研究が正式に認められ、実用化の準備段階に入るまでにもまだかなり時間がかかると思っています」永久乃博士は答える。「そのタイムラグを利用して、これから人類が直面するであろう変化を先回りして伝え、議論を喚起し、ソフトランディングの方向性を模索するのが僕の仕事ではないかという考えです」

「それで、デラシネにアカウントを公開したり、こうして取材をお受けになったりしているというわけですか」

「まあ、そうですね。大体そのように考えていただいて間違いないでしょう」と彼は少し口ごもるようにした。「実際は、そこまで全部計算ずくで動いているというわけではありません。結構、思い付きで行動してしまうところがあるので……単純に、誰かと話をしてみたくなったというのも事実です」

「その言い方じゃ、まるで今まで誰とも話したことがなかったみたいですけど……」冗談のつもりでヒナコは言う。「そうすると私の質問は、博士の思惑通りだったということですね」

「思惑通りといえばそうかもしれませんが、予想通りではありませんでした」博士は微笑したように見えた。「まだ、一番気になることを訊いていないのではありませんか」


 何のことを言われているのかは、すぐわかった。

 どのように訊ねていいのかわからなくて、タイミングを逃していたのだ。

 だが、これは訊いてくれて構わないというサインだろう、と考えてヒナコは頷いた。


「デラシネで、私が送ったメッセージに返信をくださったのは博士ですか?」

「いいえ」と永久乃博士はすぐに答えた。「たぶん、ご想像の通りだと思います」

「では、どうしてあのような質問が返ってきたのでしょうか?」

「それはきっと、彼がそのときに考えていたことだったからですね」博士は当たり前のことのように言う。「九條さんにお会いするという判断を行ったのも、彼です」

「判断? 考えていた?」ヒナコは混乱して顔をしかめた。「それは、窓口のスタッフがいるということですか」

「窓口にいるのが人間か、という意味なら答えはノーです」

「それでは、チャットボットが考え事をしていたとおっしゃるのですか。博士は」ヒナコは頭を抱えそうになる。

「その呼称は、いささか差別的なものとみなされるようになるかもしれませんね」博士は落ち着いた口調で語った。

「博士は、人工知能の専門家というわけではないと思っていましたが……」喋りながら、自分の声が震えていないかどうかが気がかりだった。「与えられたメッセージに回答をするだけでなく、人間のように自律的に思考をするというのなら、それは俗に汎用AIと呼ばれるものではありませんか」

「既に、そういった区別の仕方にはあまり意味がなくなっています」と博士は言う。「今の社会を生きる人間にしてみても、本当に汎用的な知能を持っているとみなすことができるのはごく若い時期だけだという考え方もできるのです。一般論として、年をとって経験を積むほど、可塑性が減衰して機能特化型のAIに近付いていきます」


 ヒナコは博士の言葉を頭の中で何度か反芻して、その意味するところを理解しようとした。

 本当に汎用AIを運用できているとすれば、それは人工脳に負けるとも劣らない歴史的な研究成果である。何らかの形で発表されていて然るべきだろうと思うが、まさか今回の件がお披露目のつもりだとでも言うのだろうか。


 しかし、穿ってみれば博士の受け答えはヒナコを煙に巻こうとしているようにも思えた。彼はこちらの質問にはっきり答えているわけではない。もし、先ほど立てた永久乃博士の正体に関する仮説が正しかった場合、相手がヒナコに期待しているのは広告塔のような働きであろう。含みを持たせるようなことを言っておいて、記者があることないこと勝手に想像して書き立てるのを当て込んでいるというのはありそうな話である。

 もっとも、論文発表から一年以上も経つ今になって何故そんな自己PRのようなことを始めたのか、という当然の疑問が残るのだが……。


 その後もヒナコは幾つかの質問をした。博士は時に真摯に、時に軽い冗談を交えつつ、また時には悩める思春期の少年のような面持ちで答えた。

 写真も使用して構わないとのことだったため、準備してきた質問を一通り終えたあと、ヒナコ自身がカメラマンとなって何枚か撮った。博士のビジュアルは、それだけでもセンセーショナルな効果を持つだろう。

 当面、他の記者からインタビューを受ける予定はないとの情報も入手した。独占取材のお墨付きをもらったわけだ。ビジネスの文法に則って考えるなら、これは大人しく期待通りの記事を書いてくれというメッセージとも受け取れる。


 記事をどんな風にまとめるかは、持ち帰ってよく考えることにした。単純なインタビューとしても悪くないものが書けそうではあったが、永久乃数一という不思議な人物について、更に踏み込んだ調査をしてみたい気持ちもある。


 別れ際に、ふと思い立ってヒナコは言った。

「最後に一つ、お訊きしてもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

「博士のお名前には、何か由来があるのですか?」


 その質問に、永久乃博士はまたしてもにこりと笑って答えた。

「永久の数は一」そして言う。「覚えておいてくださいね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る