第11話

それからというと、笙伍しょうごとの距離が今まで以上に近くなった。

休憩の時はもちろん、お昼に部活、挙句の果てにはトイレに至るまで一緒なのだ。

これではまるで、真治しんじ奈沙なずなへ告白する隙をあたえないかのようだった。

今日、何度目になるか分からないため息をつきながら、部活の隙をついて図書室の方へと視線を向ける。

やはり、笙伍しょうごの言っていたことが未だに信じられずにいた。

彼女がクラスに対していい印象を持っていないなんて――。

クラスに馴染めずにいるのは単に内気な性格なだけ。

自分が直接聞いたわけでないから、そうやって都合のいいようにして言い聞かせていた。

「痛っ」

いつの間にか後ろに立っていたらしく、石沼いしぬまにラケットで背中を突っつかれた。

「お前、ボケッとしすぎ。ちょっと来い」

そう言って、石沼いしぬまは部室のある方向へと歩いていく。

真治しんじは、断ることも出来ずにただ後ろをついて行った。




「お前さ、最近ボーっとしてること多いけどなんか悩みでもあんの?」

部室に入るなり、石沼いしぬまは椅子にドカッと座りながら言ってきた。

先生も気にするほど呆けていることが多かったのか。

だが、まさか『笙伍しょうごに告白されたので、アイツのことを考えていた』なんては口が裂けても言えない。

「……別に、何もありませんよ」

真治しんじも近くの椅子に座りながら返事をした。

「あれだろ、恋の悩みだろ」

「はっ!?」

「なんだ、図星か」

お前は分かりやすいな、なんて笑いながら石沼いしぬまは言葉を返す。

「お前の好きな奴って誰?」

体を前かがみにして興味津々に聞いてくる。

「……学校にいる誰かですよ」

真治しんじはなるべく素っ気なく言い返す。

教えるつもりはないし、こんなこと言ったらイジられるだけだ。

「案外、矢木やぎとか気になってんじゃないのか?」

石沼いしぬまの言葉に真治しんじはドキリとした。

真っ先に、彼女の名前が出てくるとは思わなかったのだ。

「別に、そんなんじゃ」

「そうなのか。お前は矢木やぎの方ばかり見てると思ったんだけどな」

石沼いしぬまは顔をニヤつかせながら言葉を続ける。

気付かれないように盗み見ているつもりだったが、意外にも周りにバレているのかもしれない。

鈴木すずきも告白されてたし、若いっていいよな」

頭の後ろで腕を組み、その時のことを思い出しているようだった。

「告白、ですか?」

だが、真治しんじ笙伍しょうごからそんな話は聞いていなかった。

「あれ、そういった話2人はしないのか」

石沼いしぬまは拍子抜けしたようだったが、後に顔をしかめていく。

「これ、言っちゃまずかったかな」

はは、なんて笑いながら立ちあがった。

「とりあえず、学校生活も残り少ないんだからそういうことは早くスッキリさせろ」

だが、また授業とか部活ではボケっとするなよ、とだけ言い残し石沼いしぬまは先に部室を出て行った。

別に笙伍しょうごが告白されてたからなんだ。

自分には関係ないことではないか、なんで気にすることがあるんだ。

胸にモヤモヤした感情を抱えつつ、真治しんじも部活に戻るため外に出て行った。

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