第12話

笙伍しょうごからのスキンシップは相変わらず多いのだが、慣れというものは怖いもので以前のように戸惑いといった感情はどんどん薄れていた。

だが、限度というものはある。

「……笙伍しょうご、重いし暑い」

後ろからのしかかるように抱きつかれ、真治しんじは身動きが取れずにいた。

真治しんじの背中、落ち着くんだもん」

雨の降る日も増え、ただでさえ蒸し暑いのに笙伍しょうご真治しんじから離れる様子はなかった。

半ば諦め、いつものように居眠りしていて書くことの出来なかったノートを写す。

石沼いしぬまから聞いた――笙伍しょうごが告白されたという話。

あれからしばらく経つのだが、それらしいことを話す様子はなかった。

自分に告白しておきながら告白されたからその相手と付き合う、なんてことをする奴じゃない。

大体、こうやって抱きついてくる時点で大丈夫だろう。

(べ、別に安心したわけじゃないし!!)

ホッとしそうになった自分に、そうやって言い聞かせる。

真治しんじ

不意に耳元で名前を呼ばれる。

考えていた相手ということもあって、心臓が飛び出るかというほど驚いた。

「ここ、写し間違ってる」

そう言うと、後ろから伸びてきた指で指摘された。

「あぁ、ほんとだ」

真治しんじは気にしていない素振りをしながら直す。

「ねぇ、俺のこと意識してた?」

「っんなことねーよ!!」

痛いところを突かれて真治しんじは頬が赤くなるのを下を向いて隠した。

鈴木すずき、ちょっといいか」

廊下の方から先生が笙伍しょうごのことを呼ぶ。

「今行きます」

そう言って、笙伍しょうごは先生のもとへと歩いていった。

やっと解放された真治しんじは、安堵とも言えないため息をついた。

耳元で囁かれたら、誰だってああなってしまう。

別に、笙伍しょうごが気になっているからではない。

真治しんじは改めて自分に言い聞かせて、ノートの続きを写し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る