そして僕らは
名無しの群衆の一人
序章
……あちこちに転がるさまざまな文献を読んでみると、人類が最後に体験した世界戦争は、とにかくひどいものだったらしい。
例えば地球は、とりあえず今はまだ『球』という形を守って未だグルグルしてはいたが、地球表土は昔のそれとほとんど違っていて、土は超高温兵器のおかげでほとんどが硬質ガラス化していたり、また海も、一部は完全に干上がって海底が露出していたり、もしくは大陸そのものがなくなったり、また別の場所では、新しい大陸ができたりしていた。
雨もなく、風もなく。
広大な荒れ地を覆うのは、放射能を帯びた真っ暗な雷雲と、成層圏のはるか上を覆う、白いぼんやりとした霞だけ。
太陽が雲に隠れてから、もう百年は経っていると思うが。
雲は、いつ晴れるのだろうか?
それを観察できる人間は、今はもういない。
「……あー。オッドボールツー、助けてくれ。暇すぎて死んじまう……」
でも人間はいた。
干上がった海から遥かに離れたガラスの荒野の奥の麓に、巨大な地下核シェルターを利用した巨大地下世界を築いていて。
地下深くで、未だどこかの誰かと戦争を継続しながら、人類最後の楽園を楽しんでいる。
『……』
「だーれかいないのかーぁ……」
外部との通信が途絶えて、もうずいぶんと久しい。
外部に生やした通信アンテナから外に向かって『誰かいますか』の通信を打ち続けても、誰からも何も返ってくる訳でもなく、人類は見えない絶望と共に地の底に向かって繁栄の矛先を向けているわけだが。
でもそれは、いつも地表を駆け回っている磁気嵐のせいでもあって。
人類は、自分たちが地球に遺された最後の人類である事を、未だ知らないまま休戦状態を継続しているわけだが。
「ホントにこんな空に誰かいるのかよー。ええー? カズマーぁ」
―他の土地に存在する『敵性地下コロニー群』は、実はずっと前に消滅してしまったらしい―
まことしやかな噂が、もうずっと前から町に流れてもいる。
『……』
敵のない戦争を続けることに、何か意味なんてあるのだろうか。
経済は停滞し、スラム化した闇区画は増えていく一方。
地球最期の人類達は、暗い地下世界の閉ざされた世界で、未だ見えない敵との戦いを繰り広げていた。
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