2. 三日月

2-1. コンタクト

 

  1

 

 目の前の女性記者二人組を、ヒナコは心の中でまとめて不平コンビと呼んでいる。それは別に彼女らが日ごろから不平不満ばかり口にしているからというわけではない。


 向かって左側にいる、黒いおかっぱみたいな髪型で背が高く、シャープな印象なのが不藤ふどう凛子りんこ。政治や経済に関係する時事ネタが得意分野で、センセーショナルな刑事事件にも積極的に手を出す敏腕ライターである。

 それから右側にいる、緩いウェーブのかかった栗色の髪で眼鏡をかけているのが平美ひらみ玲紋れもんという。彼女は主に仕事や恋愛といった日々の暮らしの中で直面する葛藤をテーマにしたコラム、エッセイの書き手として活躍している。

 二人の名前から頭文字をとって「不平」というわけだ。人の名前で勝手に遊ぶのはあまり趣味のいい行為とはいえないかもしれないが、そもそも二人してこんなふざけたペンネームで活動している方が悪い。


 ちなみに、「九條」を「苦情」と読めば晴れてクレーマートリオの完成である。ヒナコはこういう他愛もない言葉遊びが好きだが、あまり人前で口に出すことはなかった。

 きっと、馬鹿みたいだと思われるのが怖いのだろう、とヒナコは思う。そんなことを考える自分が少しだけ愉快で、少しだけ不可解でもあった。


「で、あの男とはどうなったわけ。レモン」凛子は串揚げを手に取りながら、さして興味なさそうに言った。「そもそも、あんた結婚する気あるの」

「うーん、ないこともないこともない」玲紋はビールを一口飲んでから、独特の不思議な言い回しで答えた。

「それ、ないってことだよね」ヒナコが指摘すると、「言葉の綾ってやつだよぉ」と玲紋はのんびりした口調で呟いた。


 ヒナコたちは、年齢の近い女性ライター同士、時折こうして三人で座談会と称した飲み会を開催する。

 記者という職業は横の繋がりが生命線だ。最近は特定の組織に所属しない、いわゆるフリーランスの身分で活動する人間が主流となったが、それによってますます生き延びるためには人脈がものをいう業界になっている。


「あたしたちの仕事も、正直これからどうなるかわかんないもん。人多すぎ」と玲紋はぼやくように言った。「過当競争ってやつだよね。完全に」

「間口が広がりすぎてるし、最近は人間ばかりが競合ってわけでもないからね」凛子はいつの間にか一本の串揚げを食べ終えていた。「どちらかといえば、社会の仕組みや規範がテクノロジーの発達にキャッチアップできていないんだと思うけど」

「それってどういう意味?」玲紋はビールをまた一口飲む。

「人間は彼らの生活の社会的生産において、彼らの物質的生産諸力のある一定の発展段階に適応する生産諸関係を結ぶ」凛子は軽く目を閉じて、すらすらとペーパーを読み上げるように言った。「記者なんていなくたって生きていくのに支障はないはずなのに、そんな仕事に就きたがる人間がどんどん増えている。当たり前の話だけど、生産効率は基本的に右肩上がりだからね。素直に考えれば、とっくの昔に働き手の数は過剰なんだよ。だったら働かざる者食うべからずってのも、いい加減時代遅れの価値観になっててもいいのにねってこと」


「AIが人間の仕事を奪うって言われるようになったの、何年前だっけ?」とヒナコは出汁巻き卵をつつきながら口を挟んだ。「半分当たりで、半分外れって感じだよね。今のところ……」

「確かにー」ジョッキ片手に玲紋が頷く。「あたしはそれ聞いて、AIが働いてくれるなら人間は働く必要ないじゃんって思ってたよ。何が悲しくて自動で生成される文章と価格競争しなきゃいけないんだか」

