第4話

部活が終わると自宅近くのスーパーに寄って帰るのが笙伍しょうごの日課だった。

笙伍しょうごの両親は共働きで家に帰ってくるのが遅い。

大学生の姉もいるのだが、今は海外留学をしている。

そのため、家事全般を笙伍しょうごがするようになっていた。

(今日の夕飯は何にしようかな)

そんなことを考えながら野菜とにらめっこしていると、視界の隅に見知ったものが映った。

何気にそれを目で追う。

(あ、矢木やぎさんだ)

クラスメイトでもあり、真治しんじの好きな子でもある人。

奈沙なずなを見つめながら、笙伍しょうごは部活の時に真治しんじと話した内容を思い出した。

笙伍しょうごにだって、好きな人ぐらい居るだろ?』

「……言えるわけないじゃん」

絶対に真治しんじにだけは知られるわけにいかなかった。

――真治しんじとの関係が壊れてしまうのが分かり切っていたから。

それが分かっているなら、何もしないで今までの関係でいた方がいいのだ。

真治しんじには告白しろって言っているくせに、自分がこれじゃ)

笙伍しょうごは苦笑いを浮かべる。

だが、本音を言ってしまえば真治しんじにも告白してほしくなかった。

友人としては応援せざるを得ない。

いつの間にか奈沙なずなの隣に見知らぬ女子がやってきていた。

知り合いのようで、奈沙なずなは学校では見せない笑顔を浮かべていた。

(まぁ、彼女にも友達の1人や2人いるか)

そう思いながら、笙伍しょうごは買い物を再開しようとしたが胸騒ぎのような違和感を抱いた。

そして、足先は奈沙なずなたちの方へ向けて歩き出していた。

笙伍しょうごは彼女らの話が聞こえる位置まで近づくと、陰に隠れて様子を疑った。

(って、これストーカーになってるじゃん)

こんなのが真治しんじにバレたら何を言われるか分からない。

そう思いながらも、笙伍しょうごは2人の話に聞き耳を立てる。

「あー、もうあんな学校嫌だ‼」

「また、その愚痴言ってるよ」

隣にいる友人は笑っている。

直感的に感じた違和感は未だ消えることはない。

――この2人の話を聞いてはいけない。

そんな気がしてならない。

「家から近いからあそこにしたけど、ほんとあのクラス最悪」

「相変わらず、クラスでは話さないんだ」

「あんなうるさい人しかいないクラスで同類と思われたくないもん」

奈沙なずなはクラスに馴染めないのではなく、馴染まないのか。

自分たちのクラスは個性的な人が多い方だとは笙伍しょうごも分かっていた。

授業中も賑やかにしているのも確かだ。

彼女には人を寄せ付けようとしない雰囲気があると思っていたが、まさか意図的に寄せ付けようとしてなかったとは。

笙伍しょうごは以前から奈沙なずなに違和感を抱くことがあったが、その正体が分かった気がした。

「となると、好きな人とかいないの?クラスの子とかさ」

――これは聞いてはいけない。

胸騒ぎが酷くなる。

「いるわけないじゃん」

――駄目だ、これ以上言うな。

「あんな、馬鹿騒ぎしかできないクラスにいるだけでうんざりしているのに。そんな奴らと付き合うなんて反吐が出る」

「じゃあ、告白されたらパシリにでもしたらいいじゃん」

「それいいね」

笑いながら話している2人。

彼女の予想もしていなかった言葉の数々に呆然といていた笙伍しょうごのポケットで携帯が鳴った。

取り出して画面を見ると、真治しんじからのメールだった。

「……うそ、だろ」

内容を読んで愕然とした。

メールは、奈沙なずなに告白するという内容だった。

今まさに、こんなことを聞いた後だ。

彼女が真治しんじの告白なんて受け入れても、全然好きと思っていない。

付き合って徐々に惹かれる、なんてことも今の話じゃないだろう。

本当にパシリにでもされそうだ。

――そんなことさせてたまるか。

真治しんじが傷つくと知っていて、告白の応援なんてできるわけがなかった。

そんなことになるぐらいなら、俺が――。

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