4話(始まり)
祖父の死により、大きなショックを受けた春休み。もう、なにに対してもやる気が起きなかった。ただ大きな虚無感が胸の中から消えなかった。
それでも新学期はやって来る。とうとう小学3年生に進級した。幸か不幸か去年奏のお陰でだいぶ仲良くなった酒谷悠里が同じクラスだった。
「けいこー!また同じクラスだねー!よろしく!!」
私が悠里の姿を見つけるより早く悠里が駆け寄ってきた。
「そうだね。また2年間よろしくね。」
不安だったクラス替えの中いつもと変わらない明るい悠里を見て少し安心した私は笑いながらそう言えた、と思う。しかし気付くとそこに悠里の姿がなく、すでに教室へ向かってしまったようだった。校舎へ入る前にふと空を見上げると空はどんよりと曇っていた。なんだか縁起が悪いなと少し気を落としつつ教室へ向かった。
教室の前に行くと中から賑やかな女子たちの笑い声が聞こえてきた。その笑い声を聞いた途端、足が止まった。自分が教室へ入ってもいいものかわからなかった。勇気を振り絞って1歩踏み出し、教室へ入るとみんなの視線が一瞬集まった。間違えて前の扉から入ってきてしまったことを後悔した。俯いて静かに自分の席へ向かった。途中視界に映ったのは、新しい友達と仲良さげに話している悠里の笑い顔だった。
黙って静かに荷物を整理していると、後ろから悠里らの笑い声が聞こえてきた。自分の事を笑っているのではないかと思うといてもたってもいられなかった。先生が来るまでの数分がやけに長く感じられた。
担任の先生は堀口という名の30代半ばくらいの男の人だった。覚えてる第一印象は「熱血」そんな感じの先生だった。
学校が始まって数日もすると、みんな早くも気の合いそうな友達を見つけたようで一緒にいるメンツが固定されてきた。相変わらず私は1人だった。稀に悠里が来てくれることもあったが、そんな時はすぐにうららや咲といった新しい友達に呼ばれて行ってしまった。
そこで私が自ら悠里のもとへ行っていればなにか違ったのだろうと思うが、もし聞かれたくない話をしていたらと考えると、自分から近付く事は出来なかった。
そんな感じで私はまたしてもぼっちに戻ってしまった。まぁ、仕方がないのだろう。みんなが自分から輪の中に入っていける事が不思議だった。もし、迷惑だったら……、自分の事で愚痴を言っていたら……そんな事を考えないのだろうか。どんなに仲が良い友達が出来てもきっと自分には無理だろうなと思った。そんなだから友達が出来ないんだなとも。
そんなある日、昼休みに悠里に手招きされた。悠里の周りには他の子たちもいたので何事だろうと思った。
「何?どうしたの?」
私が尋ねると悠里は右手に持っていた大縄を見せ、ニコッと笑うと
「暇っしょ?回す人いないから回してー。」
と言ってきた。元気で活発な女子たちに囲まれて、私が断る事なんてもちろん出来なかった。だが、その頃の私は友達と外で走り回る事なんてなかったので、典型的な運動音痴だった。大縄なんて縄に入っていくことすら出来ない。
「うん。わかった。回すだけでいいんだよね?」
私が不安になってそう尋ねると悠里は
「いいよいいよ、回してくれればなんでも。ほら、いこ。休み時間終わっちゃうよ」
そうして私はぼっち回避といえば回避なのだろうが、ある意味で地獄の始まりとも言える場所に立ってしまったのである。
また、そのころ私は学校以外でも新たにチャレンジを始めることになっていた。
4話(始まり)-完-
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