「文章を書く能力だけでまともに競争したら勝てるわけがない」ヒナコはあつあつの卵を冷ましながら言った。「読み手が記者に求めるものも、キャラクター性とかネームバリューとか。ま、限りなく自分自身をコンテンツとして扱う仕事に近づいてきてるよね。タレントやアイドルみたいに」

「消費者の大多数が人間であるうちは、今後もそうやって人間がニッチな需要の担い手として生きていく道は残るだろうけど」凛子は背筋を伸ばしたまま茄子の漬物を頬張っている。「だけどレモン、女性記者の仲間として言わせてもらうなら、仕事の将来に対する不安と結婚を安易に結びつける考え方にはものすごく時代錯誤的で浅薄なステレオタイプの価値観を感じるね」

「言葉の綾だよぉ」玲紋はまたそう言ってビールに口を付けた。

「さては人工知能との競争でも、言葉の綾を売りにするつもりか」とヒナコは茶化した。「彼らは持ってなさそうな概念だね」

「それにあんた、こないだ話したとき、別れようかどうか迷ってるみたいなこと言ってなかったっけ」


 凛子がどうでもよさそうに訊くと、玲紋は「そうなんだよねぇ」と唸りながら頭をゆっくり左右に揺らした。アルコールが入っているときに自分がやったら間違いなく気分が悪くなる動作だ、とヒナコは思う。


「悩みどころなんですよぉ、こっちとしましても」玲紋は腕組みをして難しそうな顔をした。「実は、他にも有力な案件のオファーが二件ほどありまして」

「おいおい……三股かよ」凛子は声を低くする。「もしかしてそれ、こないだからずっと引っ張ってるわけ」

「片方はね」と玲紋はなんでもないことのように言った。「もう一件はつい最近。まったく頭の痛い問題だよ」

「頭が痛いのは、お酒飲みながらゆらゆらしてるからだと思うけど……」ヒナコは甘いカクテルを少し口に含んだ。「玲紋のそういうところ、素直に尊敬するわ」

「核戦争が起こって地球の文明が全部崩壊したら、この中で最後まで生き延びるのはレモンだろうね」凛子も呆れたみたいに笑って言った。「婚約者が三人って、ドラクエ5じゃないんだからさ」

「三人の中の誰かと結婚する気なの」とヒナコは訊いた。

「まあ、その可能性が六割ってところかな」玲紋は腕組みをしたまま答える。「いや、七割くらいかも……」

「だとすると、そのうちの一人がレモンと結婚できる確率は、単純計算で約23.3%だね」と凛子は真顔で言う。「選考に悩んでるなら、協力してあげよう。候補者のプロフィールを教えて」


 それからしばらく、平美玲紋の配偶者候補たちに関する話題で盛り上がった。

 三人の座談会は、いつも概ねこうやってどうでもいいおしゃべりに費やされる。とはいえ今回は参加者本人の生活に関係するかもしれないテーマなので、かなり生産的な部類である。普段は他人の噂話とか、猥談とか、最近発売されたスイーツのこととか……発声のために消費されるエネルギーよりも価値があるとは思えないような、恐ろしく些末でくだらないことばかりを夜中まで話している。


 そういう時間を有意義なものだと思えるようになったことを、ヒナコは自分にとってきわめて重大な変化だと認識していた。

 平美玲紋も心配していたように、今のような暮らしをいつまで続けられるかはわからない。安定した収入を得るためにはハードワークをこなす必要もあり、体力の不安も否めなかった。しかし、今のようなおしゃべりを楽しめる自分であれば、きっとどんな状況に陥ってもそれなりに生きていくことはできるだろうと、人生に対してある意味で楽観的な見通しを持つことができている。


「でさ。ヒナコちゃんはどうなの、最近」と顔を赤くした玲紋が訊いてきた。

「質問が曖昧すぎる」ヒナコは顔をしかめた。「どうって何よ、どうって。それでも本当に記者?」

「すました顔して恋人の三人や四人くらい、いるんじゃないのぉ」

 玲紋は酔いが回ってくるとだいたいこんな調子だ。声のトーンが不自然に上下して、身体の動きがアメーバのようになる。机に肘をつくのをやめたらそのままどろっと崩れ落ちるのではないかと、要らぬ心配をしてしまう。

