お魚くわえ……そっちじゃなかった

 今までそうだと思ったものが実は違うと知ったら大ニュースになりますよね。大体の物が確定している現代においてもそう言う事がたまに発表されます。

 いやぁ、世界は広いですねぇ。


 新種と言えば新たに発見されたもの、と言うイメージが大きいと思いますが、昔からある物が実は認定されていなかった、そう言うのも新種と言う事になるそうです。

 考えてみれば、その生物的には昔から生きていた訳で、見つかった瞬間に初めて生まれた訳じゃないですものね。

 ただ、そうは言っても馴染みのあるものが新種だと言われたら戸惑ってしまうのも仕方のない事ではあります。


 今日取り上げるのはそんなニュースです。


 5月19日(※執筆時)、岡山大の研究者が国内に生息するお馴染みの貝「サザエ」について、実は学名がない「新種」だった事を突き止め、それを発表しました。

 このサザエについて、今までは18世紀に欧州の学者が残したスケッチと記述をもとに付いた名が使われていたのですが、これが実は中国産サザエだったそうなんです。そうしてつけられた新学名は「サザエ」になりました。


 日本でサザエと言うと、貝の方ではなく国民的アニメを思い浮かべる人の方が多いかと思います。私もニュースの見出しを目にした時はまずそちらのイメージの方を頭に描きましたからね。

 しかしこの有名なサザエにそんな分類上のポカがあっただなんて、ちょっと意外でした。


 そもそもサザエは日本、韓国沿岸の種と、中国南部沿岸の種に大別され、とげの長さや並び方など外見で容易に見分けられるものだそうです。日本のサザエはこれまで1786年に英国の博物学者が付けた「トゥルボ・コーヌトス」とされていました。

 しかし、岡山大の福田宏准教授(貝類分類学)が原典をインターネットで調べたところ、そのスケッチは明らかに中国産の特徴を備え、産地も「中国」と書かれていたそうです。

 以降、1995年までにサザエについて記されたほぼ全ての文献を精査して、日本沿岸のサザエには正式な学名がない事を福田さんは論証しました。


 インターネットで分かる真実。よく言われる『ネットDE真実』はデマの代名詞としてよく使われる言葉ですが、ネットにも真実はあったんだよ! こんなに嬉しい事はない……(涙)。


 って言うか今でそれに気付かなかったって言うのも間抜けな話ですよね。アレでしょうか、イギリスの偉い人がそう決めたのだから間違いはないと盲信していたのでしょうか? とは言え、一度そう認定されると人は疑わなくなるものなのでしょうね。


 ――と、言うのは私の勝手な想像なんですが、福田さんによるとこうなった背景について、以下のように述べています。


 名前がなかった背景には、


 ・持ち帰られた標本を中心に研究された

 ・当時日本は江戸時代で鎖国をしており、日本のサザエが欧州人に入手困難だった

 ・ネットが普及するまでは古い文献の閲覧が非常に難しかった


 多分、一番最後の古い文献の閲覧が難しかった、これが一番のネックになっていたのでしょう。もうひとつ条件を加えるなら誰もサザエにそこまで注目していなかった、と言うのがある気がします。

 何故なら現代において調べられる条件が整っていても、福田さんが気付くまで日本のサザエについて他の誰も何の疑問も抱いていなかったのですから。福田さん、グッジョブです!


 福田さんは日本沿岸のサザエを「トゥルボ・サザエ」と命名。16日、国際学術誌に掲載されて正式名になりました。「こんな身近な貝に名前がなかったとは思わなかった」と驚いています。


 いやいや、このニュースを目にした日本国民全員が驚いていますよ! これはまさにびっくりニュースですよね!


 きっと今まで日本のサザエは中国のサザエって認識で学術書にも図鑑にもそう書かれていて、研究者の多くもそう言う認識だったのだと思います。

 実際に日本のサザエを研究していてあれ? もしかして違うんじゃね? とか一切の疑問は抱かなかったのかと思うと、日本の海洋研究者のレベルが心配になりますね(汗)。


 今頃はこの事実を元に各種資料が書き換えられるのでしょう。各種関係者の皆さん、大変だなあ。


 このニュースの功績のひとつに、新種と言う言葉の定義の認識が新たになったと言うのも挙げられます。今まで普通に目にしていたものの中に、実はまだまだ新種のものがあるのかも知れない、その可能性を感じさせるニュースでもありました。

 そう思うと何だか面白いと言うか、ロマンと言うか、夢がありますね。

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