第10話

真治しんじはろくに寝ることが出来ず朝を迎えていた。

笙伍しょうごに会いにくい、なんて理由で学校を休むわけにもいかず登校する。

だが、そういう時に限って一番会いたくない人に最初に会ってしまうのだ。

校門を抜け、校舎に入ろうとしたところで笙伍しょうごに遭遇してしまったのだ。

どんな顔をすればいいか分からず、今すぐにその場から逃げ出したくなる。

それを知ってか否か、笙伍しょうごは昨日のことなどなかったかのように笑顔で近づいてくる。

「おはよ、真治しんじ

あろうことか、そのまま笙伍しょうごは抱きついてきた。

思ってもみなかった行動に、真治しんじは固まってしまう。

「は、離れろよ」

やっと、頭に浮かんだ言葉を発しながら真治しんじ笙伍しょうごの体を押しのける。

それでも笙伍しょうごは笑顔を浮かべている。

真治しんじ、俺さ……」

そう言って、顔を近づけてくる。

「絶対に真治しんじのこと振り向かせてみせるから」

耳元でそうささやかれ、笙伍しょうごと目が合う。

真っ直ぐに目を見つめられて、真治しんじはとっさに逸らしてしまう。

何故か分からないが、自分でも分かるぐらい顔が赤くなっていた。

そのことを笙伍しょうごに気づかれないよう、早足で先に教室へと向かう。

男相手になんでこうなるんだ。

落ち着きたくとも、真治しんじの頬の熱はしばらく収まることはなかった。

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