「一人もいません」とヒナコはそっけなく答えた。「別に、必要だとも感じてないし」


「ふうん」玲紋は不満げな声を出す。「必要だからできるってわけでもないと思うけどなぁ」

「黙ってても男の方から寄ってくる玲紋とは違うんだよ」

「えー。ヒナコちゃん、可愛いのに」

「余計なお世話……」ヒナコは顔の左半分を歪めて、思いきり口をへの字に曲げた。「はい、これでも可愛い?」

「あっはは、変な顔!」と玲紋は大きな声を出して笑い転げた。「ヒナコちゃん、変な顔ー」

「二回も言わないで」その様子を見て、ヒナコも破顔する。


「なんとなく、ヒナコは学生時代からずっと付き合ってる彼氏とか、いそうだと思ってたけど」それまでぼんやりしていた凛子がそう呟いた。「ちゃっかりしてそうなのに。意外」

「よくわからないけど、そこはかとなく失礼なイメージね」ヒナコはむすっとして言った。

「そう? 褒めてるつもりなんだけどな」凛子は頭を掻いて、目をぱちくりさせた。「でなければ、レズビアンとかなのかと」

「私も今ちょうど、そのパターンを検討していたところ」とヒナコは投げ遣りに応じる。「玲紋は可愛いけど、付き合うとなったら色々めんどくさそう。凛子は付き合いやすいと思うけど、お互い忙しくなったら自然消滅しそう」

「なかなか上手くはいかないものだね」凛子は神妙に言った。「まあ、その気になったら声をかけてちょうだい」

「え?」ヒナコは思わず咳き込んだ。「ちょっと、どういう意味」

「さあ、どういう意味でしょう……」凛子は意味深に微笑んだ。「ところでヒナコ、永久乃博士って知ってるよね」


 凛子とはたまにこういうアクロバティックなテンポのやりとりになるが、言っていることのどこまでが本気でどこからが冗談なのかはわからない。たぶん、一種のスリルを楽しんでいるのではないかと考えて、ヒナコも基本的には付き合ってみることにしている。

 とはいえ今回は返球があまりにも鋭かったので、返答にはやや時間を要した。


「……トワノ博士って、永久乃数一のこと」とヒナコは首を傾げた。「もちろん、知ってるけど。記事にしたこともあるし」

「あたしも知ってるよぉ」気持ちよさそうに目を閉じかけていた玲紋が言った。「すごいAIを作ってる人でしょう」

「まあ、さほど大きく間違ってはいない」と凛子。「論文を出すだけで誰にも会わない、本当にいるかどうかもわからないって噂の先生だけど、先日デラシネのアカウントが公開されたらしくてね」

「へえ……」ヒナコは少し声を高くした。「それって本物なの」

「私の見た限りでは、少なくとも赤の他人によるなりすましじゃないよ」凛子は自信ありげに頷いた。「メッセージ送ると、ちゃんと返事もくるみたい」

「そんなの、いかにも人工知能の仕事っぽいけど」とヒナコは笑った。

「ひょっとしたら、そういう実験とか、データ収集とかが目的なのかもしれないね」凛子は言いながら烏龍茶を飲んでいる。


 もしアカウントの存在意義が人工知能を使った実験のためだとしたら、本当に永久乃博士と連絡をとれる可能性よりもそちらの方が興味深いくらいだ、とヒナコは思う。

 一体、この期に及んでデラシネで何を実験しようというのだろう?


