第18話

真治しんじはテニスコートを飛び出して、笙伍しょうごの家へと向かって走り出していた。

石沼いしぬまの話を聞いて、今すぐ会って話がしたかった。

(後悔とかするぐらいなら、始めっからするんじゃねーよ!!)

笙伍しょうごに対する苛立ちがどんどん膨れ上がっていく。

何故、ここまで笙伍しょうごのことを考えているのだろうか。

何故、こんなに胸が苦しいのだろうか――。

案の定、雲行きが怪しかった空からは雨が降り出してきた。

ずぶ濡れになりながらも、真治しんじはひたすらに走った。




笙伍しょうごの家に着くなり、インターホンを鳴らす。

「はい」

扉を開けて顔を出した笙伍しょうごは予想もしていなかった真治しんじの登場で目を丸くした。

「どーしたの、今部活中でしょ?」

とりあえず、中に入ってとただされる。

だが、その間にも笙伍しょうごは目を合わせようとはしなかった。

その行動が真治しんじの心の中に芽生えていた怒りの炎に油を注いだ。

「お前さ、あれ以来何なの。そんなに悪いって感じてるわけ」

「それは……」

笙伍しょうごは俯き、語尾を濁す。

「言いたいことあるなら、ちゃんと言えよ!!ずっと避け続けるつもりかよ!!」

無意識に、笙伍しょうごの胸倉を掴んでいた。

笙伍しょうごの行動1つ1つが気に障ってしまう。

「お前、俺のことどう思ってるわけ?」

「……」

笙伍しょうごは無言で胸倉を掴んでいる真治しんじの手を強く握ってくる。

真治しんじのこと……好き、だよ。だから、真治しんじの意思に関係なく行動した俺が、許せないんだ」

握っている手、言葉が震えていた。

真治しんじのことが好きすぎて、何をするか分からない、から……」

「自分のした行動が許せない?綺麗事、言ってんじゃねーよ!!」

掴まれていた笙伍しょうごの手を払いのけるようにして、胸倉を離した。

真治しんじ笙伍しょうごのことをどう思っているのか、今思っているまま吐き出す。

「俺のこと好きだから、あーいう行動したんだろ!! 抱きたいなら、抱きたいって言えばいいじゃねーか!!」

感情的になっていたこともあり、無意識に呼吸が乱れていた。

笙伍しょうごは何も言ってこないが、そのまま言葉を続ける。

「お前、告白されたんだって」

「なんで、それ……」

驚いた顔で、真治しんじの顔を見てくる。

石沼いしぬま先生が見てたらしく、聞かされた。別に関係ないことだって思ってた……」

真治しんじは自分の胸元の服を握る。

「思ってたけど、胸が苦しくなったんだよ。いつの間にか、彼女のことじゃなくてお前のことばかり考えてる」

今になって、あの胸のモヤモヤが何だったのか理解する。

笙伍しょうごは目が見開いたが、しばらくして口を開く。

「それってさ、俺のことがす……」

「へっくしゅ」

笙伍しょうごの言葉を遮るように、真治しんじからくしゃみが出る。

雨に当たったせいで体が冷えてしまったようだ。

少し寒気を感じていた。

「今、バスタオル持ってくるから」

笙伍しょうごは慌てて取りに行く。

バスタオルを持って玄関先まで戻ってきて、そのまま渡してくるかと思いきやバスタオルを真治しんじにかけながら抱きついてくる。

「おい、濡れてるから離れろって」

真治しんじは俺のこと好き、なんだよね?」

「……多分」

真治しんじのことを見つめながら聞いてきた言葉に、自覚したばかりの感情に肯定の答えを返す。

真治しんじ

笙伍しょうごが嬉しそうな笑みを浮かべながら名前を呼ぶ。

「キス、してもいい?」

真治しんじの頬に手を添えながら聞いてくる。

「嫌だって言ってもするんだろ」

「まぁね」

ふふっと笑う笙伍しょうごの顔が近づいてきて、優しく唇が触れる。

その触れた場所から熱が生じたように、先程まで寒かったのが噓だったかのように体中が熱くなってくる。

軽く触れあった唇を一度離し、再度重ねる。

二度目の口付けは、笙伍しょうごの舌が割って入ってきて真治しんじのものと絡みつく。

「んんっ、は、ぅん」

うまく息が出来なくて、笙伍しょうごのシャツを強く掴んだ。

「ぁ、……はぁはぁ」

唇が離れたときには、真治しんじの口からは荒い息遣いが漏れた。

初めてされた強引なものとは違う――気持ちいと感じてしまうキス。

真治しんじは、笙伍しょうごの胸に寄りかかるように体を預けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

素直な気持ちを伝えたくて 美咲 @misaki_0818

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