6話(分岐)

 小学3年生11月から塾に通うことになった。小学2年生の頃に受けた全国模試で良い成績を修めた時から周りの親戚らに

「けいちゃんは優秀だねー。おじいちゃんみたいに早稲田行くかもねー。」

 と言われ続けていたし、小学校に入学して少しした頃から公文に通い、通信教育も受けていたので、小学3年になり進学塾というのはいたって自然な流れだった。亡き祖父が早稲田でトップの成績を修め続けていたという話をよく聞いていたので、大好きだった祖父に続きたいという気持ちもあった。

 入塾する塾を決めるため多くの塾の入塾テストを受けに連れていかれた。塾の違いなんてまだわからなかったので、正直どこでも良かったが、反抗して怒られるのは面倒だったので両親には

「テスト好きだから良いよ!次どこいくの?」

 と言い続けていた記憶がある。結局最寄り3駅くらいの塾には全て行った気がする。

 自分で言うのもおかしいが、幸か不幸かそれなりに優秀だった私は入塾テストを受ける度に、その塾から是非入って欲しいと勧誘の電話がかかってきた。入塾テストで生徒をふるい落とす事のある塾でも勿論そうだった。そんな中、入塾テスト合格の通知のみで、勧誘の電話が一切なかったのがS塾だった。両親はS塾に私を通わせる事を決めた。

 塾に行くことは楽しくはなかったが、だからといって苦痛な訳でもなかった。親に行けと言われたから、と半ば義務感のような気持ちでいた。親に逆らうことを許されなかった私は、きっとその頃から親の言うことを忠実に聞いてこなさなければならないロボットのようなものになってしまっていたのだろう。

 塾に入って最初のうちは友好的に話しかけてくれる子もいたし、なんだかんだ上手くやっていけるのではないかと思っていた。

 しかし、新しい環境で友達を作ることはたとえ小学生の中であっても簡単なことではなかった。特に、私のようにコミュニケーションを苦手とする子供には厳しかった。数週間もすると、話しかけてくれていた子たちも私には見向きもしなくなっていた。私は自然と塾でも1人孤独になっていた。

 それと同時に、1人で行き帰りしている私は、街の多くの誘惑に惹かれ、どんどんあるべき道を踏み外していってしまった。

 塾は自宅からバス1本で20分弱で着くところにあった。そして、そこはそれなりに栄えている街であり、文房具屋や、お菓子屋、書店、雑貨屋などが立ち並んでいた。

 最初は塾の行き帰りにふらっと立ち寄るだけだった。立ち止まることもほとんどなく、眺めて次へと進んでいた。しかし、子供というのは自分の欲をセーブ出来るほど賢くない。次から次に様々な物が欲しくなった。欲しいものを見るのは楽しく、塾に行くより、それらの店舗をぶらぶらしている方が楽しかった。

 次第に私は塾を少しサボるようになった。授業前に参加不参加自由の30分小テストの時間があったので、その分を自分の欲を満たす時間に当てた。

 しかし、それだけでは足りなかった。色々な物を見れば見るほどどんどん欲しくなる。お小遣いでもあれば違ったのかもしれないが、我が家にはお小遣いというものはなかった。だから、買うために親のお金に手を出した。1度やってしまえば案外簡単だった。はじめは1000円、2000円から、次第に10000円とお金が足りなくなる度に親の財布から抜いていった。

 自分では上手くやっているつもりだったが、そんなことをしていてばれない訳がなく、勿論すぐに親にばれた。そして、当たり前だが怒られた。母にも父にも殴られ、蹴られ、手当たり次第に様々な物を投げられた。罵声も浴びせられた。

 原因が自分であることをわかっていても、殴ってくる両親に対して例えようのない怒りを感じたし、それを黙って見ている弟にも怒りや失望の入り交じった思いを感じた。日頃母と仲の良い弟にとって私などどうでも良い存在だったのだろう。

 この頃から私は一般的な人とはずれた道を生きはじめた。自分の意思とは裏腹に周りには非行少女だと言われることも増えた。

 誰かに思いを相談出来たらと思うこともあったが、学校にも、塾にも、家庭にも私には頼れる人がいなかった。どこでも1人疎外感を感じていた。そして、どこでも私は周りから虐げられていた。なんど消えてしまおうと思ったことか。

 今でも自分が何故生きているのかわからなくなる。

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