「デラシネっていえば……最近、新しいサービスが始まったんだよぉ」と寝言のような声で玲紋が言った。「ええっと。アルファじゃなくて、オメガじゃなくて……なんだっけ」

「これは、今日はここまでかな」腕時計を見ながら凛子が言った。「永久乃博士の件、興味があったら調べてみなよ」

「いつもありがと、凛子」ヒナコがにこりと笑うと、凛子は目を細めて「お互いさまだね」と囁いた。


  *


 不平コンビとの会合の翌日、ヒナコは自宅の端末からデラシネにアクセスする。


 かつてのデラシネは匿名制のオンラインセッションサービスであり、コアなユーザーが多く、どちらかといえばアンダーグラウンドな雰囲気を持っていた。管理者は不明だが、特定の個人が運営していると言われていた。

 ところが、あるときネットワーク系の大企業であるサルガッソ・エンタープライズに買収されたことがきっかけで、デラシネは大きく様変わりしたのだ。


 今では公開されたアカウント同士での、誰でも参照できるパブリックなやりとりが基本である。リアルタイムで互いにレスポンスを返すチャットのような使い方も、メッセージを残しておいて後からそれに返答するメールのような使い方もできる。第三者から見られたくない場合には私信の機能を使えばよい。

 サイト全体がすっかりクリーンなイメージとなり、国民的なコミュニケーションプラットフォームとして、老若男女を問わず広く利用されている。


 匿名セッションのサービスも残置されているが、罵詈雑言が飛び交うような治安の悪いチャンネルはもうない。わざわざ、どこの誰ともわからない相手との刹那的な交流を求めてデラシネにやってくる人間はほとんどいなくなったと言っていい。

 知名度の向上に伴う利用者層の入れ替わりは、ウェブサービスにはつきものだ。過去のデラシネを懐かしむ声もあるが、本当にそういったものを必要としている人間は、もうとっくに別の居場所を見つけているだろう。


 果たして、永久乃博士の公開アカウントはすぐに見つかった。


「TOWANO Suichi/発明家・研究者 公開リプライには返信しません」

 プロフィール欄の記載はそれだけだった。他にはこれといった情報もなく、一週間ほど前に公開されたアカウントだということがわかるだけである。

 自発的にメッセージを発信した形跡もなかった。宣言通り、パブリックでコメントをするアカウントにはまったく反応していない。目立ちたがり屋がなりすましているのであれば、何かしらもう少しわかりやすいアピールをしそうではある。


 ヒナコは早速、プライベートメッセージを送信した。簡単な挨拶と、取材の申し込みという要件だけを記載したシンプルなものだ。

 面識のない相手にコンタクトをとることを躊躇していてはライターは務まらない。手間を省くことで心理的なハードルを下げるため、こういうときにはあらかじめ何通りか作成してあるテンプレートを改変して使うことにしている。今回は相手の人となりに関する情報がほとんどないため、興味を引くことよりも著しく無礼だと判断される恐れがないことを優先した文面を選んだ。


 一分ほど経って、博士から返信があった。

 が、これは反応が早すぎる。おそらく人工知能による当たり障りのない内容であろう、と予期したヒナコはそこで思わぬものを目にすることになった。


『なぜ、人を殺してはいけないのですか』


 博士からのメッセージはそれだけだった。前置きや挨拶もなければ、取材のオファーに対する返事もない。

 ヒナコは困惑する。

 これは、何なのだろうか。


 一瞬、凛子にこのことを訊ねてみようかと思ったが、無駄だと判断してやめた。

 昨日、彼女から話を聞いたときにはこのような奇妙なことがあるとは言っていなかった。アカウントが公開されてから一週間ほどの間に、彼に連絡を取ろうとした人間がどれくらいいるかはわからないが、全員がこんなメッセージを受け取っているとしたらとっくに人の口に上っているだろう。

 凛子はそういった人々の動向を見逃すほど愚鈍ではないし、知っている情報を敢えて隠し立てするほど悪趣味でもない。


 ……たぶん。


  *


『わかりません、ごめんなさい。どういう意味でしょうか?』


 しばらく悩んでから、ヒナコは素直にそう返事をすることにした。

 突然現れた永久乃博士のアカウントが、話しかけてきた相手に誰彼構わず謎かけをしているのでないならば、自分が送ったメッセージの中にこのような質問を誘発するトリガーがあったと考えるのが合理的な発想である。

