プロローグ2 『神様との契約』
インパクトの為だろうか。ページ背景は白一色で他には何も無く、淡白な印象を受ける。しかしそれに反し、中央にはギャップのあるどデカい丸文字で【神様との契約】と書かれていた。
意味の分からないサイトだなと思いつつも、可愛くデコられた下矢印にそってホイールすると、これまたキラキラとカラーリングされた文字で書かれた謎のURLがあった。
……ここで常人ならブラウザバックするだろう。しかし、やる事の無い“彼”は好奇心からそのURLをクリックーー商品名【願い】と、書かれたAmazoonのサイトに跳んだのだった。
「なんだよこれ……」
彼、
『この世界に完璧な人間などいない』
誰しも得手不得手があって、それらを周囲の人間と上手く調和しあって毎日を生きているのだ。それはごくごく普通のことで別段努力する問題でも無い。
しかし悟にはそれが出来なかったーー否、“出来なくなった”
中学2年の頃、彼は家の事情による突然の転校を強いられのだ。
ちょうど肌寒さを感じ始める11月の頭、くぐったことの無い見慣れぬ教室に立った彼は、既に形成されていた友達の輪に上手く馴染めずに孤立。
強固に連結された歯車の歯は彼にとってあまりに飛び込みづらく、あまりに早過ぎたのだった。
よくある話ではあるが、その時のことがトラウマとなって今もなお悟の心にすくい続けているという始末。
(俺はそんな自分を変えたいんだ!)
そう何度も思い立った悟だったが、前述したトラウマにより絶賛ぼっち&引き籠もり中である。
……たとえどんなに自分を変えたいと思っていても、いざ人前に出るとビビって喋れなくなってしまうのだ。
『神様降臨wwwwでふぅwwww』
『やばい、マジ神様!』
『試しにゴ○ィバのチョコ送ったら彼女出来たんだがww』
『↑嘘乙』
『親父の靴下着払いで郵送したら返送されて来たなう笑』
『嘘じゃなくてマジだよこのサイト』
試しにこの【神様との契約】というサイトについて調べてみたところ、どうやら自称“神”なる人物に向けてAmazoonで“供物”を配送すると、それに見合った願いをなんでも叶えてくれるらしい。
「……嘘くさ」
“この三年間幾度となく吐き続けてきた”嘆息。
……それにしても何という馬鹿馬鹿しい話だろうか。
「どうせこんなの送ったら最後、騙し取られるのがオチの詐欺サイトなんだろ……」
ポインタの先をウィンドウの【閉じる】へ動かしていく。
ーーでももし、もし本当に願いが叶うとしたら?
そんな藁にもすがるような程に追い詰められていた心が、いつの間にかマウスを動かす悟の手を止めてしまっていた。
……モニターから顔を離して部屋を見渡す。棚には目一杯にゲームが並べられて、あるいは積まれていた。
その中でも別格と言わんばかりに小さいショーウィンドウを携えた箱ーーその中に保管されている名作ソフトの数々と暫し見つめ合う悟。
(変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら……)
【俺を生まれ変わらせてくれ】
気付くとそう書いた手紙を、注文後送られてきた段ボールにゲームと一緒に詰めて返送していた。それは勿論、この胡散臭いサイトを信用した訳ではない。
いわばそれは“ケジメ”であった。
悟は自分を変える為に家から出ない一因であるゲームを捨てたのだ。詰まるところ、それはどちらに転んでも悟にとって良い選択のはずなのだ。
……出来れば叶って欲しい。が、叶わなくても構わない
(そうだ。これで良いんだ)
(これで……)
(……)
「ぐおおおおお!! 俺の一番大切な物をやったんだぞ! 等価交換だからな等価交換!!」
と、ネット弁慶な悟は吠えていた。
……しかしこの時、川奈 悟は想像もしていなかったーーそう。この選択が文字通り世界を揺るがす程の事態になるということを。
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