兵どもが夢の跡……
私が学生の頃、一本のアニメ映画が公開されました。その映画は何から何まで独自の設定で彩られ、完全な異世界をスクリーンに現出させていました。服装、文化、宗教、単位、貨幣の形も建物の造形も何から何までです。ここまで凝った作品を後にも先にも私は見た事がありません。唯一同じ意味で使われたのはパンくらいでしょうか?
その作品の名は『王立宇宙軍 オネアミスの翼』。
この映画を作るためだけに設立されたのがガイナックスです。映画が赤字だったのでその後も作品を作り続け、利益を出さなければいけなくなったと言う話はどこまでが本当だかは分かりません。とにかく当時の若いスタッフがその情熱を全て傾けて作りあげられたこの映画は、記録こそ作らなかったのかも知れませんが、見た人の記憶に残り、伝説を作ったのは言うまでもありません。
思えば宇宙飛行士が宇宙に飛び出す為だけの作品です。それだけの内容の為に全くの異世界を構築し、完全な別世界の物語として見る人にその世界を体感させる。これはアニメでしか出来ない事でしょう。ハリウッドなら分かりませんが……。
今でも一番のアニメ映画と聞かれれば私はオネアミスの翼を挙げます。そんな偉大な伝説を作ったガイナックスがピンチなんですよ。どうしてこうなった……。
6月23日(※執筆時)、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」や映画「シン・ゴジラ」の監督で知られる庵野秀明氏が代表取締役を務めるアニメ制作会社「カラー」が、庵野氏が以前在籍していた同「ガイナックス」に貸付金などの返済を求めた訴訟で、東京地裁立川支部は未払いの約1億円全額の支払いを命じる判決を言い渡しました。
カラーと庵野氏は2007年6月、ガイナックスなどとの間で、庵野氏が同社在籍中に手掛けた作品が商品化された場合、収入から一定の割合をカラーに支払うロイヤルティー契約を結びます。
更に14年7月には、カラーが貸し付けた1億円とロイヤルティーを合わせた1億4764万円について、ガイナックスが毎月200万円ずつ返済する契約も結びます。
この返済は20回行われたのですが、16年4月から滞納状態に陥り、1億256万円が未払いになっていました。
ガイナックスは最初から趣味人の集まりで、経営は常に不安定なものだったらしいです。それでも優秀なスタッフの居る内はピンチの度に起死回生の大ヒット作品に恵まれ、難を逃れてきました。
それが次々にスタッフが離れていき、元ガイナックススタッフが作った色んなスタジオが生まれていきます。ヒット作が出来たおかげで逆にガイナックス自体の屋台骨が揺らいで来たのです。
一番の稼ぎ頭の庵野監督がガイナックスから離れた時点で凋落は決定的なものになってしまっていたのでしょう。その後、グレンラガン、パンストなどを作ったスタッフがトリガーとして独立した時点でガイナックスの命運は尽きてしまいます。
ガイナックスのアニメは2015年の『放課後のプレアデス』を最後にもう作られていません。製作途中と発表されたものはありますけど。
『放課後のプレアデス』はとても質の高い作品で、ガイナックスまだままだやるじゃんと思ったものでしたが……(遠い目)。
経営が順調ならきっと返済金も払えていたはずでしょう。その金額が払えない時点でもうガイナックスの残りライフは0になっていたのだと思われます。
大人の対応としてちゃんとけじめをつけるために庵野監督は動いたと思うのですが、かつてガイナックスのピンチを救った監督が今度は引導を渡す感じになってしまったのは本当に残念ですね。
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