 けれど、何度読み返してもそれらしい箇所は見当たらない。

 当然といえば当然だ。ヒナコのメッセージは面識のない人間に送るためのテンプレート、毒にも薬にもならない通り一遍の挨拶に過ぎなかったのだから。

 考えてもわからないなら、相手から情報を引き出すしかない。

 そういった判断をした。言い換えれば、開き直った。「案ずるより産むが易し」が記者としての座右の銘だ。


 返事はまたしても、すぐにあった。

『では、お会いするときまでに考えてきてください。

 場所と時間は後ほどこちらから連絡します。その際に、都合がつかないようであれば返信をお願いします』


 ヒナコは目を見開いた。

 お会いするとき?

 つまり、取材を受けてくれるのだろうか……。しかも、場所の指定があるということはデラシネのセッションではなく、実際に会って話せるということである。

 永久乃博士と会ったことのある人間は一人もいないだとか、実は彼自身が人工知能だといったような荒唐無稽な話を本気で信じていたわけではないが、まさかこうもとんとん拍子に話が進むとは思っていなかった。

 先ほど自分で否定しかけた仮説だが、やはりこのアカウント自体が誰かの悪戯なのかもしれない。だとしたら、指定された場所にのこのこ出向いていくことは単に無駄足であるだけではなく、幾らか危険でもある。


 とはいえ、とヒナコは考える。

 ガセネタを掴まされることを恐れていては、価値ある情報を手にすることができないのも事実である。要するに、想定されるリスクとリターンを秤にかけて、どちらがより大きいかを判断すればいいだけの話だ。

 今回の件で言えば、よほど妙な場所へ誘い出されない限りは、圧倒的にリターンが大きい。ヒナコはそう判断することにした。


 何しろ、あの永久乃数一博士だ。

 一般的には、彼の肩書は人工知能の研究者ということになっているが、実態は少し違っている。

 永久乃博士は、人工脳を発明したとされているのだ。

 人工脳とは読んで字のごとく、脳の機能を人工的に再現するための装置である。人間による、人間のリバースエンジニアリングと言ってもいい。最終的な到達点を考えるなら広義の人工知能と呼べないこともないが、従来のそれとはアプローチの仕方が大きく違っている。

 多くの研究者が、ソフトウェアとしての人工知能をいかに賢く、強くできるかという観点で切磋琢磨しているところに、彼はまったく異質な方法論を提示したことになる。

 論文が発表されたのは一年ほど前のことだった。当時すでにジャーナリストとして活動を行っていたヒナコはそのニュースに驚き、特集記事を組んだこともある。もっとも、そのときには肝心の博士本人とどうやっても連絡がつかなかったため、公開されている情報や先行研究を簡単にまとめ、識者の見解を聞く程度のことしかできなかったのだが。


 博士は、自身が考案した人工脳の基礎理論とアーキテクチャを公開した。現在もその論文は公開されており、誰でも読むことができる。

 しかしながら、それが本当に正しいのか、つまり人工脳を作り出すための情報足り得ているのかどうかを判断できる人間は、未だ一人もいない。何しろ書かれていることの意味を理解するだけでも、必要とされる前提知識が膨大すぎるのである。今もどこかで博士の論文を査読している研究者たちがいるはずだ。


 それに、もしここに書かれていることがすべて正しかったとしても、実用化のためには技術的に多くの障害があるとされている。どうやったらこんなことを思いつくのか、まるでオーパーツのような研究だというのが、永久乃博士の論文に対する識者たちの評価であった。

 要するに、永久乃数一の名が真に名誉を得るに相応しいかどうかはまだ明らかになっていないとも言える。記者としては、そういった点も含めて謎と話題性に富んだ魅力的なトピックだった。


 ヒナコは「よし」と小声で呟くと、ノートアプリを立ち上げて、博士への質問事項をまとめ始めた。

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