5話(いじめ)

 地獄の始まりでもあったと前に言ったが、決してそれは過言ではないと思う。親が嫌いだから、相談などしたくないから耐えるしかなかったが、あれは誰がどう見てもいじめだと言えるものだった。

 

 悠里たちに連れられ、私は校庭の端っこへ向かった。小3にして昼休みに外に出てきたのは初めてだった気がする。改めて周りを見回すと人の多さに驚いた。これでよく怪我をしないなと私は思った。

「ほら、持って!」

 ぼーっとしていたところに不意にうららに縄を渡された。慌てて受け取り回そうとしたが、日頃友達と遊ばない私にはただ縄を回すことでさえも少し難しかった。もう一人の回し手と息を合わせることはもちろん、跳びやすいように考えて回すなんて事は全くもって出来なかった。ここで出来ないって思われたらせっかく誘ってもらえたのに駄目になっちゃう。幼心ながらにひとりぼっちでは周りに心配や迷惑をかけるだけだと感じていた私はそう思い、一生懸命に縄を回した。

 が、そんな頑張りは悠里たちには通じなかった。

「なにこれ、めっちゃ跳びづらいんだけどー。さくら、やっぱけいこと縄回し変わってくんない?けいこやっぱ駄目だわ。」

 悠里はそういうと私から縄をひったくってさくらに手渡した。さくらが縄を受け取り回し始めると、私が回していた時とは大きく変わってスムーズに縄が回りはじめた。八の字跳びをしながら笑っている悠里たちの声が、私の事を嘲笑っているように感じられて怖くて情けなかった。

 早く教室へ戻ってしまおうと歩きだしたとたん

「けいこ、どこいくの?つまんないからそこら辺立っててよ」

 と悠里に言われた。

 気が弱く、反抗なんて出来ない私は言われるがままにそこに黙って立って、みんなが八の字跳びをしているのを眺めていた。

 すると、突然悠里が突然私の近くに来て、さらっとスカートをめくっていった。本当に突然の事だったので怒りや恥ずかしさなんてものはなく、ただ驚いた。そしてあとから遅れて怒りや、恥ずかしさが込み上げてきた。

 しかし、怒るなんてことは出来なかった。へらへらと笑いながら

「なにすんのー、やめてよ」

 とだけ言うのが精一杯だった。

 きっと、無意識ながらに嫌われたくないという思いが強くあったのだろう。

 怒るでもなく、ただ笑って軽く言い返している私を見て、他の子たちもこいつなら大丈夫だと思ったのか、悠里に続いてスカートをめくってくるようになった。幸か不幸か校庭の隅っこで大縄をやっていたため周りには誰もいなかった。仮にいたとしても、そんなことを誰かに相談するなど出来ないとは思うけれど。

小学校3年生、4年生の2年間はそんな感じで、クラスで中心的存在にいた子たちの機嫌を窺いながら、色々なことにただ黙って耐えて過ごした。

 もともと親との不仲から、精神的苦痛には慣れていたのか黙って耐えることが出来た。しかし、それが後に誰のことも頼ることが出来ない孤独な人格を作り上げてしまったのだろうと思う。

 クラス替えがあって彼女らと違うクラスになっても私は私服でスカートを履くことが出来なくなっていた。

 きっともう彼女らはことことを覚えていない。けれど、私にとってはれっきとしたいじめであり、一生涯忘れることの出来ない最悪な記憶だ。

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